映画と遜色のないクオリティと映像美が魅せる渾身のドラマ

 裁判長から死刑判決を下された被告人・田中幸乃は、ざわつく法廷で表情を変えることなく、「生まれてきて、すみませんでした」と言った。元カレの妻・美香と双子の幼子を焼死させた放火殺人の裁判。自分の存在を全否定するような言葉は、謝罪なのか、それとも同情を集めたかっただけなのか。

 第68回日本推理作家協会賞・長編及び連作短編集部門を受賞した、早見和真のベストセラー小説「イノセント・デイズ」をドラマ化。それを強く望んだのはWOWOW連続ドラマW初出演となる妻夫木聡だという。早見和真との付き合いは、2014年の映画「ぼくたちの家族」から始まった。

 「早見さんの小説のなかで、一番大好きな作品が『イノセント・デイズ』でした。人間にとって幸せとは何か。幸せの定義を求められた時、僕には答えがなかった。この小説を読んだ時から、映像化するには難しい題材だと思いつつも、ドラマでじっくり演じてみたいと強く願うようになりました」

 妻夫木聡のこの思いを受け止めたのが石川慶。昨年公開の映画「愚行録」で妻夫木聡とタッグを組んだ今注目の若手監督だ。その石川監督は、今回のドラマに関して、「世間に蔓延している正義や倫理観に対する僕の違和感に、同い年でもある原作者の早見さんが言葉を与えてくれた」と話す。

 死刑囚・田中幸乃を演じるのは竹内結子。妻夫木聡とは連続ドラマとしては「ランチの女王」(2002年)以来の共演になる。

 「初めて台本を読んだ段階で、幸乃という女性の生き方や人間性に興味を持ちました。誰かに必要とされたい気持ちの強い女性ですよね。その幸乃が死刑確定後に、まるで荷物を下ろせる場所をようやく見つけたかのような安堵の気持ちでいる。彼女にとって重要なのは真実ではなく、早くその日を迎えること。そんな気持ちが見えた時、悲しくなりました」

 女性犯罪者の死刑判決に、世間は大騒ぎになった。マスコミは連日、殺人鬼と化した幸乃の人生を創作し続けた。筋書は、17歳でホステスだった未婚の母が産んだ子供で、養父の暴力を受けて育ち、中学時代に不良グループで暴れ、強盗致傷事件を起こして児童自立支援施設に入所した。勝手にドラマ化し、目撃者の「あんな人非人、絶対に死刑にするべきです。神様が許しません」と断罪するコメントを垂れ流した。画面を飾ったのは〈整形シンデレラ放火殺人〉というセンセーショナルな言葉。事件前に整形手術を受けていたのがその理由だが、でも、何のためにわざわざ高額の手術を受けたのだろうか。

 そんな幸乃にも幸せな時間があった。両親と姉・陽子の家族4人で平穏に横浜で暮らし、近所の子供達と〈丘の探検隊〉を組んでよく遊んでいた。年上のお兄さん達は、持病のある幼い幸乃を優しくかばってくれた。そのひとりが佐々木慎一(妻夫木聡)だった。彼には母の死後、祖母・田中美智子に引き取られていく幸乃を助けてあげられなかった負い目と、もうひとつ幸乃との間にある秘密があり、それを十字架のように背負って生きてきた。そして、幸乃の裁判を傍聴し、匿名で綴られた「ある死刑囚との日々」というブログに興味を持つなかで、いつしか「彼女は犯人じゃないのでは」という疑念を抱くようになる。

 そんな佐々木慎一と小学校卒業以来の再会を果たしたのが、探検隊の仲間のひとりで、弁護士になったばかりの丹下翔(新井浩文)だ。彼もまた事件に疑問を抱くようになり、2人で真実を負っていく。

 幸乃は、警察の取り調べでも、裁判でも一度も反省や謝罪の言葉を述べることなく、ただ殺害を認めただけだった。判決後も控訴することなく、拘置所でひたすら死刑執行日を待つだけ。その姿に何かを感じるようになったのが刑務官の佐渡山瞳(芳根京子)だった。

 ほかにも豪華共演者が大勢いる。余貴美子、ともさかりえ、長谷川京子、といった実力派がWOWOWならではの真に迫る人間ドラマを描いている。

 


WOWOW「連続ドラマW イノセント・デイズ」
出演:妻夫木聡、竹内結子、新井浩文、芳根京子 ほか
原作:早見和真「イノセント・デイズ」(新潮文庫刊)
企画:妻夫木聡、井上衛、鈴木俊明
監督:石川慶(「愚行録」)
脚本:後藤法子(「嘘の戦争」)
音楽:窪田ミナ(「連続ドラマW 東野圭吾「変身」」)
企画協力:新潮社
製作:WOWOW、ホリプロ
◎3月18日(日) WOWOW プライムにて放送スタート! 毎週日曜夜10時~(全6話)
www.wowow.co.jp/dramaw/innocentdays/