INTERVIEW

国府達矢『ロックブッダ』 10年以上に渡る苦闘がついに実を結んだ音の曼荼羅

国府達矢『ロックブッダ』 10年以上に渡る苦闘がついに実を結んだ音の曼荼羅

10年に渡る苦闘がついに実を結んだ音の曼荼羅。呪いを祝福に変えたオリジナリティーの塊を聴け!    

 アーティストにとって、作品は祝福にもなれば呪いにもなる。国府達矢は10年以上に渡って一枚のアルバムと闘い続けてきた。98年にMANGAHEADとしてメジャー・デビューした彼は、2001年に国府達矢として再出発。2003年に発表した『ロック転生』が高く評価されたものの、次のアルバム『ロックブッダ』に取りかかった時、想像を超える苦闘が待ち受けていた。その経緯を、彼はこんなふうに振り返る。

国府達矢 ロックブッダ felicity(2018)

 「2011年にリリースする予定で動いていたんですけど、自分が思う最低限のところにも達することができなくて、作業は泥沼化して最後には廃人状態。3年くらい死んでました。2015年頃にようやく身体を動かせるようになってリハビリでアルバムを2枚作ったんですけど、『ロックブッダ』が大きな光なら、その2枚は影みたいな関係で、出すのなら3枚続けて出したほうがいいと思ったんです」。

 2011年と2013年に完成直前までいきながら、内容に納得できずに世に出せなかった『ロックブッダ』。それが3度目の正直でついに完成した。制作に着手したのが2005年頃というから、実に13年がかりのプロジェクトだ。その結果、完成したのは、東洋的な旋律や変拍子がロックな躍動感のなかで渾然一体となり、オルタナティヴな実験性とポップな輝きに満ちたオリジナリティーの塊のようなサウンド。それは挫折から生まれたものだった。

 「MANGAHEADとしてデビューして3か月で挫折したんですよ。自分なりに〈こうすれば売れるんじゃないか〉と思っていたやり方ではうまくいかなかった。頭の中が真っ白になった時に、アジア的な旋律が突然生まれたんです。僕は京都で生まれて奈良で育ったんですけど、意識していないところでそうした音楽が肉体に刻み込まれていたのかもしれないですね。それで、アジア的なものに立脚して音楽を考えてみようと思い付いたんです」。

 そして、民謡をはじめとする日本固有の音楽を聴き込むなかで、「そういったものが本当にカッコイイと思えるようになった時から世界が大きく変わった」と言う。

 「日本人なら黒人のマネをしてヴィブラートを効かせて歌うより、コブシを回して歌ったほうが身体が喜ぶんじゃないかとか。自分の中から自然に出てきたものに、思い付きのものも採り入れていきました。ただ、そこで単純な足し算になるのは嫌で、本質的なところでちゃんと混ざらないとダメだと思っていました」。

 また、本作のサウンドをさらにユニークなものにしているのがリズム・セクションだ。skillkillsのスグルスキル(ベース)とリズムキルス(ドラムス)が参加。変拍子のリズムが強烈なグルーヴを生み出すなか、そこに国府の突拍子のないギターのリフが加わって、異形のバンド・サウンドが構築されている。

 「曲を書いた2005年頃って、とにかく普通の曲は作りたくなかったんです。今だったら、音が良ければシンプルな曲でも強度のある音楽を作れると思うけど、当時は刺激的でインパクトのある曲を作ろうと思っていて。まずギターのリフから考えるんですけど、普通に弾いてもつまんなくて、僕の中にいる鬼が〈ダメだ〉って言うんです(笑)。その鬼が納得するまでおもしろいリフを考える。ただ、気を抜くと何かのフォーマットに回収されてしまうんですよね。レッチリが見えてきたりすると、そっちにいったらヤバいとか(笑)。そうならないために、強烈な意志と自意識が必要でした」。

 そうやって鍛え上げられた曲の骨格を、豊かに肉付けしているのが四方八方から降り注ぐ眩いばかりの音だ。これまでの仕上がりに納得できなかった最大の理由とも言える音に対するこだわりが、ここで鮮やかに実を結んでいる。

 「2013年以降、エフェクト類の音をかなり足してます。その頃からエンジニア的な聴き方をするようになったことで、音にやたらこだわるようになって、やりたいことがどんどん増えていった。それで泥沼にはまってしまったんです。今回は何ができるのか見据えたうえで取り組んだのと、機材が進化したことでようやく折り合いがつきました」。

 頭の中で思い付いたサウンド・ヴィジョンを、絵としてスケッチすることがあるという国府。『ロックブッダ』は長い時をかけて描き込んだ音の曼荼羅であり、メジャー・デビューの挫折を経て「本当にやりたい音楽をとことん追求したい」という思いに駆られた国府が、ボロボロになりながら辿り着いた新境地だ。それは彼が特別な作品として挙げる3作品、ニルヴァーナ『Nevermind』(91年)、レディオヘッド『OK Computer』(97年)、ジェイムズ・ブレイク『James Blake』(2011年)に対する挑戦とも言える。

 「自分としては5年とか10年じゃなく、1000年、2000年の尺度でアルバムを作ったつもりです。気が付いたら十何年かかったけど、一人の人間の人生の十何年でこういうものが出来たとしたら決してコストとしては高くはないと思うし、自分の人生を賭けても惜しくないプロジェクトでした」。

 自分を引退寸前まで追い詰めた呪われた作品を見事に成仏(完成)させた国府。今後、その〈影〉にあたる完成済みの2作のリリースも予定しているらしいが、ひとまず『ロックブッダ』は国府の人生を、そして日本のロックを祝福するアルバムだ。

関連アーティスト
GR'18