COLUMN

ゴート・ガールは本物か? 音楽ライター2人が大激論

ゴート・ガール『Goat Girl』&南ロンドン特集:後編

Photo by Hollie Whitaker

 

ゴート・ガールの初作『Goat Girl』と、彼女たちが拠点にしている南ロンドンの音楽シーンをフィーチャーした特集企画。インディーやグライム、ジャズなどさまざまなジャンルで同時多発的に刺激的な磁場が誕生しているさまを俯瞰的に捉えた前編に続き、この後編ではいよいよ本記事の主役――ゴート・ガールを検証する。

シェイムやファット・ホワイト・ファミリーらと同様にヴェニュー〈Windmill〉を中心に活動。サイケやエクスペリメンタル、ジャズなど多様な音楽性を、不穏で荒々しいガレージ・サウンドに流し込んでいるゴート・ガール。フランツ・フェルディナンドらの作品で名を馳せるダン・キャリーをプロデューサーに迎えた『Goat Girl』では、都市生活者の目線からいまロンドンで起こっていることを描いたという。全19曲という大作となった同アルバムを軸足に、近藤真弥と照沼健太がバンドの本質へと迫った。 *Mikiki編集部

GOAT GIRL Goat Girl Rough Trade(2018)

 

『Goat Girl』は新しいのか?

近藤真弥「ゴート・ガールのアルバム『Goat Girl』を聴いて連想したのは、LAのロック・シーンです。具体的には、ガン・クラブというブルージーなパンク・バンドが82年に残した『Miami』というアルバムが頭によぎった。彼らは83年にハシエンダでライヴをやってるから、イギリスの人たちもコミットしやすいのかも(笑)。パラノイズ、ウォーブリー・ジェッツ、L.A.ウィッチといった、近年のLAロック・シーンを盛り上げているバンドに通じるラウドなサウンドも印象に残りました。13thフロア・エレベーターズやモビー・グレープといった、初期のサイケデリック・バンドのフィーリングも見出せますね」

照沼健太「僕にとってゴート・ガールは、アーシーでフォーキーな楽曲をポスト・パンクっぽくやってるという印象です。正直、南ロンドンのインディー・ロック界隈のなかでは、自分としてはそんなにピンと来ないサウンドでもあるんですが」

近藤「ポスト・パンクは同感です。アーシーでフォーキーな部分はバーズなどのフォーク・ロックの要素を感じる。“Lay Down”とかは特にそうですね。それから、“Salty Sounds”のビートはスーサイドみたいでおもしろい。僕が参加したヤング・ファーザーズの新作『Cocoa Sugar』をテーマにした対談で天井潤之介さんも語っていたように、スーサイド再評価の波が本格的に来ているのかも。たとえば同じシーンのバンドであるシェイムは、フォールといったUKロックの色が強いけど、ゴート・ガールはUS寄りですよね。“Burn The Stake”にはクランプスといったサイコビリーを感じますし。照沼さんとは違って、僕はゴート・ガールはかなり掘りさげ甲斐のあるバンドだと思ってます」

照沼「いや、掘り下げ甲斐がないとはまったく思いませんね。ピンと来ないサウンドこそが重要なので。そもそも、健全なインディー・ファンからは怒られそうですが、自分としては彼女たちゴート・ガールは〈ルックスほかバンドの持っている雰囲気や佇まい〉が好きって感じでした。ただ、そんなアイコニックな存在感だけでなく、アルバム用にキャッチーなキラーチューンをいくつか隠し持ってもいて、一気に突き抜けるのかも?という期待もあった。

しかし、完成したアルバムはとんでもなくぶっきらぼう。リリックも楽曲も投げっぱなしの全19曲。〈これは新しいのか……も……?〉という戸惑いしかない。もちろん、そうした戸惑いを投げかけてくるアーティストは重要です。まあ、それは別として、自分もブルース的な要素はすごく感じました。僕はボブ・ディランを連想したんですが、それは曲としてだけでなく、ストーリーテリングの部分でも」

近藤「うーん……投げっぱなしとは感じませんでしたけどね。いまのイギリスのハードな状況を反映した作品だし、ちゃんと対象が見える歌詞が多い。“Burn The Stake”の〈下院議員の恥ずかしいレイプが暴かれた〉という一節は、女性秘書に性的な遊具を買わせていたというマーク・ガルニエのスキャンダルを連想させますし」

照沼「言葉選びこそ明確だけど、〈だから何なんだ?〉という印象を残す物語が十数曲入っているという感じがしたんですよね。楽曲的な部分では、オフィシャル・インタヴューでクロティ(・クリーム)が言っていた〈皆それぞれ音楽活動はしていて、私はジャズっぽい音楽を、ネイマとエリー(L.E.D)はフォークっぽい音楽をやってた。で、それを合わせていくうちにゴート・ガールの音楽がもっとロックっぽくなっていったのよね〉って発言がすごく興味深い。折衷していくとロック化したっていう」

 

シャッフル世代的な折衷感覚と、時流を捉えた問題意識

近藤「そういえば、メンバーのエリーがSpotifyのプレイリストを公開してましたね。これを参照すれば、『Goat Girl』は理解しやすいかも」

照沼「このプレイリストはわかりやすいですね」

近藤「たとえばPJハーヴェイにしても、インダストリアルなビートが印象的な“My Beautiful Leah”を選んでるのはおもしろいと思います。アルカ、シュラムパイツィガー、ブラック・デヴィル・ディスコ・クラブも選んでるし、エレクトロニック・ミュージックの影響は想像以上にデカそうですね」

照沼「アルバムでは、チープな打ち込みっぽいドラミングが印象的だったんですけど、このプレイリストではロバート・ワイアットなどにそうした部分も伺える気がします」

近藤「チープな打ち込みでいうと、アンテナの“To Climb The Cliff”を選んでるのが目を引きました。彼らは80年代のニューウェイヴ・バンドだけど、2006年にヨアキムとトッド・テリエが“Camino Del Sol”をリミックスしたことも手伝って、2000年代に再評価されたんですよ。その背景には、ミニマル・ウェイヴがカルト・ニュー・ウェイヴをたくさんリイシューしていた影響もあるけど、その流れがチープな打ち込みに繋がっている気がします」

照沼「確かに。しかし、年齢的にはほぼ全部後追いですよね」

近藤「後追いゆえに、すべての音楽を素材として等しく扱っている。まるでヒップホップの手法ですよね。サンプリング的にさまざまな要素を組み合わせている。こうしたモダンなセンスをもっとも感じるのは“Viper Fish”ですね。この曲のドライな質感のドラムはマーティン・ハネットのプロダクションみたいでおもしろいんだけど、途中でラウドなブルース・ロックになるし、スカ・カッティング的なギターもある。おまけにベースはジャズっぽい。ひとつひとつのパーツに込められた要素は異なりながらも、それらを組み合わせて曲として成立させることができるセンスは、アダム・モーゼスが言うところのシャッフル・ジェネレーション的ですよね。ジャンルの境界線が明確でなく、ゆえにいろいろな音楽を自然と聴いている世代。

彼女たちはオフィシャル・インタヴューで〈歌詞よりもメロディーのほうがおもしろい〉と言っているけど、僕は歌詞もおもしろいと思う。たとえば“Burn The Stake”。曲名は〈火刑〉という意味で、欧州において火刑は、ジャンヌ・ダルクなどがそうだったように、宗教的異端者や魔女への罰としておこなわれた歴史があるじゃないですか。そうした宗教的モティーフを歌詞に入れてくるところが、ゴート・ガールというバンド名をふまえてもすごく興味深い。というのも、新約聖書において山羊(Goat)は、善の象徴である羊に対する悪の象徴として扱われているから。そう考えると、ひたすら暴飲暴食するだけの“Scum”のMVは、七つの大罪における〈暴食〉がモティーフなのかな?とか、いろいろ繋がってくる。

“The Man”のMVはビートルマニアの熱狂をパロディーしているけれど、女性ではなく男性がキャーキャー言っている男女逆転の構造なんですよね。そうすることで、〈男らしい〉とされている要素を持つ女性はいるし、〈女らしい〉とされる要素を持つ男性もいるという、いまだ根強い男女の性役割にまつわる固定観念や偏見に対する批判を投げかけている。同じく男女逆転させたチャーリーXCX“Boys”のMVと同様の問題意識がありますね」

 

南ロンドンのロック・シーンはいまだ正体不明

照沼「ゴート・ガールのアルバム、自分は正直まだよくわからないです(笑)。でも、そこがおもしろい。注目されているシーンのバンドが〈これがそれなのか?〉という疑問を生む作品を放り込んで来た。それだけでエキサイティングだと思います。

さっきのプレイリストにも表れていますが、フォークやエレクトロニック、インダストリアル、クラウトロックなどをバンドで料理すると自然とポスト・パンクっぽくなった。近藤さんが指摘された〈シェイムはUKロックっぽいけど、ゴートガールはそうではない〉っていうのは、このあたりが肝なのかなという気がします。あらゆる音楽がバンド演奏でミックスされると、自然と国籍感が希薄となり、手触りはポスト・パンクっぽくなるという。〈Windmill〉界隈が、それぞれの音楽性は違えど、基本的にポスト・パンクという点で共通しているのはそういうことなのかもしれないなと感じました」

近藤「あけすけなことを言ってしまうと、現段階では南ロンドンのロック・シーンに特定のカラーはないんですよね。ゴート・ガール、シェイム、ファット・ホワイト・ファミリー、HMLTD、ブラック・ミディといったバンドが続々出てきてるから〈南ロンドンが熱い!〉となっているけれど、これらのバンドにサウンド面での共通点は薄い。ゆえに明確な繋がりを見出せなくて、メディアやレーベルは売り出し方に苦労するんだろうけど(笑)、そうした正体不明なところがおもしろさに繋がっている。

そのうえで言うと、ゴート・ガールには南ロンドンのロック・シーンの方向性を定める働きが期待できる。ここまで僕たちが語ってきたように、彼女たちは音楽的な語彙が豊かで、それをちゃんと活かせば長く活動できるだけのポテンシャルを持っているように思います。そして、その過程で南ロンドンのロック・シーンの特徴を決定づけるマスターピースを残しても不思議じゃない」

 


Live Information
Goat Girl Japan Tour 2018

2018.06.27 (水) 大阪 CONPASS
OPEN 19:00 / START 19:30
前売¥5,500(税込/別途1ドリンク代) ※未就学児童入場不可 
CONPASS: http://www.conpass.jp  

2018.06.28 (木) 渋谷 WWW
OPEN 19:00 / START 19:30 前売 ¥5,500 (税込/別途1ドリンク代) ※未就学児童入場不可
WWW: http://www-shibuya.jp  

チケット情報
4/9 (月) 12:00 〜 4/15 (日) 18:00 イープラス・プレイガイド最速先着先行受付[http://eplus.jp/]
4/17 (火) 12:00 〜 4/20 (金) 18:00 イープラス・プレオーダー (先着) [http://eplus.jp/]
4月21日 (土) 一般発売 イープラス [http://eplus.jp/] ローソンチケット 0570-084-003 [http://l-tike.com] チケットぴあ 0570-02-9999 [http://t.pia.jp/] BEATINK.COM
企画・制作:BEATINK 03-5768-1277

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