ゴート・ガール
Photo by Hollie Whitaker

 

南ロンドンの音楽シーンが注目を集めている。Mikikiでは、ギター・バンド、シェイムの初作『Songs Of Praise』を採り上げた記事で、ヴェニュー〈Windmill〉を拠点とする若手バンドの盛り上がりを紹介。シェイムと双璧の存在感を放つガールズ・バンド、ゴート・ガールが先日デビュー・アルバム『Goat Girl』をリリースしたことで、さらに重要スポットとして浮かび上がってきている。しかしながら、南ロンドンの熱はインディー・ロックにとどまらない。来日公演を控えているロイル・カーナーやオクタヴィアンらラップ/グライム勢、先日リリースした初作『Geography』が話題のトム・ミッシュやプーマ・ブルーら現行ソウルの担い手たち、さらにBrownswoodのコンピレーション『We Out Here』(2018年)がパッケージした新世代のジャズ・シーンなど、多くのエキサイティングな磁場が生まれているようだ。

今回、Mikikiでは『Goat Girl』のリリースを機に、南ロンドンへと熱い視線を注いでいる2人の若手音楽ライター、近藤真弥と照沼健太による対談を前後編に分けて掲載、彼らが同地のシーンに興味を抱くようになった経緯や、いま聴いておきたいアーティスト/追っておくべき潮流について語ってもらった。 *Mikiki編集部

GOAT GIRL Goat Girl Rough Trade(2018)

 

ダブステップ~キング・クルールを経て、また何か起きつつある現在

近藤真弥「僕は南ロンドンに注目するようになってから、けっこう長いです。というのも、2000年代前半頃にクロイドンからダブステップが出てきたから。ブリアルも南ロンドンだし、ペッカムのギグスといった、今のUKドリルに繋がるロード・ラップの動きもあったので、南ロンドンの動きは定期的にチェックしていました」

※ロンドン南部の街

照沼健太「ダブステップは大きかったですね。ブリアルとかスクリームはそれこそ最初から聴いてておもしろがってましたが、ブロステップとかと混同されるようになったあたりで一度引きました。ベタですが。インディー的にはXXやズー・キッドあたりのダブステップ的な要素を含んだ連中が出てきたときは盛り上がりましたが、その時点ではあくまでサウンドの部分であって地域というポイントでは特に注目しませんでしたね。それこそ南ロンドンのインディーが気になりだしたのは昨年からでしょうか」

近藤「僕の場合、今みたいにさまざまなシーンから刺激的なアーティストが出てくる前触れを感じたのは、キング・クルールの『6 Feet Beneath The Moon』が出た2013年です。ブルース、ジャズ、ポスト・パンクが下地にありながら、ダブステップやレゲエにも影響を受けたようなプロダクションが南ロンドンから出てきて、これは何かあるなと直観的に感じました。そのあと、ケイト・テンペストが『Everybody Down』という傑作を2014年にリリースしたのも驚きだった。彼女は南ロンドンで育ったアーティストですからね。ただ、その時点では予感でしかなかった」

近藤「確信に変わったのは2014年の年末年始です。このとき、プラスティック・ピープルのクロージング・パーティーがあって、そこで遊ぶためにロンドンへ行ったんです。そのとき現地の友だちに〈南ロンドンがおもしろいから行っといたほうがいい!〉と言われて、行きました。そこで、南ロンドンの音楽シーンでハブ的な存在になっている、レコードショップのYAMライ・ワックスを教えてもらいました。ライ・ワックスはクラブでもあって、ジャム・シティーといったナイト・スラッグス周辺の人などもそこでプレイしたことがあるらしい」

※ダブステップ誕生の場所と言われるクラブ

 

音楽以外のカルチャーも巻き込む、シェイムやゴート・ガールら〈Windmill〉界隈

照沼「自分が南ロンドンという地域自体に興味を持ったきっかけは、それこそシェイムやHMLTDに代表される、〈So Young Magazine〉※や〈Windmill〉をハブとした〈インディー・ロック〉文脈ですね。もちろんそれまでクラブ/インディーどちらもアーティスト単体でおもしろい存在はいたけれど、そこまでシーンとして目立った印象はなかったので。やっと久しぶりにシーンっぽい束感が出てきたなーという感じです」

※南ロンドンを核に、アンダーグラウンドなバンド・シーンやアートを紹介している雑誌

近藤「バンドでいうとどのあたりですか?」

照沼「シェイム、ソーリー、デッド・プリティーズ、ゴート・ガールとかですね。自分としては、シーンというのは基本的に地元の人たちが作るべきだと思っているので、日本の東京に住んでいる外野の立場として、ひとまずは彼らがシーンとしてプレゼンテーションしたものを受け取りたいという感じです。〈So Young Magazine〉はまさしくそのプレゼンを担っているのかなと」

近藤「プレゼンテーションで言うと、フォトグラファーのホリー・ウィテカーもデカい存在だと思います。彼女はゴート・ガールをはじめ、シェイム、ファット・ホワイト・ファミリー、HMLTD、キング・クルール、ジャークカーブといった南ロンドンのアーティストを撮ってきた。フィーバー・レイのライヴ写真を〈ClashMagazine〉に提供するなど、最近は売れっ子みたい(笑)。〈So Young Magazine〉のエディターであるサム・フォードやゴート・ガールの友人たちが立ち上げたFemmeというZineにも写真を提供していて、現地の繋がりを作るのに貢献している」

照沼「そこにいるのはミュージシャンだけじゃないし、アーティスト本人もそのことに自覚的なことが、シーンとして成り立っていきそうだなという印象を強めています。VICEに掲載された記事でもシェイムのメンバーが周辺のグラフィック系やメディア系の人脈について紹介していますが、フォトグラファーのルー・スミスはアーティストの写真だけでなくYouTubeチャンネルを通して〈Windmill〉ほか地元ヴェニューでのライヴ映像を頻繁にアップしていて、シーンを盛り上げようとしているのを感じます」

実を言うと、僕はサウンド的には〈Windmill〉界隈のロックよりも、アフロ・バッシュメントやグライム、UKラッパー勢のほうが好きなんです(笑)。ただ彼らはあえて群れないのか、そういうハブが不足しているのか、シーンとしてはプレゼンテーションしていないのが興味深いですね」

※アフロビートとダンスホールを合わせたサウンド。J・ハスやノーツが代表アーティストとして知られる

近藤「僕としては、プレゼーションしているグライムやUKラッパー勢もいる印象ですけどね。エド・シーランと共演したストームジーは、同じく南ロンドンを拠点に活動するジョルジャ・スミスの”Let Me Down”に客演で駆けつけているし、デイヴもサッカー選手のダニエル・スターリッジと一緒に写真を撮るなど、セレブリティーの世界に南ロンドンの風を吹かせている(笑)」

 

My bruddas @santandave @nanarogues

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トム・ミッシュやコスモ・パイクに見る、越境の可能性

照沼「ただ、インディー・ロック界隈とラップ界隈がくっつかないとおもしろくないなーということをいちばん思ってます。それこそニュー・レイヴの頃、結局クラクソンズのようなバンドとジャスティスのようなクラブ・アクトがいまいちミックスしないで終わったように。バンド自体はフロアを意識したサウンドを鳴らしていながらも、クラブで流れるのはあくまでリミックスだったし、エロール・アルカンも07年頃には完全フロア向けのエレクトロDJ化してしまっていた 。勝手に期待しすぎた部分があるのかもしれませんが、せっかく境界を曖昧にするようなムーヴメントだったのでそこが残念だったんですよね」

近藤「エロールがエレクトロDJ化したというのは、さすがにアレだと思いますよ(苦笑)。ロック色は薄くなっていったけれど、ハウスやヒップホップなど本当にたくさんの音楽をミックスしていたし、その方向性は今も深化してますから。異なるとされている界隈の交流は、ロイル・カーナーとトム・ミッシュなどすでにあります。前者はヒップホップ/グライムで後者はジャズだけど、トム・ミッシュはジャズ・シーンを越えて、それこそインディー・ロック好きの人たちも含めた幅広い層から支持されている。デビュー・アルバムの『Geography』では、ジャズだけでなくフィラデルフィア・ソウル、ハウス、ディスコの要素なども前面に出していて、越境的な姿勢が進化してますし。

ミックスという点でいえば、コスモ・パイクにも可能性を感じます。インディー・ロックの文脈に受けそうな音をやりつつ、グライム集団のアミ・ボーイズに参加するなど、シーンを跨いだ活動をしている。2017年のEP『Just Cosmo』も、レゲエやスカ、2トーン、ヒップホップ、ジャズが織り成すたおやかなサウンドが心地よかった。彼はグライムやインガ・コープランドを聴くいっぽうで、ジョニ・ミッチェル、マイケル・ジャクソン、リバティーンズなどを愛聴してきたそうです。フレッドペリーのモデルも務めるなど、ファッション界からも注目を集めてますね」

アミ・ボーイズの2018年の楽曲“Zebadee”。下手後方、ドレッドの青年がコスモ・パイク
 

照沼「自分もコスモ・パイク、プーマ・ブルー、オクタヴィアンには可能性を感じます。プーマ・ブルーはどちらかというとジャズ文脈で取り上げられている印象がありますが、キング・クルールのようなポスト・ダブステップ感のあるインディーとして聴いても違和感がない」

近藤「プーマ・プルーはすごく良いですよね。彼は村上春樹に影響を受けていて、『SWUM BABY』(2017年)というEPのジャケには吉行耕平の写真を使ってるから、日本でも受けそう。別名義のルビー・ブリエルスのサウンドは、プーマ・ブルー名義での音源以上にキング・クルールに通じるもので、実験的な曲が多いのもおもしろい。照沼さんも言ったように、プーマ・ブルーは南ロンドンのジャズ・シーンを盛り上げている1人だけど、アメリカのハードコア・バンド、ショー・ミー・ザ・ボディーやジェフ・バックリィーへの愛情を公言するなど、コスモ・パイクと同様にかなり多彩なバックボーンを持っている。アンディ・ギル(ギャング・オブ・フォー)のギター・プレイにも影響を受けてるとか」

照沼「オクタヴィアンは、フランス生まれでロンドンの南東育ちのラッパー兼トラックメイカー。グライム以前の2ステップやUKガラージの雰囲気が漂うハウシーなトラックが耳を引きますし、ドレイクやPitchforkも注目していますね。いまあげてきた3組は、あらゆるジャンルのリスナーから支持される可能性も持っているが、ともすれば全員から無視されるかもしれない……という絶妙なラインで越境している。非常にエキサイティングだと思いますね」

近藤「正直、現段階ではオクタヴィアンにそこまで可能性は感じません。ただ、最近公開された“Hands”は興味深いと思いました。通常のヴォーカルと極端に変調させたヴォーカルを繋ぎ、そうすることで曲の軸となるメロディーを紡ぐという構造がおもしろい。

それは歌というより楽器と呼ぶべきもので、それこそボン・イヴェールやジェイムス・ブレイク以降における〈ヴォーカルの在り方〉の流れに位置する。でも、そこにオクタヴィアンなりのオリジナリティーがあるかというと、そうでもない。

僕にとっては、ジョルジャ・スミスが興味深いです。彼女のことは、2016年に発表したシングル“Blue Lights”で知りました。ディジー・ラスカルの“Sirens”をサンプリングしたこの曲では、甘美なエレピをバックに、エモーショナルな歌声を聴かせてくれる。エイミー・ワインハウスを引き合いに語られることも多いせいか、一般的にはソウル/R&Bシンガーと認知されているけど、ジョージ・ザ・ポエット、ドレイク、ストームジー、ケンドリック・ラマーなどとコラボしていることからもわかるように、すでに国やジャンルを越えて評価されている。そうしてポピュラリティーを獲得しつつ、グライム〜UKガラージ界隈のプレディターと組んで“On My Mind”を発表するなど、イギリスのシーンもちゃんと見ている。同じく南ロンドンから出てきたジェシー・ウェアやケイティー・Bが到達できなかった高みに行けるんじゃないかと思ってます」

照沼「あと、キング・クルールがどんどん存在として大きくなってきてる印象ですね。当初は突然出てきた天才みたいなイメージだったけど、ここにきてその周りが繋がってきている印象。彼はBRITスクールでロイル・カーナーとも同級生なんですよね。オクタヴィアンもBRITスクールだし、同校にもあらためて注目すべき時期ではないかな」

 


Live Information
Goat Girl Japan Tour 2018

2018.06.27 (水) 大阪 CONPASS
OPEN 19:00 / START 19:30
前売¥5,500(税込/別途1ドリンク代) ※未就学児童入場不可 
CONPASS: http://www.conpass.jp  

2018.06.28 (木) 渋谷 WWW
OPEN 19:00 / START 19:30 前売 ¥5,500 (税込/別途1ドリンク代) ※未就学児童入場不可
WWW: http://www-shibuya.jp  

チケット情報
4/9 (月) 12:00 〜 4/15 (日) 18:00 イープラス・プレイガイド最速先着先行受付[http://eplus.jp/]
4/17 (火) 12:00 〜 4/20 (金) 18:00 イープラス・プレオーダー (先着) [http://eplus.jp/]
4月21日 (土) 一般発売 イープラス [http://eplus.jp/] ローソンチケット 0570-084-003 [http://l-tike.com] チケットぴあ 0570-02-9999 [http://t.pia.jp/] BEATINK.COM
企画・制作:BEATINK 03-5768-1277