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ダンサーでも俳優でもない唯一無二の表現者〈森山未來〉へ―「談ス・シリーズ 第三弾」ツアーがスタート

Exotic Grammar Vol.56-1

「談ス・シリーズ第一弾」より ©matron2015

ダンサーでも俳優でもない唯一無二の表現者〈森山未來〉へ

 森山未來は、10代でデビューして以降、数々の話題作に出演してきた。映画、ドラマ、演劇、ミュージカル、ダンスなど、各ジャンルで多くの賞を受賞し評価も人気も圧倒的だった。そのさなかの2013年、突然イスラエルへ1年間ダンスカンパニーで活動することを決める。帰国しては事務所から独立し、独自の道を歩み始めた。森山未來はダンサーになるのか? そんな声も囁かれて3年。今年は、森山が帰国してから地道に蒔いてきた種が芽吹き始めた……そんな年になりそうな予感がする。

 2018年の幕開けとなったのは、1月の舞台「プルートゥ PLUTO」。手塚治虫の「鉄腕アトム」をベースにした浦沢直樹の漫画の舞台化で、2015年の初演に引き続き森山は主演をつとめ、イギリス、オランダ、ベルギーでもツアー公演をおこなった。4月には出演するNHK「オドモTV」がスタートし、2019年大河ドラマ「いだてん」がクランクイン。5月からは談ス・シリーズ第3弾の全国ダンスツアーが控え、6月には映画「Vision」(河瀬直美監督)が公開される。その間にもCMや舞台で踊り続けている。

 今、森山は事務所に所属せず、仕事は自分で決め、現場では誰にでも笑顔で挨拶し、関西弁で気さくに話しかける。手探りで進むのは苦しいだろうが、幼い頃からずっと、表現することはやめない。

  始まりは3歳だった。マイケル・ジャクソンの来日公演をきっかけに、姉に続きダンスを習う。5歳からジャズダンス、6歳からタップダンス、8歳からクラシックバレエとヒップホップを始め、15歳でミュージカル「ボーイズ・タイム」(宮本亜門演出)でデビューして、19歳の時にドラマ「WATER BOYS」のメインキャストとして一躍人気を集めた。翌年、映画「世界の中心で、愛をさけぶ」に主演し、映画各賞を受賞。その後も映画「僕たちの戦争」「その街のこども」「モテキ」「北のカナリアたち」「苦役列車」などで、つねに話題にのぼる存在となった。

 出演映画が次々と各賞を受賞していく中、舞台にも立ち続ける。年に数本の演劇やミュージカルに出演しているうち、転機となったのは、2013年のミュージカル「100万回生きたねこ」。演出はインバル・ピント&アブシャロム・ポラック、イスラエル出身のコンテンポラリーダンスユニットだ。この2人との出会いがなければ、森山が芸能活動を離れてイスラエルに行くことはなかったかもしれない。

 森山は各所で自分のことを「ダンサーとも、俳優とも言い切れない」と言ってきた。そんな森山は、既存のダンスの創り方とは異なり、型やリズムにとらわれない動きをするコンテンポラリーダンスにのめり込む。「30歳になる前に一回踊りだけに向き合える時間を作りたいなと思っていた」と言う森山は、2013年に文化庁の文化交流使として、1年間イスラエル・ベルギー・ヨーロッパを拠点に活動することを決めた。もともと森山の表現のスタートはダンスである。それが目にとまったことで、ドラマや映画へと活躍の幅を広げてきた。ダンスから始まった森山の表現者としての人生が、再びしっかりとダンスと向き合う時間を得たのだ。

 イスラエル滞在の様子は、NHKのディレクターから小型ビデオカメラを渡された森山が“自撮り”した映像をもとにドキュメンタリー番組「森山未來 踊る阿呆」として放送された。そこには、手ブレの多い慣れないカメラワークで、踊ったり、料理をしたり、飲んだり、ダンサー仲間とふざけたり語り合ったりする様子が映っている。突然、道の真ん中でダンスを始めるシーンもある。道行く人は、踊っているのが誰かは知らない。近所に住む日本人、くらいにしか思っていないのかもしれない。日本だと〈森山未來だ!〉となるだろう。誰も自分を知らない場所だからこそできる表現を楽しむ森山は、映像の終盤、「ノスタルジーだと思ってもらえればいい」と前置きをしながら、「強烈に日本に帰りたくない。単純に純粋におもしろい仕事だけをやりたい。でも、日本でそういうふうに生きていける自信がない」と部屋で一人涙ぐむ。森山未來として積み重ねてきたからこそ、何者でもない存在として踊ることは日本では難しい。「でも、やっていかなきゃいけない」と言う声が響く。

 それから3年半。帰国した森山は、ダンス公演やダンスシーンのある演劇の舞台に立ち続けた。以前よりも身体を使った表現が増え、ダンスの企画や振付も手がけた。同時に、以前ほどの数ではないが映像にも出演し、2016年の映画「怒り」(李相日監督)では第40回日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞した。

 これから森山未來はどうするのだろう。ダンサーとして活動しながら俳優として映像も出演するのかとも思えたが、森山の存在が独自のものになりつつあるのが、今まさにこの時ではないか。最近になり、映像の中でも踊っている彼の姿を目にするようになった。

 4月からスタートしたEテレ「オドモTV」内では、演出家の岩井秀人、シンガーシングライターの前野健太とともに子どもが書いた作文を子どもの朗読に合わせて動き、ものがたりを演じる。思わず笑ってしまう番組は、放送直後から〈おもしろい〉と人気だ。この企画は2017年2月に舞台で上演されており、起承転結もなにも関係のない子どもたちの発想を3人の大人が歌って踊って喋ってと右往左往しながら本気でパフォーマンスし、会場は大人も子どもも笑いで溢れた。また2018年2月に公開されたMobil 1のプロモーション映像では、渡邊琢磨の音楽にあわせて、疾走するスポーツカーとともにレース上のど真ん中で一人踊る。幼い頃から学んできたジャズでもタップでもバレエでもモダンでもない、あえてジャンル分けをすればコンテンポラリーダンス。映像の中で躍動する森山未來。ジャンルも媒体も超えたその活動は、ダンサーでも俳優でもなく、なにかの肩書きにははめられない。イスラエルでは誰も彼を知らないという意味で、森山未來は何者でもなかった。しかしおそらくこれからの日本では、誰も彼にはなれない唯一無二の存在として、森山未來は何者でもなく、“森山未來”という表現者なのではないか。

 まもなく5月からは、談ス・シリーズ第3弾が始まり、全国17ヶ所でダンス公演をする。タイトルの四文字は発音が決まっておらず、好きに呼んでいいとのこと。遊び心と、問いかけが込められている。この談ス(読み:ダンス)は2016年に、大植真太郎、森山未來、平原慎太郎の3人で作ったパフォーマンスがシリーズ化したものだ。〈談合〉と〈ダンス〉を掛け合わせた言葉で、3人で話し合う中で動きのヒントが生まれていく。広いスタジオで稽古をしていても、踊らずに話すだけで時間が過ぎてしまうこともあるという。まさに、談×ダンス。

 その創作過程は、森山がコンテンポラリーダンスに惹かれた理由にも近いのかもしれない。多くの踊りは、基本の型があり、練習を重ねてそれを身につけていく。しかし今の森山が踊るダンスにはなんの決まりもなく、どう踊ってもいい。談スの稽古場では3人がネタを出し合い、まとまってくると〈ちょっとやってみようか〉と動いてみて、また話して、を繰り返し作品が生まれていく。森山は3人の中で一番若いが、冗談を言い合うと明るい2人に話題を振ったり、話をまとめたりと、舵を取ることも多い。そんな森山を面白そうに見ている2人。男3人が真剣に遊びながらつくった舞台は、ふざけたり飛び跳ねたり考えたりと、賑やかで楽しい。今回はより多くの人に出会えるようにと、第1弾よりも公演地が増えている。

 映像でどんなに活躍しても、舞台に立ち続けてきた森山。身体を動かす森山からは、どこまでも高く飛べそうな身軽さと、〈もっと遠くを〉と見据える苦しみのようなものが感じられる。着実に地面を踏むからこそ、高く飛べる。踏みしめるその瞬間は、目の前で時間を積み重ねる生の舞台を目撃すれば、強い実感を持って感じられるだろう。そこに表現者〈森山未來〉がいる、と。

 


森山未來(Mirai Moriyama)
84年、兵庫県出身。様々な舞台、映画、ドラマに出演する一方、ダンスパフォーマンス作品にも積極的に参加。2013年秋より1年間、文化庁文化交流使としてイスラエルに滞在、Inbal Pinto & Avshalom Pollak Dance Companyを拠点にベルギーほかヨーロッパ諸国にて活動。演劇、ダンスといったカテゴライズに縛られない表現者としてのあり方を日々模索中。映画「怒り」にて第40回 日本アカデミー賞助演男優賞受賞。第10回 日本ダンスフォーラム賞 2015受賞。 miraimoriyama.com

 


寄稿者プロフィール
河野桃子(Momoko Kawano)

ライター/編集者。桜美林大学にて演劇、舞台制作、アートマネジメントを学び、卒業後は週刊誌や経済誌などのメディアで記者、編集者として活動。現在は主に商業演劇を中心に、小劇場、ダンスなどのインタヴューや公演記事を執筆している。高知県出身。

 


CINEMA INFORMATION

映画「Vision」
監督・脚本:河瀬直美 音楽:小曽根真
出演:ジュリエット・ピノシュ/永瀬正敏/岩田剛典/美波/森山未來/田中泯/夏木マリ/他
配給:LDH PICTURES
◎6月8日(金)全国公開
vision-movie.jp/

 


LIVE INFORMATION

「談ス・シリーズ 第三弾」
構成:大植真太郎
振付・出演:大植真太郎/森山未來/平原慎太郎
○5月15日(火) 19:00 なかのZERO 小ホール(東京都)
○5月16日(水) 19:00 まつもと市民芸術館 実験劇場(長野県)
○5月19日(土) 15:00 町田市民ホール(東京都)
○5月20日(日) 15:00 りゅーとぴあ・劇場(新潟県)
○5月21日(月) 19:00 埼玉会館 大ホール(埼玉県)
○5月22日(火) 19:00 電力ホール(宮城県)
○5月24日(木) 19:00 札幌市民ホール(北海道)
○5月26日(土) 15:00 ウインクあいち 大ホール(愛知県)
○5月27日(日) 15:00 兵庫県立芸術文化センター阪急中ホール(兵庫県)
○5月29日(火) 19:00 あわぎんホール(徳島県)
○5月30日(水) 19:00 岡山県天神山文化プラザ(岡山県)
○5月31日(木) 19:00 JMSアステールプラザ 中ホール(広島県)
○6月1日(金) 19:00 ロームシアター京都 サウスホール(京都府)
○6月2日(土) 15:00 大阪ナレッジシアター(大阪府)
○6月4日(月) 19:00 都久志会館(福岡県)
○6月6日(水) 19:00 グランシップ中ホール・大地(静岡県)
○6月7日(木) 19:00 よみうり大手町ホール(東京都)
○6月8日(金) 19:00 よみうり大手町ホール(東京都)
○6月9日(土) 13:00/17:00 よみうり大手町ホール(東京都)
○6月10日(日) 13:00 よみうり大手町ホール(東京都)
○6月11日(月) 13:00 よみうり大手町ホール(東京都)
www.dansu2018.com/

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