SPANK HAPPY 夏の天才 TABOO (2018)

2018.05.30

数多い菊地成孔の過去のバンド/プロジェクトのなかでも、独特な熱をもっていまだ支持されているのがSPANK HAPPY――とりわけ99年から2004年の間、ヴォーカルの岩澤瞳と菊地のデュオ形態で活動していた〈第二期SPANK HAPPY〉だろう。

当時のエレクトロ・クラッシュ・ブームと並走しつつもマニアック過ぎる80年代リヴァイヴァル・ワークスや、家電メーカーのOL→オーディションで採用されたヴォーカル・岩澤瞳のキュートな声とキャラクターは、例えばアーバンギャルドやBiS(初期に“エレガントの怪物”をカヴァー)など、その後のバンド~アイドル・カルチャーにも強く影響を与えている。とりわけ、第二期スパンクス最後の作品“普通の恋”(〈菊地成孔 feat. 岩澤瞳〉名義)は、ゼロ年代のある種の空気を象徴するアンセムとしていまなお熱く支持されており、中古マーケットではシングルCDがプレミア価格で流通している。

もっとも、菊地成孔自身は、SPANK HAPPY(+最初の単著「スペインの宇宙食」)の話をいつまでもしている己のファンを冗談めかして〈カソリック〉と呼んであしらっているが……。岩澤瞳はSPANK HAPPYの脱退とともに音楽業界からも去り、その後SPANK HAPPYは紆余曲折を経て活動停止。

〈本当はSPANK HAPPYをやって欲しいが、再結成はまずなさそうなので、その後の菊地成孔の仕事を追ってSPANK HAPPYの片鱗を見出そうとしている〉というファンがどのくらいいるのか? それはわからないが……菊地がプロデュースしたシンガー/作曲家・小田朋美のファースト・アルバム『シャーマン狩り』(2013年)では第二期SPANK HAPPYの“Angelic”がカヴァーされ、またJAZZ DOMMUNISTERSのセカンド『Cupid & Bataille, Dirty Microphone』(2017年)では、こちらもスパンクス時代の名曲“Riot In Chocolate Logos”がラップでセルフ・カヴァーされるなど、ごくわずかにでもスパンクス時代が振り返られるたびに、〈カソリック〉は淡い期待を抱いたとか、抱かないとか、それもわからないが……(ここ数年の菊地の仕事の充実ぶりを考えれば、それは全体のうちのほんの小さなギミックだと思うが)。

そして今回、12年ぶり(!)に復活した〈最終SPANK HAPPY〉は、菊地成孔が運営するレーベル、TABOO所属アーティストが集結したフェス〈GREAT HOLIDAY〉でのお披露目ライヴ&菊地が長年愛してやまない伊勢丹とのタイアップ、という絶好のシチュエーションとともに新曲をドロップ。それが今回配信される“夏の天才”だ。

“夏の天才”は謎めいた新人ボーカルOD(漢の次は練マザファッカーって、イカついとこばっか行くなあメーン←それはD.O)と菊地のデュエットで、PCMドラム・マシーンを前面に押し出したデイム・ファンクふうのトラックに大村孝佳のギターがドライヴする、2018年にSPANK HAPPYが始動するならこれしかないと思わせるクールなモダン・ファンクとなっている。

全編を通して菊地成孔と女性ヴォーカルのユニゾンという構成――この10年の、オートチューンやボーカロイドの一大ムーブメントに対するアンサーとも取れる――も過去になく、新しく公開されたアーティスト写真(ODと菊地成孔が二人とも揃いのワイシャツ&アイウェアでシルエットを統一)も併せて、菊地が長年こだわっている〈双子座性〉をいつになく強く打ち出しており、過去のSPANK HAPPYとはまた違う局面を見せてくれそうだ。

〈夏の魔物〉をはじめ、フェス&ライヴ出演も多数予定しているという最終SPANK HAPPY。80年代なら79年に、90年代なら89年に、前ディケイドの最後の年の事象に次ディケイドのキーが隠されていると菊地成孔は過去に語ったが、テン年代も終わりに向かういまこのタイミングで復活した意味は、〈カソリック〉に限らず今後注目すべき事案だろう。

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