INTERVIEW

蓮沼執太フィル『ANTHROPOCENE』 個性派揃いのアンサンブル・プロジェクトが鳴らす、〈多様性〉という名のハーモニー

蓮沼執太フィル『ANTHROPOCENE』 個性派揃いのアンサンブル・プロジェクトが鳴らす、〈多様性〉という名のハーモニー

さまざまな形態で活動する音楽家のアンサンブル・プロジェクトが鳴らすのは、〈多様性〉という名のハーモニー。16人が等しく立つ豊かな音の共鳴はたまらなくエキサイティング!

 電子音楽を出発点に、作品ごとにさまざまなアプローチで音楽と向き合ってきた蓮沼執太。そんななか、2010年頃からスタートさせたのが、大編成のアンサンブル・プロジェクト、蓮沼執太フィルだ。2014年に同名義での初めてのアルバム『時が奏でる』を発表。それから4年ぶりの新作『ANTHROPOCENE』が完成したが、本作は予期せぬ発見から生まれたアルバムだったらしい。その背景を、蓮沼はこんなふうに振り返ってくれた。

蓮沼執太フィル ANTHROPOCENE コロムビア(2018)

 「『時が奏でる』をリリースし、全国ツアーを回ったことで、蓮沼フィルというプロジェクトは完結したと思っていたんです。でも、去年の2月に青山スパイラルホールで久しぶりにフィルのコンサートをして、来場者に新曲“Meeting Place”の音源を配って。そこでリハ、ライヴ、レコーディングを3年ぶりくらいに一気にやったら、みんなの音の変化に驚いたんですよ。時間が経過したことでメンバーそれぞれが変化したこと、そして、メンバーとの関係性の変化が音に表れていた。そこに感動しました。新曲の感触も素晴らしくて、これは何か新しいことができるんじゃないかと思ったんです」。

 現在、蓮沼フィルは16名のミュージシャンによって構成されていて、イトケン、大谷能生、木下美紗都、ゴンドウトモヒコ、環ROYなど、ジャンルも世代もばらばら。「多様性を肯定すること」が蓮沼フィルのコンセプトだが、新作ではメンバーそれぞれの個性にフォーカスにした曲作りが行われたという。

 「前作はいろんな人が集まって演奏すること自体が重要だと思っていたので、ある程度、僕がヘッド・アレンジをして、細かいアレンジは各セクションに任せていた部分もありました。曲が出来たら、その曲に必要なパートに入ってもらうという〈曲ありき〉の作り方だったんです。それが今回は、メンバーのことを意識しながら、〈人ありき〉で書いています。そこは大きな違いですね。例えば4人で合奏する時、誰がその曲をリードしていくかなど。そのへんは曲を書きはじめる前の段階で意識していましたね」。

 そして、そうした変化は、当然の如くサウンドにも影響を与えることになった。

 「前作のように全員でひとつの塊のようなダイナミックな音を作るというより、全員の音が聴こえる、メンバーひとりひとりの顔が見えるような曲を書いて、アレンジをしていきました。展開が多くてシーンが次々に変わるような曲だったり。そうするために、まず曲の骨格や構造から作り上げていったんです」。

 蓮沼フィルのユニークさは、そうした楽器のアレンジの多彩さに加えて、蓮沼と木下のヴォーカルや環ROYのラップも、楽器のひとつのようにアンサンブルのなかに組み込んでいること。「〈歌と伴奏〉という関係ではなく、歌も楽器も平等なんです」と蓮沼は言うが、歌には楽器にはない〈歌詞〉という言葉がある。そこについては、どんな点に気を配っているのだろう。

 「(ソロ名義の)前作の『メロディーズ』で初めてシンガー・ソングライター的な曲の作り方をしたんです。つまり音と言葉を合わせる、という作業をしてみたんですけど、この作り方にすぐ飽きてしまって(笑)。だから、今回は自由に作曲をしました。J-Popのマナーから外れた譜割りだし、普通使わないような言葉を歌詞に取り入れたりしています。歌詞というより〈散文〉という感じですね。曲を書いていた時期はNYにいることがほとんどだったのですが、離れているからこそ現代の社会において見直したほうがいいと思うようなことを日々メモしていて、それをもとに歌詞を書きました」。

 そうした独自の手法に加えて、ライヴを前提に曲を書いていることも蓮沼フィルの特徴だ。メンバーが担当とは違うパートを演奏する“centers #2”や、詩人の山田亮太とのコラボ・パフォーマンスを発展させた“TIME”など、演奏方法やコンセプトなどさまざまな要素が曲に加わることで、通常のポップソングとは違った広がりを生み出している。しかし、宅録というひとりの世界からスタートした蓮沼にとって、〈フィル〉という集団で行うプロジェクトは試行錯誤の連続だった。

 「ソロ用の曲を作るときは、無限の可能性があるんですよ。どんどん自分のインナーに入っていく作業です。でも、フィルの場合は他者と演奏するので、コミュニケーションが行われ、発生する音も限られてくるので有限なんです。メンバーのスケジュールを調整するのも大変で時間も制限される(笑)。最初はそういうことに多少イライラしていましたけど、今ではそういう手間がかかるような時間も楽しめるようになりました。今の世の中って、そういう不合理なものって排除してしまいがちです。でも、視点を変えて、そういう不合理さの積み重ねが人生を豊かにするひとつの要素でもあると思うんですよね」。

 8月18日に東京のすみだトリフォニーホールで行われるコンサートでは、オーディションで募った10人のミュージシャンを加えて、26人編成で演奏をする予定だとか。クラシック向けの大ホールで演奏するにあたって、「音を聴くこと自体も僕らが作り出す音楽の一部だと思っています。当日はオーディエンスも含めて空間全体で音を鳴らしたいと思っています」と抱負を語ってくれた。ジャンルや世代、さらにプレイヤーとリスナーの垣根も越えて、一緒に響き合う音楽。それが蓮沼フィルの奏でる〈多様性〉というハーモニーなのだ。

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