ウィーン生まれのマルチな音楽家、ドリアン・コンセプトことオリヴァー・トーマス・ジョンソンがブレインフィーダーと契約し、新作『The Nature Of Imitation』をリリースした。ドリアン・コンセプトといえば、microKORGを超絶技巧で演奏する動画が話題を呼んだミュージシャン、という印象の方も多いかもしれない。

あれから12年。サンダーキャットの『The Golden Age Of Apocalypse』(2011年)を含む数々の重要作への参加やフライング・ロータスのライヴ・バンドでの活躍、そして自身のアルバム『Joined Ends』(2014年)の制作などを経て、ドリアン・コンセプトは音楽家として大きな飛躍を遂げた。そんな彼が満を持してリリースするのが本作だ。

フライング・ロータス、サンダーキャット、ジョージ・クリントン、ロス・フロム・フレンズジェイムスズーと共に〈SONICMANIA〉で来日公演を行うブレインフィーダーの新たな看板アーティストに、八木皓平が迫る。 *Mikiki編集部

DORIAN CONCEPT 『The Nature Of Imitation』 Brainfeeder/BEAT(2018)

〈室内楽〉を掲げた前作『Joined Ends』、DE DE MOUSEら日本の作家との共振

ドリアン・コンセプトの待望の新作『The Nature Of Imitation』について語る前に、いまいちど前作『Joined Ends』と向き合うことで、彼の音楽性について整理しよう。彼自身が〈室内楽〉と称した前作『Joined Ends』で展開されているエレクトロニック・ミュージックは、ビートが目立ったナンバーがほぼ存在せず、室内楽的な要素が様々なレヴェルで見て取れるものだった。

例えば収録曲“Nest Nest”の至るところに、ストリングスや金管楽器をはじめとした様々な楽器の音色や室内楽的な楽曲構造との類似を発見することができる。シンセサイザーのリズミックな刻みからはストリングスを、柔らかなシンセ・フレーズのリフレインからはフルートを連想したとしても特に不思議はないし、それはむしろ意図的と考えてしかるべきだ。

2015年作『Joined Ends』収録曲“Nest Nest”

こうした室内楽的な要素が際立ち、ビートの要素が少ないエレクトロニック・ミュージックは、欧米ではマイノリティーであるといえるだろう。『Joined Ends』は、エクスペリメンタル・ミュージック(アンビエント/ドローン/電子音響)、ビート・ミュージック(EDM、ダブステップ、ドラムンベース……etc.)、あるいはハウス~テクノなど、エレクトロニック・ミュージックの主な区分のどれにも、どこか収まりが悪い。

とはいえ、ドリアン・コンセプトの音楽は決して孤独ではない。『Joined Ends』(もちろん新作『The Nature Of Imitation』もだ)は、日本で独自の進化を遂げた奇形的なエレクトロニック・ミュージックと親和性が高いからだ。例えばそれは、DE DE MOUSEであり、Serphであり、日本を代表するエレクトロニック・ミュージックのレーベル、PROGRESSIVE FOrMに所属する一部の音楽家が作る音楽だ。

DE DE MOUSEの2013年作『to milkyway planet』収録曲“milkyway planet”

Serphの2011年作『Heartstrings』収録曲“luck”

yuichi NAGAOの2016年作『Rêverie』収録曲“Ending Story feat Shinobu from Her Ghost Friend”

上掲の音楽家たちは、『Joined Ends』と共鳴する室内楽的なエレクトロニック・ミュージックをその音楽性の特徴としている。日本におけるこうした室内楽的なエレクトロニック・ミュージックの受容は、「ドラゴンクエスト」(すぎやまこういち)や「ファイナルファンタジー」(植松伸夫)をはじめとしたシンフォニックなゲーム・ミュージックが日本人の音楽観に少なからず影響を及ぼしていることと関係があるのではないかとぼくは考えているが、それについては、今回はひとまず置いておこう。ここで重要なのは、ドリアン・コンセプトの音楽を日本における特異なエレクトロニック・ミュージックと同じフォルダに入れることで、彼の音楽性が格段にクリアになるという点だ。