INTERVIEW

ロス・フロム・フレンズ『Family Portrait』 ロンドン発、ブレインフィーダー気鋭ビートメイカーをTAMTAM・高橋アフィが解説!

Photo by Fabric Bourgelle
 

2018年に創立10周年を迎えたフライング・ロータス率いるレーベル、ブレインフィーダー。〈LAビート〉とも呼ばれるジャンルないしシーンを切り開いてみせたレーベルだが、近年はカマシ・ワシントンの『The Epic』(2015年)やサンダーキャットの『Drunk』(2017年)など、ヒップホップやエレクトロニック・ミュージックの範疇に留まらない傑作を発表してきた。今後もドリアン・コンセプトやノウワーのルイス・コール、ブランドン・コールマン、ジョージア・アン・マルドロウの作品をリリース予定で、8月17日(金)に開催される〈SONICMANIA〉にはフライング・ロータスらが出演と話題に事欠かない。

そんなブレインフィーダーが新たに送り出すのが、南ロンドンを拠点とするロス・フロム・フレンズことフェリックス・クラリー・ウェザオール。80年代のレイヴやハイエナジーからの影響下でロウ・ハウス/ローファイ・ハウス、ヴェイパーウェイヴを通過したダンス・ミュージックを生み出す、弱冠24歳の気鋭プロデューサーだ。

ロブスター・テルミンなどアンダーグラウン・レーベルからシングルを発表していた彼だが、4月の『Aphelion EP』に続き、いよいよデビュー・アルバム『Family Portrait』をリリース。〈SONICMANIA〉にも出演する彼のフレッシュだが謎めいたその音楽性を、新作『Modernluv』が話題を呼ぶTAMTAMのドラマー=高橋アフィが紐解いた。

ROSS FROM FRIENDS Family Portrait Brainfeeder/BEAT(2018)

ダンス・ミュージックだけど超音響寄り

――アルバムをお聴きになっていかがでしたか?

「一聴して、すごく変な音楽だなと思いました(笑)。〈ビート・ミュージック直球〉という感じではないし、いわゆるハウスとも違う。ヴェイパーウェイヴっぽさはあるんだけど、それだけでもないし、そのどれとも違います。

CDの帯に〈レイヴ生まれハイエナジー育ち〉と書いてありますけど、そういう音楽と強い関連性を感じさせながら、また違う音楽にまとめあげている。だから、どういう人なんだろう?と(笑)。〈ブレインフィーダーからのリリース〉という言葉から想像できる、どの音とも違って驚きました」

――不思議な音楽ですよね。彼はイングランド南東部のブライトリングシー出身で、現在は南ロンドンを拠点にしているのですが、その点でもブレインフィーダーとしては異色です。

「とはいえ聴き込むと、精神的な共振は感じられますね」

――本人もブレインフィーダーがすごく好きで、それを意識して作品を作ったと語っています。でも、レーベルのカラーや枠に収まりきらない音楽性でもありますよね。

「ブレインフィーダーって〈ビートの新しさ〉が指標のひとつであるアーティストが多いと思うんですけど、ロス・フロム・フレンズはリズム面では意外にどシンプルで、そのぶん音の作り方や扱い方で勝負しているように聴こえます。そこがレーベルとしても、音楽の特徴としても、革新的だと思います。5曲目の“Project Cybersyn”なんてまさに!」

――ちょっと聴いてみましょう。“Project Cybersyn”です。

「曲調はミュンヘン・ディスコなどの昔のディスコ系とも言えるんですが、この〈ドンドコドンドコ〉みたいなリズム・パターン、めちゃくちゃイナタいですよね(笑)」

『Family Portrait』収録曲“Project Cybersyn”
 

――確かに(笑)。

「リヴァイヴァルなどでかつての音楽に再び取り組むとき、ダサい音色をカッコイイ和音やリズムで鳴らすことで新しく聴かせるというのが多いと思うんです。ヴォコーダーやアナログ・シンセの再ブームなんてまさにすで、音色を保ったまま現行の和音やリズムにフィットさせてますよね。あるいはループでヨレたリズムを強調することで新しくしたり。

でも、ロス・フロム・フレンズはダサいリズムをそのままカッコよく聴かせるための技を持っているのが革新的だと思います。こういうやり方もありなんだ!って。リズムをヴェイパーウェイヴやロウ・ハウス的にこもらせて、ビートをちょっと後退させることで独特な雰囲気を出しています。そういう意味では、ダンス・ミュージックだけど超音響寄り」

――ビートの〈後退〉とは、背景化しているという意味ですか?

「そうです。〈リズムはトピックではなくなっている〉と最近、柳樂光隆さんがジャズについて言っていますけど、ロス・フロム・フレンズの作品でもすごくリズムは地味で、音をこもらせるのと同時にグリッドに乗せて、〈鳴ってて気持ちいい〉くらいまで溶け込ませるというか。

そのリズムの選択が独特で、彼は〈黒歴史的な〉というか、ちょっとギリギリなリズムも積極的に使っているんですよね(笑)。リズム単体で解析すると〈うわー!〉ってなっちゃって、自分でアレンジするなら現代のリズムの要素を入れたくなってしまうような曲もあって」

――なるほど。

「ただ、彼のすごいところは、それすらも楽曲の要素にしちゃって、あえて〈昔こういうの流行ってたよね〉というリズムをそのまま使うことによって、ポジティヴな郷愁やメランコリックなムードを出しているんです。音のテクスチャーによって新しく聴かせることできるんだなと。アルバム制作が長期間だったとインタヴューで語ってるんですけど、音の処理に時間をかけたのかも。

そのポジティヴな使い方がヴェイパーウェイヴとの違いで、シニカルさが感じられないんですよね。ヴェイパーウェイヴって〈かつてのダサい流行〉みたいに、ネタっぽく使うじゃないですか」

――どこか皮肉っぽいんですよね。

「そうそう。ロス・フロム・フレンズも過去の作品ではそういう感じもあったんですけど、今回のアルバムでは素直にカッコよさを出している感じですね。そういう意味では、まさしくイマの世代だなあと。

最近、そういうふうに感じたアーティストはトム・ミッシュやジョーダン・ラカイなんです。彼らは〈昔のソウル・ミュージックを復活させたい!〉っていうわけでもなくて、かつて流行った音楽を自分なりにそのままやるみたいな感じ。レア・グルーヴを掘っていくというよりも、〈YouTube世代〉でぜんぶ一緒に聴くというか、現行のひとつの音楽として昔のソウルなどを聴いている印象です。だから自然とアップデートしていますよね」

 

ローファイだし踊れる音楽

――仮にヴェイパーウェイヴが〈ネタ〉だとしたら、ロス・フロム・フレンズは〈ベタ〉だと言えるかもしれません。初期のヴェイパーウェイヴのプロデューサーは彼より少し年上でしょうし、その微妙な差も感じます。

「ロス・フロム・フレンズは若いからこういう音楽ができるのかな……そう考えると悔しいですね(笑)。例えば、6曲目の“Family Portrait”はトリップホップっぽいリズムと暗いコード進行で、ひさびさにこういうのを聴いたなと思ったんですけど、でも嫌な感じがぜんぜんしない。いまのパーティーでかけたら良い感じに鳴るようにまとめているところは、ただの〈リヴァイヴァル〉じゃないんですよね」

――〈レイヴ生まれ〉というのも、ご両親がヨーロッパを旅しながらレイヴをやってたんですよね。先日公開された“Pale Blue Dot”のビデオも、その旅で母親が録った素材を使っている。そういう音楽がDNAに染み込んでいるんでしょうね。

「生まれてからずっとダンス・ミュージックに触れてたんでしょうね。しかも、どの音楽もポジティヴに聴けていたんだろうなと思います。〈これはダサい〉とか思わず、現場が盛り上がっていることをよしとする、みたいな」

『Family Portrait』収録曲“Pale Blue Dot”
 

――そういったなかでも彼の音楽の特徴は、やはりローファイな質感だと思います。ここまで頻出しているヴェイパーウェイヴやロウ・ハウス/ローファイ・ハウスとの関連で、質感についてはどういったことが言えそうですか?

「カッコイイ音色を純粋に使っているところは、確実にそれらの音楽からの影響でしょう。例えば、iPhoneのボイスメモで録ったようなザラッとした音の悪くて粗い感じの音色だったり、スクリューされているような声とか、YouTubeにアップされているVHSの映像からサンプリングしてきたようなテープ・コンプがバキバキの感じとか。

YouTubeでちょっと前に、隣の部屋で音楽がかかっているのを再現した動画が流行ったじゃないですか? ああいういままでは音楽的ではないのものとして扱われていた、音質が非常に悪いものも彼の楽曲のなかには感じられますね」

※YouTubeにて〈from another room〉と検索を
 

――「ひどい音質のMP3ファイルにはストーリーがある。ヴァイナルからリッピングされ、MP3に変換され、YouTubeにアップされることで三重にコンプがかかっている。さらにそれを僕がリッピングするんだ(笑)」とも言っていました。そういう悪い音質のおもしろさを自覚していると。

「でも、ロス・フロム・フレンズの音楽はヴェイパーウェイヴやローファイ・ハウスと比べてるとちょっとハイファイで、そのぶん繊細さが加わったような感じです。すっごく音が悪いものと、直でライン録りしたようなハイファイな音を混ぜることで、ローファイな質感と細かな質感を聴かせたいところとのバランスを取っていますね。

しかも、リズムはローファイでウワモノはハイファイみたいな単純なやり方ではなく、曲ごとにそれぞれの楽器の音の解像度をコントロールしている。すごく巧みだなと思いました。その結果、ローファイだし踊れる音楽になってる」

――「ローファイ・ハウスはベッドルーム・ミュージックだけど、ブリアルはダンス・ミュージックを参照しながらベッドルームでも聴ける音楽を作ったんだ」とも語っていました。ロス・フロム・フレンズはブリアルに近い音楽だとも思いましたが。

「うん。ブリアルのような構築美もありつつ、そのうえでヴェイパーウェイヴ的な音やローファイな音を現場でカッコよく聴かせようということなんでしょうね。そこにヴェイパーウェイヴの元ネタみたいなハイエナジーやレイヴの思い出が混ざるところも彼のおもしろさでしょう。

12曲目の“The Beginning”のマリンバの音が80年代っぽくてすごく好きで。トロピカル・ハウスとはぜんぜん違うイナタさが良かったです。リズムはカッコよくないし、音色もかなりギリギリ(笑)。でも、それをカッコよく聴かせてしまう」

――ちょっと聴いてみましょうか。“The Beginning”です。

「サラッと聴いてるぶんにはカッコイイ曲なんですけど、要所要所でかなりおかしな音が使われているんですね。それをケレン味にしていなくて、踊れる曲にしている。音色のおもしろさも、楽曲にきちんと埋没させているんです」

『Family Portrait』収録曲“The Beginning”
 

――なるほど。

「ほかにも7曲目の“Pale Blue Dot” にいちばんイマっぽい要素を感じるんですが、シンセの音色だけに着目すると、かなりギリギリを攻めてますね(笑)。ただトータルの曲としてはカッコイイ。

自覚的かはわかりませんが、〈いま、この音はダメだよね〉みたいなものをどうやって自然に溶け込ませるかということをやってる。信じられないようなことが行われているとも言えるんですけど(笑)。気負いは感じないから、皮肉でもチャレンジでもなく、純粋に気持ちいい音で カッコイイものを作って伝えていくのが彼のすごさなのかもしれません」

――彼が有名になったきっかけの楽曲が“Talk To Me You’ll Understand”で、ハイ・ファイ・セットをサンプリングしているんですよね。〈ハイ・ファイ・セットをサンプリング〉というとヴェイパーウェイヴっぽいんですけど、そういうシニカルさとは若干距離を取っている。

「この曲は2015年ですよね。ローファイ・ハウスにカテゴライズされそうでありながら、ちゃんとフロア対応を意識しているところに彼のレイヴ育ちの勘所を感じます。これもサンプリングに関しては普通に良い曲だと思っている気がしますね。〈このフレーズ、ホントに最高!〉っていう素直さがあって」

2015年のシングル“Talk To Me You’ll Understand”
 

――tofubeatsが“BABY”でブレッド&バターをサンプリングしていて、それもシンプルに良い曲だから使っている感じなんです。それにちょっと近いのかもしれません。

「tofubeatsとも近いのかもしれませんが、ロス・フロム・フレンズはもっと洗練されてない、イナタい音楽も良いと思ってそうですし、彼が良いと思ってるイナタい音楽をみんなにも良いと思って欲しいような勢いも感じますね(笑)」

 

メランコリックなんだけど、ちゃんと盛り上がるための音楽でもある

――ロス・フロム・フレンズについて、サンプリングという側面では他にはどんなことが言えそうですか?

「衒いがなくて、ヒップホップだったら大ネタ的な良いものをバンバン使ってる。ハウスやリエディット文化的な〈カッコイイ音があるから使っちゃう〉っていうのがすごく良いなと。あと、サンプリングの音質は悪いものって基本的に思っているんでしょうね。むしろそこが肝だと思ってそう。音質が悪いことをニュアンスとして捉えて曲を作っている。

ただ、ハウスと大きく違うのが、〈超ブラック〉というと語弊がありますけど、例えばソウル系の熱唱とかコンガの音とか〈土臭い〉音は極端に使っていないっていうのがあって」

2018年作『Apheliton EP』収録曲“John Cage”
 

――確かにそうですね。

「その代わりにロンドンっぽさだったり、80~90年代的な、享楽的なチャラいディスコで盛り上がっていた感じがある。ディープでドロッとしたハウスじゃない、〈チャラくてイケてる〉ダンス・ミュージックを作ってるのがいいなあと。

彼のDJを聴いてても、若者がただ騒いでいるだけにしか見えないとも言えて、ホントに楽しそうなんです(笑)。DJなんですけど、フロア・ライヴ感がすごくする。ホーム・パーティーで友だちと超盛り上がっている感じが彼にはありますね」

――ご両親とやっていることが同じなんですね(笑)。〈SONICMANIA〉での来日は、それこそフロア・ライヴのような感じで楽しめたらいいですね。編成は未定だそうですが。

「ひとりでやるDJも超うまいんですけどね。でも、3人のライヴ・セットで来て欲しいです。ライヴはサックス兼キーボード奏者とギタリストの編成なんですが、皆アッパーなんですよね。客より盛り上がってるんじゃないかみたいなライヴもあって(笑)。それはパーティー感とも現場感とも言えるんですけど。

ベッドルームでもクラブでも聴けるんだけど、シリアスになりすぎない。メランコリックなんだけど、ちゃんと盛り上がるための音楽でもある。それを今回の来日公演でも感じられるといいなあと。だから3人で来て欲しいですね」

ロス・フロム・フレンズのボイラー・ルームでのライヴ映像
 

――こういうビートメイカーにしてはミュージシャンらしいというか、音楽家気質なんだろうなと。

「そうですね。ボイラー・ルームでのライヴは自分の曲をエディットしてかけまくっているんですけど、ダンス・ミュージックとしての機能性がものすごく高い。そこはすごく真摯だし、〈オーディエンスをちゃんと盛り上げたい〉というところには音楽家としての実直さも感じます。エディットの仕方もカッコいいので、音源をもっと聴き込んでからライヴに行きたいですね」

 


Live Information
〈Brainfeeder Night in SONICMANIA〉

8月17日(金) 幕張メッセ
出演:フライング・ロータス/サンダーキャットvジョージ・クリントン&パーラメント・ファンカデリック/ドリアン・コンセプト/ロス・フロム・フレンズ/ジェイムスズー
★詳細はこちら

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