©Michiyuki Ohba

スティーヴ・ライヒ本人も絶賛!
《ドラミング》全パートを1人で演奏!

 現代音楽というカテゴリーを超え、多ジャンルの音楽家から敬愛される存在である作曲家スティーヴ・ライヒ。彼から最も信頼される日本人音楽家こそ、加藤訓子である。かつて所属していたベルギーのアンサンブル・イクトゥスの一員として、時おりライヒ本人とも共演していた加藤は、その頃から演奏を激賞されていたという。ソロ活動に主軸を移していた2009年、パット・メセニーのために書かれた《エレクトリック・カウンターポイント》をスティールパン等でカヴァーするためにライヒ本人に直談判。デモ音源を聴いたライヒは加藤のアレンジにゴーサインを出した。それ以来、多重録音を前提にしたカウンターポイント・シリーズは勿論のこと、更には多重録音を前提としていないクセナキスによる怪作(?)《プレイアデス》までをもひとりでレコーディング。前代未聞の挑戦に、大きな話題を呼んだことが記憶に新しい。

加藤訓子 スティーヴ・ライヒ: ドラミング Linn(2018)

 そんな加藤の新しいアルバムは、ライヒ初期の代表作《ドラミング》。本来は12人編成の作品だが今回もライヒの許諾を得て、ひとりで多重録音。声楽や口笛のパートのみならず、(フルート属の)ピッコロまで加藤自身が一年がかりで練習して収録したというから驚かされる。

 「絶対ひとりでやりたいと思ったので、まずライヒさんに〈やっていいか?〉って聞いたんです。そしたら見透かされていて〈どうせ君が全部オーバーダビングをして、ひとつのパートをライヴで演奏するんだろう? ……やっていいよ、僕は構わない〉って返事をくれたんです」「打楽器以外も演奏していることを秘密にしていたんですよ。でも最終段階でライヒさんから〈ところで口笛とピッコロは誰がやっているんだい?〉と言われたんですね。そこで観念して〈私が全部やりました……〉って返事をしたら〈それは凄い! アメージングだ!〉と言われたんです。ホッとしました(笑)」

 許可は下りたが、収録準備は大きな苦労を伴うものだった。例えば本作は小節を繰り返す回数に幅があり、長さが確定していないのだ。

 「テストレコーディングも含めると全パートを3周ぐらい録りましたね。色んな実験をしながら、ひとりで録る上での問題をクリアしなければならなくて。スコアに書かれた通りに聴こえるよう、自分の演奏するパートを組み替えていきました」

 その苦労の甲斐もあり、ライヒ自身も驚くほど12人の合奏では難しかった《ドラミング》本来の姿を明らかにするような録音に仕上がった。

 「ライヒさん本人が参加している録音でも物凄く速くなっていってしまっているんですよ。エキサイティングなんですが、それだと楽章の代わり目でテンポを落とさなきゃいけなくなってしまう」

 この問題をクリアするために加藤は、最初の1パートのみをクリックを聴きながら収録。そこに残りの11パートを重ねていくことで、打ち込みのような演奏にならないように工夫したという。

 「10年近くこの形でやってきて分かったんですが、ライヴでは色々とリスクや実現出来ないことがあり、ライヒ作品をしっかり“再生”できるところまで行っていないケースが沢山あります。生では出来なくても、ひとりだからこそハーモニーの微細なバランスまで追求することが出来るんです」

 その結果、ライヒ自身から「最上のディテールと共に驚くべき明晰さで捉えている。大いなる喜びの発見」と最上級の賛辞を贈られた。特に驚かれたのはグロッケン(鉄琴)の登場部分だという。

 「ライヴで演奏していると音が響きすぎて、みんな何を演奏しているのか分からなくなってしまうんです。第4楽章で他の楽器も合わさっちゃうと本当に訳わかんなくて。でも今回の録音では、本来聴こえるべき部分がちゃんと〈全部聴こえる!〉とライヒさん自身が喜んでるのが伝わってきて嬉しかったですね」

 11月8日(木)にはサントリーホールのブルーローズにてお披露目公演も予定されている。ライヒ自身をも驚嘆させた多重録音と生演奏が絡み合う新時代の《ドラミング》をお聴き逃しなく。

 


加藤訓子 (Kuniko Kato)
桐朋学園大学研究科修了とともに渡欧。ロッテルダム音楽院を首席で卒業した最初のパーカッショニスト。サイトウキネンオーケストラ、アンサンブル・イクトゥス(ベルギー)、アンサンブル・ノマドなど内外のグループへ参加後、ソロ活動へフォーカスする。ダルムシュタット国際現代音楽祭クラニヒシュタイン賞等、受賞歴多数。

 


LIVE INFORMATION

加藤訓子「ドラミング」スティーヴ・ライヒ
○11月8日(木)19:00開演
出演:加藤訓子(perc)
会場:サントリーホール ブルーローズ(小ホール)
【曲目】スティーヴ・ライヒ:ドラミング(1971)

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