クラシックとユーロ・ジャズからの影響をもとに国内外で活躍中のジャズ・ピアニスト、西山瞳。ジャズ界に身を置きながら、近年はHR/HMをジャズ・カヴァーするプロジェクト、NHORHMとしての活動や、ファンであるBABYMETALの音楽的な魅力を鋭く考察して界隈で支持を得るなど、メタル愛好家としての信頼はグイグイ上昇中。そんな〈メタラーのジャズ・ピアニスト〉という立ち位置からHR/HMを語り尽くす本連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉では文筆家としての才も大いに発揮し、もはや本業が何かわからなくなるほど多方面で活動の場を拡げています。

昨年末に発表したMikikiの年間アクセス・ランキングのとおり大好評な本連載、2019年第一発目はこれ。西山氏が選ぶ〈2018年のHR/HM盤ジャケット大賞〉! ダサ・ジャケ(/神ジャケ)で知られるライオットや台湾の気鋭メタル・バンドなどの作品を挙げながら、メタル盤のアートワークの魅力に迫っています。 *Mikiki編集部

★西山瞳の“鋼鉄のジャズ女”記事一覧

 


昨年一年間、沢山のアルバムがリリースされました。
今回は個人的趣味から、ジャケット面で振り返りたいと思います。

2018年、私のジャケット大賞はこちら。
〈宇宙最速〉ギタリスト、インペリテリの新作『The Nature Of The Beast』リミテッド・エディション。

いや〜、素晴らしいこのアートワーク。圧倒的。優勝です。
これ、日本盤のアートワークなんですね。
通常の海外版はこちら。

圧倒的に日本盤ジャケットの勝ちですよ。

狼男、満月、古城、という要素は同じ。海外盤が咆哮している光景を描いているのに対して、日本盤は狼男そのものを強く禍々しい圧倒的存在として描いていて、思わず拍手してしまいました。

この素晴らしい日本盤アートワークは、インペリテリをリスペクトし、日本のヴィジュアル系メタル・バンドのVersaillesやJupiterで活躍するギタリスト、TERU氏がデザインしているとのことで、いや〜、わかってらっしゃる、完璧な素晴らしいお仕事に感謝! ご馳走さまです!

音楽の中身は、いつも通りの宇宙最速、物量(音符の数)勝負のインペリテリ。昔からそうなんですけど、歌の後ろであろうが弾きまくっているのが、最初は煩いなあと思うんですが、3、4周目あたりから気にならなくなってきて、これがインペリテリ! これじゃなきゃ!って納得しちゃうんですよね。2曲目“Masquerade”など、むしろこの過剰さがないと落ち着かなくなってきます。4曲目には“Phantom Of The Opera”(「オペラ座の怪人」のメインテーマ)も演奏していますが、これはインペリテリの世界観にハマりますね。

 

そして、個人的にはこちらのジャケットも、驚きでした。
ライオットV『Armor Of Light』。

ライオットは歴史の長いバンドですが、ライオットといえば、アザラシ?のジョニー。ただし、ジャケットにいる時期といない時期があります。
79年作『Narita』が凄いインパクトのジャケットでした。

見慣れてしまっているので、可愛いとしか思えなくなっています。

81年作『Fire Down Under』
 

新作『Armor Of Light』の何が驚きだったかというと、後ろのやつもジョニー顔!
ジョニーは一個体ではなく、ジョニー軍団だったのか!
前作、2014年の『Unleash The Fire』はジョニーが筋肉ムキムキになってびっくりしましたが、今作はまさかの一人じゃなかった事実に、今更〈えっそうなの!?〉と、変な声が出ました。ライオットは、私はうっすらと追いかけていただけなので、過去にこの顔が軍団で出ていた記憶がないのですが、増殖したのって初めてでしょうか。次回作はどうなるのか、このジョニー・ユニバースがどういうふうに広がっていくのか、今から楽しみです。

2014年作『Unleash The Fire』
 

内容は、歴史の長いバンドにも関わらず、現役最前線パワー・メタルです。あまりにもスピード・チューンばかりで。歌もキレキレで、昔と全然印象が変わらないのが凄いですね。

ライオットVの2018年作『Armor Of Light』収録曲“Angel's Thunder, Devil's Reign”

 

もう一枚、台湾のメタル・バンド、ソニック(Chthonic)の新作『政治=阿修羅の戦場 ~Battlefields Of Asura~』のジャケットも、インパクトありました。

これは買うでしょ。スーツの阿修羅に〈政治〉ですよ。歌詞がまるでわからないまま聴いていますが、怒りと闘争心がガソリンになっていることだけは伝わり、メタルだなあ! いいなあ!と思います。
シンフォニック・メタルですが、やりすぎないセンスの良いオリエンタルなサウンドが、ヘヴィさと疾走感とミックスされて、格好良いんですよね。
もうすぐ来日公演もあります

ソニックの2018年作『政治=阿修羅の戦場 ~Battlefields Of Asura~』収録曲“Flames Upon The Weeping Winds”

 

陰陽座の新作『覇道明王』も、実に素晴らしい作品でした。
今作は、明らかに次のフェーズへ、ネクスト・レベルに昇華したバンドの充実感と、ジャケットの威厳と矜持が見事に一体化して、世界に打って出る日本独自のバンドとして、本当に素晴らしい作品だと思いました。

 

当然ながら私は、メタルとジャズのジャケットは、同じ基準で〈良いジャケット〉という判断はしていません。

メタルのジャケットは、世界観が勝負。演奏者の顔が前面に出てくるよりは、音楽の世界観を表す絵の方が多いでしょうか。とにかくジャケット一発でコンセプトを出す、その強度が大事。
正直、メタルを聴かない人からは〈これが良いジャケットなの?〉と、疑問に思うものも多いかもしれませんが、メタルというジャンルを好きだからこそ、喝采を送りたいジャケットというのがあるのですよね。

ジャズだと、演奏者の写真のジャケットが多いですが、どちらかというと楽曲より演奏にウェイトの置かれるジャンルだからこそ、そうなってくるのだと思います。
私がリリースした最初の5枚は自分の写真がジャケットになっていますが、高校の時にメタルの洗礼を受けているのもあって、〈世界観ジャケ〉への憧れもあり、2012年の『Astrolabe』では思い切ってファンタジー風景っぽいジャケットにしました。

世界的に有名なネイチャー・アクアリウムの神、天野尚さんの水景写真をお借りしました。このアルバム制作自体が、〈スティーヴ・ヴァイの“ファイアー・ガーデン組曲”みたいなものをいつか作りたい〉というコンセプトで作っていたのもあったので、ジャズではあまり見ないタイプのジャケットになったかな、と思います。

〈メタル、何から聴いたらいいかわからない〉という方は、ディスクガイドを手に取って探してみると良いと思いますが、紹介文だけでなく、ジャケット最優先でピンときたものを聴くことをお薦めします。
「ヘドバン」が2015年に出した「ヘドバン的『メタルの基本100枚』」というディスクガイドが、非常に見易く、紹介文も良い感じに暑苦しくて、お薦めです。

また、タワーレコードのHR/HMツイッターなどフォローしていると、新作情報や、来日情報やインタヴューなど逐一流れてきますが、たまにとんでもないジャケットが流れてきたりするので、おもしろいですよ。

 


PROFILE:西山瞳

1979年11月17日生まれ。6歳よりクラシックピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコースジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I'm Missing You』を発表。ヨーロッパジャズファンを中心に話題を呼び、5ヶ月後には全国発売となる。2005年、横濱ジャズプロムナード・ジャズコンペティションにおいて、自己のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をスパイスオブライフ(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めてストックホルム・ジャズフェスティバルに招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。

以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、インターナショナル・ソングライティング・コンペティション(アメリカ)で、全世界約15,000エントリーの中から自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコードジャズ総合チャート1位、HMV総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自己のレギュラートリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『シフト』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカヴァーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、YOUNG GUITAR誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズ両面から話題になり、全ての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。

2016年には続編アルバムも発売。自己のプロジェクトの他に、東かおる(ヴォーカル)とのヴォーカル・プロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグバンドへの作品提供など、幅広く活動。横濱ジャズプロムナードをはじめ、全国のジャズフェスティバルやイベント、ライブハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさの共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。

NHORHMの最新作『New Heritage Of Real Heavy Metal III』は好評発売中!
★最新作について西山とデーモン閣下が対談した記事はこちら

NHORHM New Heritage Of Real Heavy Metal III APOLLO SOUNDS(2018)

 


Live Information

西山瞳 piano Maiko violin デュオ・ツアー
1月25日(金)愛知・名古屋Wiz
開場/開演:18:30/19:30開演
チケット:予約3,500円/当日3,800円
名古屋市東区東桜1-9-8 板柳ビル1F TEL 052-973-0198
https://www.wizjazz.jp/

1月26日(土)京都・カジュアルレストラン陽
開場/開演:18:30/19:30(music charge 3,500円)
京都市北区烏丸紫明下ル東側 TEL 075-414-0056
http://www.cafe-yoh.com/

1月27日(日)大阪・河内長野 ラブリーホール 大ホール
西山瞳(piano)×Maiko(violin)デュオ・コンサート
開場/開演:13:15/14:00
チケット:前売1,200円/当日1,500円(全席自由席・税込)
ローソンLコード 53840
河内長野市西代町12-46 TEL 0721-56-6100
https://lovelyhall.com/event/2019/190127_caffe/190127_index.html

★ライヴ情報の詳細はこちら