「大分のイメージは、フレンドリーさ。」by 蓮沼執太
「大分の〈場〉や〈空間〉が好き。」by ユザーン
多彩なゲストを迎えて大分各地で楽しいおしゃべりを繰り広げる移動型ネットラジオ放送局〈大分で会いましょう。〉プロジェクト! せっかくだから大切な話は、大分で。

 大分空港からリムジンバスに乗り込む。少し走ると車窓に海と空が広がってくる。渦巻く雲と海面に並ぶ波除けは現代アートの如し。国東半島の来方神の祭儀や、海を渡って往来した古の巡礼者たちの物語を思い浮かべる。

昭和の町(豊後高田市)

 別府を通過して大分市へ。めざすは〈カモシカ書店〉。カモシカの看板が目印だ。階段をあがり隠れ家の入り口のような扉を開けると、奥行きのある空間に古書と新刊が共存し幅広く選書されている。まず目に入ったのは谷川俊太郎の最新詩集『バウムクーヘン』(サイン本!)と『暮しの手帖』のバックナンバー(花森安治編集長時代!)。あっちにもこっちにも買いたい本があるある。ご挨拶に一冊購入。夕方のトークストリーミング取材の集合時間まで2時間。しばしアーケード散策し、帽子屋、八百屋、骨董屋、雑貨店で、地元の話を聴く。

 

カモシカ書店(大分市)でのトーク

「大分のどんなところが好き?」

 カモシカ書店へ戻ると、ユザーンと蓮沼執太は豊後高田・宇佐を訪ねたあとで、トークスタンバイ中。司会進行はカモシカ書店店長・岩尾晋作さん。東京の大学で哲学を学び、大型書店勤務後、大分市にUターン、2014年カモシカ書店開業。〈大分で会いましょう。〉企画のコーディネーターでもある。

 岩尾さんが〈大分で会いましょう。〉のタイトルを口上するとユザーンがつっこむ。「〈大分〉のアクセントは〈おーいた〉なのか? 〈おおいた〉なのか?」(前者は平調、後者は前アクセント)。〈大分県〉と〈大分〉でアクセントを確認しSNSでも反応をみてみると、どうやら〈おーいた〉が多数派。岩尾さんは「大分弁が得意ではないので、練習中」と弁明。

 「大分のどんなところが好きですか?」という問いに、ユザーンは「りゅうきゅう(刺身の胡麻醤油漬け)が好きです」と大分郷土料理名を挙げる。蓮沼は「大分のイメージは?」と尋ねられ「フレンドリーさ」と答える。ユザーンは「大分の〈場〉や〈空間〉が好き」。蓮沼は2014年別府現代芸術フェスティバル〈混浴温泉世界〉の招待アーティストとして別府に3週間滞在。一方、ユザーンも毎年のように大分を訪れている。大分市のライヴハウス〈アトホール〉の河村浩さんの存在も大きい。高校時代からバンドを組み、東京での大学時代も音楽を続け、家業を継ぐために大分に帰り、その後、ライヴハウス経営者に。大分の音楽シーンと哲学の場を盛り上げる河村さんと岩尾さんはUターン伝道師なのだ。

 

カテリーナ古楽器研究所(杵築市)

カテリーナ古楽器研究所

 杵築市山香町のカテリーナ古楽器研究所訪問。音楽ユニット、baobabの松本未來さん・舞香さん兄妹がユザーン&蓮沼執太を迎える。70年代から東京で中世・ルネサンス期の古楽器復元制作と演奏を続けてきた松本家は、91年に大分に移住した。 築150余年の古民家工房に並ぶ復元された古楽器たちの美しさに目を見張る。

 ユザーン「なにこれ! 超かっこいい! これなんすか!?」弦楽器のホールに施されたロゼッタを凝視。未來「教会のような音になるようにつくってあります。楽器の空間の中で音を響かせて聴かせるように」。ユザーン「設計図はありますか?」未來「ないです。現存する楽器もないです」。机上のプサレテリウムを奏でながら、未來「これは、ざっくりいうとピアノの先祖ですね。鍵盤がつくと、チェンバロ、ハープシコードになります」。ユザーン「これらの楽器のルーツは何処ですか?」。古代文明のチグリス・ユーフラテス文明やエジプトらしい。ユザーン、中世の笛ショーム(オーボエの祖)を試し吹く。鼓膜に響く大音量。蓮沼「いい音出してるね。哲学的な音。人間性が出ている」とスパイシーな感想。

 ユザーン「マンドリンのように複弦になっている弦楽器が多いんですね」未來「テンションが少ない分、複弦にしてふくよかな音にしました」(吟遊詩人然と奏でる)未來「中世の音楽はドローンが多いです。とくにコードは変わらなくて、メロディだけが動いていくのが多いですね」蓮沼「そうか、ドローン音楽なんだ」未來「ドローンは、インドにもつながっていますね」。通奏低音の音楽文化にときめく。

 中東の撥弦楽器ウードも復元している。西欧のリュートにつながる琵琶族で、裏面の寄せ木細工が美しい。カテリーナ古楽器研究所では、日本の木で復元楽器をつくっている。地元で手に 入る材料も大切に使う。プサレテリウムを弾く撥は烏の羽「そのあたりで落ちてるのを拾ってる」と舞香さん。手彫りのバターナイフも撥にして弾く。ユザーン&蓮沼「すげえきもちいい」「いちばん驚いた!」(バターナイフを手に感極まる)。大分の竹製リコーダーアルトを吹くユザーン「小学校教材のリコーダーがこれだったら、もっとやる気出るよね!」とご機嫌。未來「竹には抗菌作用があり、プラスティックのように臭くならず、唾液を吸収してくれるんですよ」。笛の起源をさかのぼると、西欧は葦笛、アジアは竹笛が主流だが、国東のお神楽でホイッスルのような形状の竹笛を吹くお囃子もあるらしい。ザビエルの時代に、渡来した古楽器を想像する。

 工房ではハーディーガーディーまで復元されていると知り驚くユザーン。蓮沼は「ボクが気になったのはコレかな」とベビーライアーを手に取る。小さな手琴の音色が心に響く。蓮沼「買うか!」ユザーン「買いなよ」蓮沼「買います」。地元の楠でつくった唯一無二のライアー。未來「お気に入りでした」(えっ!? 手放したくない楽器だった?)。お嫁入り決定。ユザーン「これで曲をつくろう。できるかな」蓮沼「できるよ」。4人の音楽家をカテリーナの森が優しく包み込む。

 

アトホール(大分市)でのライヴステージ

蓮沼執太&ユザーンLive@アトホール

 タブラをチューニングするトンカチの音が響き渡る、満員御礼のアトホール。
1曲目“アコースティックス”。ユザーンのタブラと蓮沼のキーボード+口笛+歌がシンクロ。2曲目、二人で録音した赤塚不二夫のサントラ盤の曲を演奏。懐かしい60年代70年代がまばゆく蘇り、未來派の響きと重なる。共作アルバム『2 Tone』から“Radio S”(坂本龍一さんのラジオ番組でのセッションがきっかけで作られた曲)。

 ライヴ中、〈たべっこどうぶつ〉を齧る音をSEに〈ギンビス〉ソングも披露。♪〈ギンビス〉じゃなくて〈ギンビス〉♪(前者はアクセント前、後者は平調)。(なるほど! 〈おーいた〉じゃなくて〈おおいた〉と同じ法則なのだった!)。二人の名作“ベーグル”も聴けた。♪〈アメリカなんて行ってなかった、あれウソだった〉♪という歌詞を聴いて、宇佐の山に掲げられている横文字の〈USA〉看板ロゴが脳裏に浮かんだ。(もし大分編ならば、♪〈アメリカなんて行ってなかった♪あれ宇佐"USA"だった~♪ 〉と替え歌??)。

 女性客の感嘆の声や呟きは小気味よい大分弁で、打てば響くようなノリの良さ。アンコールは“スーダラ節”。アルトホルンとタブラと鍵盤にペーソスと余韻。いつかカテリーナ古楽研究所のベビーライアーも演奏してほしいな。〈豊の国〉の地に古今東西からの巡礼者が奏でる音色を夢想する。蓮沼執太&ユザーン、baobabと共演する調べを、近未来の〈大分で会いましょう。〉で聴きたい。

 


U-zhaan(ユザーン)
タブラ奏者。オニンド・チャタルジー、ザキール・フセインに師事。ジャズ・エレクトロニカ・ヒップホップ・インド古典音楽など様々なジャンルで演奏活動をする。

 


蓮沼執太(Shuta Hasunuma)
1983年東京都生まれ。2006年10月にアメリカWestern Vinylからデビューアルバムを発表。蓮沼執太フィルのほか、映画、演劇、ダンス、音楽プロデュースなど多数の制作を手掛けるほか、個展形式での展覧会やプロジェクトも行うなど、幅広く活動する。