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羽田健太郎『交響曲宇宙戦艦ヤマト』 昭和から平成を駆け抜けた“天才ハネケン”が35歳で作曲した唯一の交響曲を、最高のライヴ新録音で

羽田健太郎 © 田中聖太郎

 

昭和から平成を駆け抜けた“天才ハネケン”が35歳で作曲した唯一の交響曲を、最高のライヴ新録音で

 日本のアニメ史に金字塔を打ち立てた「宇宙戦艦ヤマト」シリーズの音楽は、1974年放送のテレビ第1シリーズ以来一貫して、ザ・ピーナッツ一連の大ヒット曲など和製ポップスの開拓者のひとりである宮川泰(※現在、音楽シーンで活躍中の“アキラ先生”こと宮川彬良のお父上)が手掛けており、羽田健太郎は劇場版第2弾「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち」(1978年8月公開)のLPレコードから、ピアニストとして録音に加わり、劇場版第4弾「宇宙戦艦ヤマト 完結編」(1983年3月公開他)では宮川と共作で正式な音楽担当に起用された。この「完結編」完成をきっかけに始まったのが交響曲〈宇宙戦艦ヤマト〉プロジェクトであり、それまでのスタイルとは別のアプローチで、フル・オーケストラための4楽章形式を持つクラシックの交響曲を目指して、ここに再び宮川の信頼厚い羽田が大抜擢される。

 2007年6月に惜しくもこの世を去った羽田健太郎は〈平成〉時代、作曲家としては橋田壽賀子ドラマ「渡る世間は鬼ばかり」の超有名なテーマ曲などを手掛け、ジャズやクラシックのピアノ演奏からオーケストラの指揮までマルチに活躍。お茶の間でも「タモリの音楽は世界だ」や「ニュースステーション」で見事なパフォーマンスを披露していたし、「題名のない音楽会21」の名司会者として記憶されている方も多いはず。

 しかし“天才ハネケン”はまだ〈昭和〉だった1970年代末~1980年代にかけても凄かった! 桐朋学園大学音楽学部ピアノ科を首席で卒業した直後から、スタジオ・ミュージシャンとして様々なレコーディングに参加。クラシックで学んだ確かな腕前を買われて重宝され、歌謡曲からイージーリスニング、映画の劇伴まで、あらゆるジャンルの現場で活躍。例えば沢田研二《勝手にしやがれ》や山口百恵《秋桜》、小坂明子《あなた》、五輪真弓《恋人よ》など、ピアノが印象的なこれらのヒット曲は全て彼の演奏である! そして作曲の技法はこの頃にスタジオで、コンポーザーやアレンジャーが書いた譜面を見ながら研究して独学で取得したものだとか。

 個人的(※今年50歳)には、アニメ「超時空要塞マクロス」で壮大かつ心を揺さぶるBGMから劇中に登場するアイドル歌手リン・ミンメイのヒット歌謡まで手掛けた“神”コンポーザーであり、NHK-FMのドラマ枠「ふたりの部屋」で放送された新井素子原作『グリーン・レクイエム』のために書き下ろされた儚くも美しいピアノ曲も忘れられないが、しかし羽田健太郎は人々の記憶だけに生き続ける“思い出の”音楽家などでは決してない。彼はクラシック・シーンで今後もオーケストラの定番となりうる、最高のシンフォニー作品を遺してくれたのだ。

 1984年にNHK交響楽団によって初演された交響曲《宇宙戦艦ヤマト》は、稀代のメロディーメーカー宮川泰の書いたテーマを縦横無尽に駆使した壮大なる王道シンフォニー。“さらば地球よ 旅立つ船は~”で知られる主題歌のダイナミックな旋律を散りばめ、第3楽章に“無限に広がる大宇宙”を表現したお馴染みのヴォカリーズを配するなど、大衆の心を掴みつつも高い芸術性を持った作品に仕上がっている。当時羽田健太郎は他の仕事を全て断り、半年以上に渡って作曲に費やしたという。

大友直人,東京交響楽団 羽田健太郎:交響曲「宇宙戦艦ヤマト」 Columbia(2019)

 この度、生誕70周年を記念してリリースされた本盤は、2018年8月にミューザ川崎シンフォニーホールで行われた東京交響楽団の演奏会をライヴ収録したもの。初演時から指揮を務め、スコアの隅々まで読み解いている大友直人がタクトを振り、ソリストも最強メンバーが集結している。とりわけ、現在のオペラ界で輝かしいキャリアを重ねつつあるソプラノの小林沙羅が、慈愛をたたえた歌声を披露する第3楽章、共に人気ソリストである大谷康子(ピアノ)×横山幸雄(ピアノ)の二人が絶妙な掛け合いを繰り広げる第4楽章は必聴! 東響のホームグラウンドでもある会場は終演後にブラボーの嵐となり、6分にも及ぶ惜しみない拍手が続いたという。

 近年になって発見された直筆スコアに基づくオリジナル・エンディングの初CD化であり、ファンにとっても必須アイテムだ。

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