©Julian Mommert

身体、そして時空さえをもねじ曲げるイメージの奔流。
世界を震撼させる美しく危険な舞台、ディミトリス初来日!

 ディミトリスは昨年〈ピナ・バウシュ没後のヴッパタール舞踊団が、初めて全長版の作品を外部に委嘱した「SINCE SHE」(2018年)の振付家〉として一躍日本でも名を馳せた。しかしそのずっと前から世界中のダンス関係者の間では〈ヤバい奴がいる〉とウワサになっていたのである。筆者が来日を切望していた一人であり、今回の公演は大げさでなく日本の舞台芸術史にとって重要な1ページとなるだろう。

 とくに〈ダンスはわかりにくい〉とか〈演劇は敷居が高い〉とか思っている人に言っておきたい。とにかくダンスや演劇になる前の、圧倒的に凶暴で美しいイメージが次々に繰り出されてくる作品なのである。剣を抜くかと思っていたら、いきなり鞘ごとブン殴られるような、そんな舞台だ。

 舞台上は全体が奥から手前に大きく傾斜している。その上に死体のように白い布をかけられて横たわる男。男が履こうとしていた靴の下には植物の根が張っている。ゆっくりと回転数を落として流れてくる“美しく青きドナウ”に、随所に現れる無重力の動き。キューブリックの映画「2001年宇宙の旅」を思い起こしていると、なんといきなり宇宙飛行士がやってくる。かと思うと不意に人々が集まってレンブラントの「テュルプ博士の解剖学講義」の絵が再現される。そしてある仕掛けによって、人の身体がバラバラになって漂う…… ざっと資料で公開されている部分だけを拾ってみても、こんな具合だ。

 なにがなにやら。でも目が離せない。昨今のダンスや演劇は小さな世界観になりがちだが、この舞台では時間すら自在に引き伸ばされ時に濃縮されて宇宙規模のスケールが展開し、強い身体が対峙する。そしてタイトルの〈THE GREAT TAMER(偉大なる調教師)〉を見るとき、そこには人類の歴史を司る時間の流れそのもの、あるいは神と呼ばれる存在が、独特のユーモアとともに浮かび上がってくるのである。

©Julian Mommert

 ギリシャは今日的な東洋や西洋にとらわれない文化の源泉をもっている。ディミトリス自身もアテネの芸術学校で舞台芸術に目覚め、NYにわたってダンスを学び、田中泯の舞踏ワークショップを受けたりするなど、特定の文化に縛られることのない発想が根底にある。とくに現代の舞台芸術は空間全体の設計と演出の時代に入っているため、強烈なイメージの提示によって長編の舞台を作るアーティストも出てきている。なかでも西ヨーロッパを中心に発達したコンテンポラリーダンスは、成熟するにつれてある種の類型化が起こっているのだが、そこへ西洋文化の根源たるギリシャから、新しくも超ド級の舞台芸術が到来しているのだ。

 〈次〉の舞台芸術の形を予見する舞台。見逃してはいかんぞ。

 


INFORMATION
ディミトリス・パパイオアヌー『THE GREAT TAMER』

■埼玉公演
2019年6月28日(金)彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
開演:19:00
2019年6月29日(土)彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
開演:​15:00
2019年6月30日(日)彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
開演:15:00

■京都公演
2019年7月5日(金)ロームシアター京都 サウスホール
開演:19:00
2019年7月6日(土)ロームシアター京都 サウスホール
開演:15:00