クラシックとユーロ・ジャズからの影響をもとに国内外で活躍中のジャズ・ピアニスト、西山瞳。ジャズ界に身を置きながら、HR/HMをジャズ・カヴァーするプロジェクト、NHORHMとしての活動や、ファンであるBABYMETALの音楽的な魅力を鋭く考察して界隈で支持を得るなど、メタル愛好家としての信頼はグイグイ上昇中。そんな〈メタラーのジャズ・ピアニスト〉という立ち位置からHR/HMを語り尽くす本連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉では文筆家としての才も大いに発揮し、多方面で活動の場を拡げています。

ヒットを記録したイングヴェイ回に続き、今回はデビュー以来西山氏を魅了し続ける北欧メタル/ジャズへの想いを綴っています! *Mikiki編集部

★西山瞳の〈鋼鉄のジャズ女〉記事一覧


 

『New Heritage Of Real Heavy Metal extra edition』が4月に発売になり、解散していたNHORHMが復活、第2期開始ということで(オマージュという名の茶番)、東京、名古屋、大阪のライヴハウスとジャズ・フェスティヴァルで、ライヴをしました。

「舌の根も乾かないうちに、もうやるんかい!」の突っ込み、ありがとうございます。

野外ジャズ・フェスで鳴り響く聖飢魔IIの“EL DORADO”、「次はメタリカを2曲」「最後はパンテラの“Walk”」など、ジャズ・フェスで絶対聞かないであろうワードを連呼する私。もう一人の客観的な自分は呆れ笑いをしていますが、そういう自分が好きDEATH!

NHORHM 『New Heritage of Real Heavy Metal extra edition』 APOLLO SOUNDS(2019)

 

さて、〈extra edition〉には、イングヴェイ・マルムスティーンが2曲、ストラトヴァリウスが1曲と、北欧のメタルが入っています。

実は私、最初にデビューしたのはスウェーデンのジャズを紹介するレーベル〈Spice of Life〉だったので、過去に何度かストックホルムへ録音に行き、現地ミュージシャンとレコーディングしてアルバムをリリースしていました。

その最初の録音が決まったのは2006年の年初だったと思いますが、プロデューサーに「スウェーデンでレコーディングすることに決めましたが、スウェーデンのジャズって、何か知ってる?」と訊かれた時に、「イングヴェイしか知らない」と答えた程度には、メタル脳筋でした。

それまでもよく聴いていたボボ・ステンソン、ラーシュ・ヤンソン(共にピアノ)がスウェーデンだということを後で認識するのですが、当初はスウェーデン=イングヴェイぐらいの知識しか、ありませんでした。

しかし、いざスウェーデンを意識するようになると、好きなベーシストがことごとくスウェーデン人なんですよね。アンダーシュ・ヨルミン、パレ・ダニエルソン、ラーシュ・ダニエルソン……。

私のスウェーデン録音アルバム3枚で参加してもらったハンス・バッケンロスも素晴らしいベーシストで、一度ハンスに「どうしてスウェーデンのベーシストは皆こんなに素晴らしいの?」と訊いたら、「一年のほとんどが寒いから、練習するしかないんだよね」と言っていました。

一緒にコンサートをしたフィンランドのピアニストからも同じような話を、また、メタルのほうでも同じようなジョークを聞いたことがあるので、これは北欧ミュージシャン・ジョークなのだと思います。

参考記事:フィンランドのヴァイキング・メタル・バンド、コルピクラーニが語る北欧メタル(CINRA.NET)

 

メタルでは、ヨハンソン兄弟という有名なスウェーデンのメタル兄弟がいます。

兄のアンダース・ヨハンソンは、イングヴェイの『Rising Force』(84年、ソロ第1作目)にも参加していたドラマー。弟のイェンス・ヨハンソンはストラトヴァリウスのキーボード。メタル・ファンには馴染み深い兄弟ですね。

実は最近知ったのですが、このヨハンソン兄弟、お父様はなんとスウェーデンの伝説的ジャズ・ピアニスト、ヤン・ヨハンソンだったんですね。不勉強でした。

ヤン・ヨハンソンの61年のライヴ映像

ヤン・ヨハンソンは、スウェーデンで大ベストセラーになった名作『Jazz På Svenska』(64年)を録音していたり、スタン・ゲッツと共演したことで有名ですが、37歳という若さで亡くなりました。

『Jazz På Svenska』はスウェーデンの民謡を演奏したものなのですが、私もそれはもうよく聴きました。まだ聴いたことのないジャズ・ファンも、ヨハンソン兄弟に馴染みのあるメタル・ファンも、ぜひこの一枚は、ど定番の大名盤なので聴いて頂きたいです。スウェーデンの民謡は、日本人にもシンパシーを感じる暖かさ、懐かしさ、素朴さ、泣きを感じる部分が多いのではないでしょうか。

ヤン・ヨハンソンの64年作『Jazz pa Svenska』収録曲“Visa Fran Utanmyra”

大きな編成の『Spelar Musik På Sitt Eget Vis』(73年)も、スタンダードを沢山演奏していて、お勧めです。

 

私自身が、ヨーロッパのジャズが好きでヨーロッパのジャズばかり追いかけていたのは、〈ヨーロッパっぽいもの〉を真似したいのではなくて、〈自分の根幹のアイデンティティー、ローカル性を大事にしたうえで、ユニバーサルなジャズという言語で話す〉という部分に魅せられたからで、見知らぬ土地で育った価値観に出会いたい、知らないものに出会いたい、という根源的な欲求があります。

『Jazz På Svenska』は、まさしくローカルに根ざし昇華したジャズで、本当に聴いていて気持ちが良いですし、よく知らない国なのにそこに想いを馳せたり想像したりすることができる、大好きなアルバムです。最初にストックホルムに行った時にも、自分へのお土産に、『Jazz På Svenska』の譜面を購入して帰りました。

 

ヨハンソン兄弟がヤン・ヨハンソンの息子だったことは本当に先日知ったので、一人で大興奮していたんですが、特にイェンス・ヨハンソンは、高校時代ストラトヴァリウスをよく聴いていたので、まさかそこが繋がるとは思っていませんでした。

トイレを爆破するような人です。

 

ヨハンソン兄弟といえば、これです。

アラン・ホールズワースとヨハンソン兄弟の共演盤『Heavy Machinery』(96年)。テクニカルなインストのロックで、滅茶苦茶カッコ良い!

アラン・ホールズワース、アンダース&イェンス・ヨハンソンの96年作『Heavy Machinery』

また、イェンスのソロ名義の『Fission』(97年)も良いです。

 

ヨハンソン兄弟のジャズ・アルバムはノーチェックだったので、『Live In Sweden』(2014年)、『Nordic Blue』(2018年)の2枚を聴きました。たぶんロックのミュージシャンが演奏している感じのジャズ・アルバムだろうな、テクニカルを前面に押し出した内容なんだろうな、と思って軽い気持ちで聴きはじめたのですが、これが素晴らしすぎました。

また、心からお父さんをリスペクトした内容で、ぶっちゃけ、落涙したんですよ。

イェンスのピアノが本当に素晴らしいんです。お父さんの『Jazz På Svenska』みたいな朴訥としたピアノで、タイムもとても似ていて、非常にまっとうなジャズ・ピアニストだということに、とても驚きました。メタルの鍵盤奏者だとばかり思っていましたが、演奏を聴くと、完全に本職のジャズ・ピアニストですね。いや〜、こんな素晴らしいピアニストだとは、想像もしていませんでした。まだ聴いたことない方は、ぜひこの2枚は聴いて頂きたいです。

スウェーデンのジャズの温度感も、実感して頂けるのではないかなと思います。

 

私自身の話に戻りますが、たまたまデビューさせてもらったレーベルがスウェーデン・ジャズのレーベルだったことで繋がったスウェーデンとの縁ではありますが、あちらのミュージシャンのゆったりとした気持ちと、そこから発せられるジャズは本当に心地が良く、バトルという面よりは、人や自然との調和を慈しむような、不思議な温かさがあるんです。

バキバキにメタルで弾いているイェンス・ヨハンソンでさえも、このようなジャズをプレイするのか、と、なんだかとても嬉しくて、また、やはりジャズはすべてのポピュラー音楽に通底しうる、基礎的な言語なのだなと再確認しました。

 

北欧のジャズは非常に奥が深く、もちろんジャズは個人がベースの音楽ではありますが、お国柄によっても温度感が全然違います。

北欧のメタルも、様式美もあり、ヴァイキング・メタルや、メロデス、ブラック・メタル(これがまた深い)もありと本当に奥が深く、例の「寒いから練習しかすることがない」というジョークの裏にあるミュージシャンのクリエイティヴィティーに思いを馳せると、底知れないポテンシャルが容易に想像できますね。

 

NHORHMの目標として、チルボド(チルドレン・オブ・ボトム)を何とかアレンジしてカヴァーしたいという目標も、密かに持っています。

 


RELEASE INFORMATION

安ヵ川大樹, 西山瞳, maiko 『The Tree of Life』 ダイキムジカ/D-neo(2019)

リリース日:2019年5月29日(水)
品番:DNCD18
価格:2,700円(税込)

TRACKLIST
1. A Day Before The Last Day Of Summer(Hitomi Nishiyama)
2. Consolation(Hitomi Nishiyama)
3. The Tree Of Life(Daiki Yasukagawa)
4. Shenandoah
5. Vibrant(Hitomi Nishiyama)
6. Ensemble(maiko)
7. Everytime It Rains(Hitomi Nishiyama)
8. 飛び立つ水鳥(maiko)
9. New Song(Daiki Yasukagawa)
10. What A Friend We Have In Jesus(Charles Converse)

■The Tree of Life
安ヵ川大樹(ベース)
西山瞳(ピアノ)
maiko(ヴァイオリン)

★詳細はこちら

 


PROFILE: 西山 瞳

1979年11月17日生まれ。6歳よりクラシック・ピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコース・ジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I’m Missing You』を発表。ヨーロッパ・ジャズ・ファンを中心に話題を呼び、5か月後には全国発売となる。2005年、横濱ジャズプロムナードのジャズ・コンペティションにおいて、自己のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をSpice of Life(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めてストックホルム・ジャズ・フェスティバルに招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。

以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『Parallax』が、スイングジャーナル誌の日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、インターナショナル・ソングライティング・コンペティション(アメリカ)で、全世界約15,000エントリーの中から自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表の『Music In You』が、タワーレコードのジャズ総合チャート1位、HMVの総合2位にランクイン。CDジャーナル誌の2011年ベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自己のレギュラー・トリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『Shift』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカヴァーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、YOUNG GUITAR誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズ両面から話題になり、すべての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベスト・セラーとなっている。同作は『II』(2016年)、『III』(2019年)と3部作としてシリーズ化。2019年4月には〈extra edition〉(2019年)もリリース。

自己のプロジェクトの他に、東かおる(ヴォーカル)とのヴォーカル・プロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグバンドへの作品提供など、幅広く活動。横濱ジャズプロムナードをはじめ、全国のジャズ・フェスティヴァルやイヴェント、ライヴハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさの共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。