2006年、その年の東京JAZZの模様がテレビで放送されているのを観ていて、強烈に惹き付けられた場面がありました。それはノルウェー・トロンハイムの音楽院の卒業生を中心に構成された名門ビッグバンドトロンハイム・ジャズ・オーケストラチック・コリアを迎えてのライヴのワンシーン。チックの楽曲でオーケストラのメンバーそれぞれが現代的なジャズ・マナーに則った見事なソロを回していたのですが、長身・長髪の妙にラフな格好のテナー・サックス奏者が出てくると雰囲気が一変。徹頭徹尾「ブギョオオオオオ!」「ブギャアアアアア!」とひたすらノイジーに吹き散らかすその男に呼応して、チックを含むほかの奏者たちの演奏も突如フリージャズの世界に。散々好き勝手に吹きまくったままソロを終えた男が一礼して自分の立ち位置に帰っていき、次の奏者にソロが回ると、バンドは元の〈洗練されたサウンドの現代的なジャズ・オーケストラ〉に戻り、そのまま何事もなかったかのようにエンディングへ……。

それから何か月か後、とあるCD屋の棚で、1枚のフライヤーが目にとまりました。MZN3というノルウェーのグループが奏者の八木美知依さんを迎えての来日公演のチラシで、プロフィールに目をやると、〈チック・コリアwithトロンハイム・ジャズ・オーケストラの一員として東京Jazz 2006に出演し、豪快なテナー・サックス・ソロで観客の度肝を~〉といった記述が。「あいつだ!」ということで行ってきた、六本木SDLXでのそのライヴ。最前列の至近距離で観た演奏も期待以上に滅茶苦茶カッコよくて、圧倒されました。

前置きが長くなってしまいましたが、そのサックス奏者こそが今回ご紹介したいシェティル・メステル。その来日公演時の告知ページから引用させていただくと、〈スラッシュ・メタル・バンドのエレクトリック・ベーシストとして活動した後、リード楽器に専念すべくトロンハイム音楽院入学〉とのこと。経歴もなんだかブッ飛んでます。

そんな彼の動画や音源を貼っていこうと思うのですが、なんせかなり色々なことをやってる人でして、ひとつひとつ解説していると大変なことになるので、ここはもう、とにかくダーッと貼っていく、という形にさせていただこうかなと。

まずは来日時のライヴで観たときと少し似ている、トリオ編成でのいかにもフリージャズという感じの演奏。最初に吹いているのはバリトン・サックスです。

 

 

お次は、モーダルでエネルギッシュなジャズ・バンド、コアでの演奏。今回貼るほかのものに比べると飛び抜けて〈まとも〉ですが、ドラムとのデュオで吹き続けるイントロからピアノのあとのロング・ソロと、あまり細かいことは気にせず(?)豪快にひたすら吹き続ける姿がカッコいい!

 

 

お次はルネ・グラモフォンなどからリリースのある〈ULTRALYD〉というバンドから。よりインプロノイズの要素が強いグループです。

 

 

次はMZN3でも共演していた同郷ノルウェーの凄腕ベーシスト、ペール・ザヌッシのバンド〈ザヌッシ・ファイヴ〉のライヴ映像から。リーダーのペンによる見事な楽曲での研ぎ澄まされた3管アンサンブルと爆発的な熱いソロが一体となった滅茶苦茶カッコいいバンドでした。シェティルが抜けたあともメンバーを増員したりしつつ素晴らしい作品をリリースしています。

 

 

お次は、言葉が読めず詳細はよくわからないのですが今年のスタジオ・セッションから。トーマス・ストローネン(ドラムス)ら好メンバー! このメンツでのリリースなどはあるのでしょうか? カッコいいです!

 

 

あ、このシェティル、ノルウェーの人気エレクトロ・ロック・バンド〈データロック〉のメンバーでもありまして。大量にアップされているライヴ映像を観ていくと、端っこや後ろでマラカスを振りながら踊っていたりキーボードを弾いたり、突然出てきて大きな身体を大げさに振り乱しながらフリーキーなサックスを吹きまくってフロアを熱狂させたり……と、その時期やメンバー構成によってさまざまな姿が見られます。一時期はスケジュール告知が世界各地で行われるデータロックのライヴ・ツアーだけでギッシリ埋まり、一部のフリージャズ・ファンをやきもきさせたものです(帰ってきてよかった!)。とはいえこのバンドも凄く良くて。今回貼るのはオフィシャルでアップされている1時間超のライヴ映像ですが、体を前後に揺らしながらキーボードを弾いたりしつつ、たまに前に出てきて豪快なサックス・ソロを吹いてるのが彼です。ついでにデータロックの代表曲“Fa Fa Fa”のMVも貼っておきます(単に好きなんです)。

 

 

最後に、昨年〈HUBRO〉というジャズ・レーベルから出たリーダー作の音源も貼っておきましょう。なんだか、今まで紹介した音の要素がギュッと詰め込まれているような感じがしません?

 

というわけで(?)、だいぶたっぷりなボリュームになってしまいましたが、今日はこのへんで。この人おもしろくないですか?