時代の先を行っていたリストを知って欲しい

 今年は日本とハンガリーが外交関係を開いてちょうど150周年の記念すべき年だ。日本人の父とハンガリー人の母の間に生まれ、ハンガリーで学んだ金子にとっても大事な年である。そこで録音されたのが新アルバム『リスト・リサイタル』である。

金子三勇士 リスト・リサイタル ユニバーサル(2019)

 「ハンガリーの作曲家と言えばバルトークなども居るわけですが、今回あえてフランツ・リストを取り上げたのは、自分が演奏家としてデビューして演奏会を重ねて来て、意外とリストは知られていないという想いがあったからです。知られている曲も“ラ・カンパネラ”や“愛の夢”など一部に過ぎない。そこで改めてリストの魅力というのを伝えたくて、今回のアルバムを製作することになりました」

 冒頭はリスト唯一のソナタである“ロ短調ソナタ”から始まる。

 「最初にこの曲を聴いたのはリスト音楽院のホールで行われたコンサートでした。12歳の時です。衝撃のあまり立ち上がれなかったほど。しかし、その年でこの曲を学び始めるのはまだ早い、18歳になるまで待つよう恩師に言われ、18歳の誕生日に楽譜を開きました」

 2010年には初めてソナタの録音を行った。そこから約10年ぶりの新録音となる。

 「以前の録音はいま聴いてみると、まだまだ若かったなと思う所がたくさんあります。このソナタはまさにひとつの歴史、ひとつの人生に較べられる深さを持ち、哲学的な部分も内包しています。若さや勢いだけで演奏出来る曲ではないのです。まさに自分の人生を通して探究していく作品で、一生涯の付き合いになる作品です。そういう意味で、ある種の記録として自分でも定期的にこの曲を録音して行きたいと思っています」

 今回の録音にあたっては、練習の段階からこの長大なソナタを全曲弾き通すということに挑戦した。録音も全曲通して演奏することを繰り返して、ベストテイクを取ったという。それだけに密度の濃い演奏が展開されている。そして、そのソナタに沿うように“コンソレーション”“泉のほとりで”“メフィスト・ワルツ”“献呈(シューマンの歌曲の編曲)”が収録された。

 「リストの様々な側面を知って頂きたかった。自分で馬車を改造し、そこにピアノを乗せてリサイタルのツアーを行ったりしたリスト。21世紀風に言えば“歩く配信サイト”のような先進的なことを行っていた作曲家で、生きていた当時には理解されないことも多かったかもしれません。超絶技巧的な部分や女性を失神させたことなどのエピソードが紹介されることが多いですが、本当のリストの魅力は音楽の中にある。それを、このアルバムを通して知って欲しいです」

 


LIVE INFORMATION

デュオ・リサイタル
○6/23(日)会場:秋吉台国際芸術村コンサートホール
出演:コハーン・イシュトヴァーン(cl)金子三勇士(p)

地域ふれあいコンサートvol.46
○7/5(金)会場:西部公民館

アフタヌーン19上期Ⅲ 金子三勇士「ショパンVSリスト」
○7/18(木)会場:東京オペラシティ コンサートホール

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