BUMP OF CHICKENが約3年5カ月ぶり、通算9枚目となるフルアルバム『aurora arc』をリリースする。前作『Butterflies』以降発表された楽曲には多くの異なるタイプのタイアップが付いていながら、まるで最初から緻密な設計図のもとに作られたかのように、一大叙事詩と称すべきストーリーを描き出した今作『aurora arc』を紐解いてみよう。

バンドやアーティストにとって〈物語〉はきわめて重要なファクターだ。活動のスタンス、作り出す楽曲、ライヴでの表現はもちろん、様々なジャンルの表現とのコラボレーション、メンバーの発言、バンドを取り巻く状況の変化を含めて、すべての点が1本の線になり、唯一無二のストーリーへとつながっていく。オーディエンスはそこで生まれた物語を共有することで、バンド/アーティストとの結びつきをさらに強く実感し、惹かれていくのだと思う。(たとえばBTS、ビリー・アイリッシュなど、現在世界的なブレイクを果たしているアーティストには必ず、魅力的な物語が備わっている)

BUMP OF CHICKEN aurora arc Toy's Factory(2019)

BUMP OF CHICKENのニューアルバム『aurora arc』は、バンド固有の〈物語〉を強く感じられる作品だ。本作には、前作『Butteflies』(2016年2月)以降にリリースされたシングル(配信/パッケージ含む)を全曲収録。“アリア”(2016年8月TBS系 日曜劇場「仰げば尊し」主題歌)から“Aurora”(2019年3月TBS系 日曜劇場「グッドワイフ」主題歌)に至るバンドの軌跡を追体験できる作品に仕上がっている。フルサイズが発表されていなかった“月虹”(TVアニメ「からくりサーカス」第1クールオープニング・テーマ/第3クールエンディング・テーマ)、“新世界”(ロッテ創業70周年記念スペシャルアニメーション「ベイビーアイラブユーだぜ」テーマソング)を含め、映画、ドラマ、アニメ、CMなど幅広いフィールドの映像作品と融合することによって、リスナーの記憶や体験と強くリンクしていることも本作の特徴だろう。

さらに特筆すべきは、『aurora arc』というアルバム全体が、まるで最初から緻密な設計図のもとに作られたかのように、一大叙事詩と称すべきストーリーを描き出していること。ポイントとなっているのは、この作品の世界観―きらびやかで切なく、未来感と懐かしさが共存する―を端的に示す1曲目のインストナンバー“aurora arc”、そして、新曲の“ジャングルジム”、“流れ星の正体”だ。

アコースティックギターと歌だけで構成される“ジャングルジム”は、ジャングルジムで遊んでいた幼少期を想起しながら、それから長い月日が経ち、大人になった自分自身の心象を描き出すナンバー。美しい郷愁に溢れたメロディが心に残るが、単なるノスタルジーではなく、過去と現在のつながりを描いていることがこの曲の魅力であり、それは同時に、時間と空間を行き来するようなアルバムの在り方も反映している。

アルバムの最後に置かれた“流れ星の正体”は、儚さ、暖かさ、切なさを同時に感じさせるギターとヴォーカルを軸にしたミディアムチューン。人生を歩み続けるなかで感じる、消えることのない葛藤や迷いを見つめつつ、〈君〉に対する愛情と歌を届け続ける意思を綴ったこの曲は、オーディエンスとの関係性を強く思い起こさせる。『aurora arc』というタイトル、“月虹”、“シリウス”、“Spica”など宇宙をモチーフにした題名の楽曲もちりばめられ、これまで以上に壮大なスケール感を備えている本作だが、軸になっているのはあくまでも〈君(たち)と僕(たち)〉のストーリー。スタジアムサイズのバンドとして存在しているBUMP OF CHICKENが、20年以上に渡ってファンからの強烈な支持を獲得し続けているのは、バンドとファンが〈1対1〉で向き合っている姿勢をしっかりと維持しているからだと思う。

アルバムリリース直後の7月12日(金)からは、全国ツアー〈BUMPOF CHICKEN TOUR 2019 aurora ark〉がスタート。『aurora arc』を中心としたこのツアーで彼らは、新たな物語を紡ぐことになる。そう、BUMP OF CHICKENのストーリーはまだまだ続いていくのだ。