COLUMN

ジョーダン・ラカイ『Origin』の万華鏡のようなサウンドに沖野修也が迫る

新作と共に来日するロンドン気鋭シンガーの魅力

Photo by Ellis Scott

オーストラリア出身のシンガー・ソングライター、ジョーダン・ラカイ。2015年に活動拠点を英ロンドンに移すと、トム・ミッシュロイル・カーナー、アルファ・ミストといった同地の重要な音楽家と共演を重ねた。ジャズ、ネオ・ソウル、ダンス・ミュージックなどを横断する彼の音楽性は一言では説明しがたい。が、そのサウンドはロバート・グラスパーからサム・スミスまでを虜にし、ラカイはニンジャ・チューンとの契約作『Wallflower』(2017年)でアーティストとしての実力を世界に知らしめる。

そんなジョーダン・ラカイが、新作『Origin』を発表した。さらに、待望の来日公演も9月3日(火)から東京・丸の内のCOTTON CLUBで実施する。これを機にMikikiは、Kyoto Jazz Massive/Kyoto Jazz Sextetの沖野修也にラカイという音楽家と新作についての執筆を依頼。2017年の初来日時に〈今最も注目のアーティスト〉とコメントを寄せていた沖野が、彼の作家性を分析する。 *Mikiki編集部

JORDAN RAKEI Origin Ninja Tune/BEAT(2019)

リチャード・スペイヴン参加曲“Toko”の衝撃

ジョーダン・ラカイを知ったのは2016年にリリースされたアルバム『Cloak』がきっかけだった。20年近い付き合いになる友人で、2015年の〈東京JAZZ〉でのKyoto Jazz Sextetのライヴにゲスト参加してもらったリチャード・スペイヴンの参加曲“Toko”が収録されていたからだ。摩訶不思議なドラミングに重低音のベースが絡み付き、その両者が生み出すグルーヴの上で、しなやかなブルー・アイド・ソウルが舞う。それが僕の彼に対する第一印象だった。プログレッシヴ・ロックの実験性を持ちながら、教会音楽風の神聖なコーラスも導入される。さらには、テンポ・チェンジで幕を閉じるこの曲は、近年稀に見る折衷音楽の個人的ベスト・トラックだった。

リチャード・スペイヴンのパフォーマンス映像。演奏しているのはジョーダン・ラカイの2016年作『Cloak』収録曲“Toko”

 

ジェイムズ・ブレイクの世界観とトム・ミッシュのポップ感を兼ね備えた才能

折衷音楽。そう、イギリスから生まれた新しい音楽は常にそういう側面を持つ。リズム&ブルースを取り入れたローリング・ストーンズ、インド音楽に感化されたビートルズ、ジャズとポップスを融合させたシャーデー。90年代にはヒップホップとソウルやファンクが合体したアシッド・ジャズが、また、レゲエとテクノの邂逅から生まれたと言われるドラムンベースが、そして、ハウスとアフロやラテンを掛け合わせたブロークン・ビーツが、続々とダンス・フロアーで生み出されて来た……。

ジョーダン・ラカイの音楽は彼の出身地でもあるオーストラリアのハイエイタス・カイヨーテ的なフューチャー・ソウルと、前出のリチャード・スペイヴンをフィーチャーしたことのあるフライング・ロータス一派が牽引するLAのビート・ミュージックのハイブリッドであるとも考えられる。しかも見方によっては、2000年代のカリスマ、ジェイムズ・ブレイクに通じる深淵な世界観と朋友トム・ミッシュのポップ感を兼ね備えているとも言えるだろう。国境を超越し、明と暗の境界線をも攪拌するその折衷主義は、もはやスタイルの混合だけではなく、相反するものが表裏一体となる意識の統合でもあった。

トム・ミッシュの2015年作『Beat Tape 2』収録曲で、ジョーダン・ラカイをフィーチャーした“Wake Up This Day”

 

音楽の折衷をさらに発展させた新作『Origin』

さて、ニュー・アルバム『Origin』で彼が見せた進化とは何であったか? そこにはさらなる音楽の注入が試みられ、まさに万華鏡の様相を呈している。或いは、音のマーブルか? ディープ・ハウス、ブギー、フォーク、アフリカ音楽、 AOR、ニューエイジ、アンビエント……。しかし、それらが混在しても決して散漫になることなく、ジョーダン・ラカイならではの統一感が、そこにはある。繊細にして、エモーショナル。ルーツ的であると同時に先鋭的。つまり、新たなエッセンスを取り入れつつ、〈音楽の折衷〉をさらに発展させたと言えるのではないだろうか。

『Origin』収録曲“Rolling Into One”

 

ヒプノティックな演奏に乗ってヴォーカルが静かに盛り上がって行く“Mad World”、ミニマルなビートの上でメロディーの立体感が際立つ“Say Something”、ファンキーなベース・ラインとジョーダン節とも呼ぶべきヴォーカルのレイヤーが映える“Rolling Into One”、アフロ・ビートとどこまでもクールな歌声が並走する“Wildfire”、スティーリー・ダンにも似た風変わりなフュージョン・ロック“Moda”など、聴けば聴くほど魅せられる楽曲の枚挙にいとまがない。ジャンルでもスタイルでも区分されることなく、独自の世界が我々の目の前に提示されるのだ。ジョーダン・ラカイにはこれからもその美学を貫いて欲しい。

 


LIVE INFORMATION
2019年9月3日(火)、4日(水)、5日(木)東京・丸の内 COTTON CLUB
チケット発売:7月27日(土)11:00~http://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artists/jordan-rakei/

プレイリスト
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