COLUMN

〈NYのりゅうちぇる〉現る? ガス・ダパートンがSNS世代のアイコンたる、いくつかの理由

〈NYのりゅうちぇる〉現る? ガス・ダパートンがSNS世代のアイコンたる、いくつかの理由

特徴的な髪型とファッションをトレードマークに、i-DやVOGUE、The FADERなどファッション・メディアからもラヴコールを送られているガス・ダパートン。NY在住でまだ22歳という若きアーティストの初作『Where Polly People Go To Read』が、この度パッケージ化された。もともと4月にデジタル配信されていた同作では、打ち込みのビートと憂いあるメロディーを重ね、ローファイながらも艶やかさが漂うベッドルーム・ポップを展開。演奏やミキシングまでをやってのける彼は、〈NYのりゅうちぇる〉とでも呼びたくなるカラフルな出で立ちも含めて、いま目を離せない存在である。はたして、彼は次世代のポップ・アイコンなのか? 今回は、ライターにしてミュージシャン/映像作家でもある小鉄昇一郎が、この不世出の個性を分析した。 *Mikiki編集部

GUS DAPPERTON Where Polly People Go To Read Gus Dapperton(2019)

セルフ・プロデュース能力に長けたSNS世代の象徴

SNS時代ならではのセルフ・プロデュース能力の高さと、素朴なリリックやシンプルなサウンドの醸し出す個人的~私的な〈うた〉、その丁度中間点で、誰もが覚えやすいキャッチーなメロディー・ラインが鳴っている……ガス・ダパートンのアルバム『Where Polly People Go To Read』を通して聴いた印象はそのようなものだ。

『Where Polly People Go To Read』収録曲“My Favorite Fish”
 

〈ガス? 何?〉という方はまずは上記のミュージック・ビデオをご覧いただきたい。ギターとドラム、シンセパッドのシンプルなアレンジに、美しいコーラスとガス・ダパートン自身の歌声が描く印象的なフック。キュートだがどこかひねくれたセットや衣装、身体を張ったアクション、彼の持つユーモラスな世界観が遺憾なく発揮された楽曲/MVとなっている。

続いて、バイオグラフィー的な紹介もしておこう。ガス・ダパートンことブレンダン・ライスはNY州出身/ニュージャージー在住のシンガー・ソングライター。97年生まれで現在22歳だ。ちなみにこの世代のミュージシャンにはカミラ・カベロ、リル・ヨッティ、ジョルジャ・スミスなどがいる……と書くと、何となく空気感が見えてくる。

(髪型は頻繁に変えているが現在は)ボウルカットの印象的なシルエットに顕著な独自のセンスのアートワーク/ヴィジュアル・センスが、非常にアイコニック。次のポップ・スターとなりえるに充分な視覚的インパクトを備えている。ちなみにMikiki編集部からの原稿発注メールには〈ネオン・カラーのDIY王子〉〈NYのりゅうちぇる〉とあった(笑)。

 

ビートの薄さにこそ見る、現代的なシンガー・ソングライター像

インタヴューにて、自身が影響として挙げるアーティストには、トロ・イ・モア、キング・クルール、メトロノミー、あるいはデヴィッド・ボウイ、モリッシーなどの名前を出しているが、個人的にはジミ・テナーやモーマスのようなヨーロッパのアーティストに近しいフィーリングもあるし、あるいは〈王子様〉キャラとしてはパトリック・ウルフを思い出させる。さらにシャウトするときの潰れた声はマーク・アーモンド(ソフト・セル)のようでもあり……。

『Where Polly People Go To Read』収録曲“Fill Me Up Anthem”
 

と、過去の類型のアーティスト/サウンドの影を見出すのは容易いが、ここに挙げた(挙げられた)アーティストの共通点があるとすれば、自身のサウンドへのこだわり、ひいてはそれに基づくある種のDIY精神/トータル・コントロール志向だろう。ガス・ダパートンもその例に洩れず、楽器の演奏からミキシングまでを己で完結させている。もちろん、それ自体は現代のインディー・アーティストとしてさほど珍しいことではないし、Pitchforkなどは、それをある種の現代的な〈寂しさ〉であると皮肉っぽく評しているが……。

サウンドについて具体的に触れてみよう。全編を通して鳴らされるドラムマシーン、TR-626のボトムの薄く、パーカッシヴな演奏は、現在のダンス・ミュージックに馴れた耳からすればいささか迫力に欠ける(TR-626のバスドラムのような音をあえてこだわって使うなら、それと同時にTR-808のバスドラムを薄く鳴らして低音をチョイ足ししておく……というのが、イージーかつ一般的なテクニックである)。

が、あくまで〈ソングライターの伴奏マシーンとしてのドラムマシーン〉という、テクノ以前=70年代~80年代に製作されたドラムマシーンの本来的な役割に則って使っているのではないだろうか。坂本慎太郎もソロではTR-505をそのように使って製作しているらしいが、この古くて新しいスタイルは、現代のヒップホップに端を発するTR-808サウンドとそれを前提とした作曲への揺り戻しとして、今後注目されるのではないかと、個人的には予想している。

『Where Polly People Go To Read』収録曲“World Class Cinema”

 

ビリー・アイリッシュやリゾーに続く可能性を秘めたネオン・カラーのポップ・アイコン

先にセルフ・プロデュースと書いたが、ブレンダン・ライスは〈ガス・ダパートン〉を〈自分を再創造するためのレーベル名みたいなもの〉と、みずから定義している。オルター・エゴ(別人格)、架空のキャラクターを演じるアーティストは珍しくないが、それがレーベルである、というのが現代的な感覚――Instagramでドメスティック・ブランドを立ち上げる若者のように――なのかもしれない。アルバムの配給を手がけているのがAWAL(いわゆるレコード・レーベルというより、あくまでもミュージシャン個人が音楽をリリースするための流通網であり、日本のTuneCoreなどに近い)というのも示唆的だ。

ビリー・アイリッシュを筆頭に、リゾ、リル・ナズ・Xと、斬新なヴィジュアル・イメージと現代的なアティチュード、そして確かな音楽性を持った新たなアーティストがぞくぞくと登場しつつあるこの数年。ガス・ダパートンのネオン・カラーで彩られたイメージがそのまま2020年代の〈顔〉――ポップ・アイコンとなる日も近いかもしれない。

 


LIVE INFORMATION
GUS DAPPERTON
2019年11月28日(木)東京・代官山UNIT
開場/開演:18:30/19:30
前売り:5,500円(ドリンク代別)
★詳細はこちら

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