日本を代表するハード・ロック/ヘヴィメタル・バンド、SABER TIGERのフロントマン・下山武徳。90年代からバンド活動を始動し、ジャパニーズHR/HM界の〈アニキ〉と呼ばれ親しまれる彼が、ソロ・アルバム『WAY OF LIFE』を来る2019年11月13日(水)にリリースする。

『WAY OF LIFE』は、SABER TIGER以外のプロジェクトも多数行う下山がかねてより取り組んできたアコースティック・プロジェクトの最新作。アコースティック四部作〈地水火風〉の最終作『風音舞う』以来の、約9年ぶりの作品となる。本作には、SABER TIGERの木下昭仁と田中康治(共にギター)や、BOWWOWのリーダーでありギタリストの山本恭司らが随所でサポート。自身の過去曲のリメイク“Always”“Dec.”から、ジャズ・スタンダード“枯葉”やジョン・ケイル“Hallelujah”のカヴァー(原曲はレナード・コーエン)、そしてもちろん新曲まで充実の全10曲が収められた。曲ごとに様々な表情を見せる歌は下山自身の生き様が見えるような生々しいもので、そうした歌唱の魅力は、このシンプルなサウンドでこそ胸にまっすぐに届くような気もしてくるのだ。

Twitterのプロフィールも潔く〈ROCK SINGER〉としている下山。今回はそんな生粋のシンガーに、〈魂の歌〉への熱きプライドについて訊いてみた。

下山武徳 『WAY OF LIFE』 Walküre(2019)

 

よそ行きじゃない〈現場の歌〉

――ここから始めるのもなんなのですが、下山さんの愛称〈アニキ〉の由来が気になっていて。

「(苦笑)。SABER TIGERで出したアルバム『BRAIN DRAIN』(98年)の全国ツアーが、南からスタートして北上していくような行程だったんです。で、わりと早い段階の……熊本だったかな、打ち上げで飲んでいた居酒屋の外で乱闘騒ぎがあって。それを僕が収めたんですよ。そしたら地元の奴らが〈アニキ〉と呼ぶようになって、なぜか南から浸透していって(笑)。いつの間にか全国に広まったんですね」

――そんなピンポイントなエピソードがあったんですね。スッキリしました。では、本題に。アコースティック作のフルとしては3枚目となる『WAY OF LIFE』、手ごたえはいかがですか?

「今回はなかなかタイトなスケジュールで、追われるように録ったんです。でも、僕はアルバムを作るからと言って入念に準備をして体調整えて……とは考えていなくて。

ロック・シンガーは、舞台に上がってナンボだと思ってるんですよ。一年を通して、ステージに何度上がるか。それにしか価値がないと思っているので。そんな過酷な連日のライヴの合間を縫って録った歌を残したかったんです。小ぎれいに整えるより、現在進行形の自分の生々しいところを録りたい。

そういう意味では、2019年度の怒涛の時間の中でよく録ったなあって気持ちでいっぱいです。また非常に〈現場の歌〉というか、よそ行きじゃない歌が録れたんじゃないかな。よくやったなと思ってますね」

――本隊のSABER TIGER以外にもいろんな形態で活動をされていますし、今年のライヴ・スケジュールを振り返っても、つねに何らかのツアーを回っている状態で。定期的に開催されている弾き語りソロ・ライヴ〈下山武徳的夜会〉では、今作の収録曲も披露されているんですよね。

「ええ。〈下山武徳的夜会〉は二部制になっていて、一部ではカヴァー、二部では自分のオリジナル曲って分けてやってるんです。カヴァーは演歌に昭和歌謡、フォーク、ニュー・ミュージック、ハード・ロック……洋邦問わずなんでもやってますね」

――今作での選曲も、ジョン・ケイル版の“Hallelujah”に“枯葉”と意外なもので。

「“Hallelujah”はいろんな方がカヴァーしていますが、僕自身ジョン・ケイルが特別好きなわけではなく、単純に曲が好きなんですよ。ライヴでもよくやっているので、いつか作品にしたいと思っていて。わりと雑食でいろんな音楽を聴くんですが、曲自体にピンときたものをカヴァーすることが多いです。

ジョン・ケイルの92年のライヴ・アルバム『Fragments Of A Rainy Season』収録曲“Hallelujah”。レナード・コーエンのカヴァー

ただ、“枯葉”もそれこそいろんなヴァージョンがありますけど、僕が今回やったのはエヴァ・キャシディっていうアメリカのシンガーのものに影響を受けています。ずいぶん前に亡くなっていて、日本ではあまり知られてないと思いますが、彼女のことは大好きで。CDも入手が困難なので、取り寄せて聴いています。アレンジはライヴのときとほぼ一緒ですが、リード・ギターをSABER TIGERのリーダー(木下昭仁)に弾いてもらってるので、多少違いますね」

エヴァ・キャシディの97年のライヴ・アルバム『Live at Blues Alley』収録曲“Autumn Leaves”

――木下さんをはじめ、今作には馴染み深い方々が参加されています。

「逆に親交が深くないと、あまり意味がないと思ってるんです。ネーム・ヴァリューだけで、お金で釣り上げたようなものを作っても、ニセモノなので。

BOWWOWの山本恭司さんとは毎年ふたりでツアーを廻っていますし、快く引き受けていただきました。恭司さんにはミュージック・ビデオと、あと1月18日(土)のレコ発ライヴにも参加してもらうことになっています」