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村越辰哉(新宿店副店長)が選ぶ10曲

泣く泣く10曲に絞るくらい素晴らしい楽曲、アーティストに出会えたという点では悪くない2020年でした。

1. Margo Price “That’s How Rumors Get Started”

ジャック・ホワイト主宰サード・マン・レコード発のファースト、セカンドはオルタナティヴ風味もカントリーの範疇にあったが、本作3rdはメロディアスな曲作りへのトライが成功。リッキー・リー・ジョーンズ的小悪魔系年齢不詳ヴォイスと相まってどこか耽美的な雰囲気を醸し出しておりまして、その決定的な楽曲がこちら。ドラムにファンク名手ジェイムズ・ギャドソン! ベースには、ピノ・パラディーノ(ジョン・メイヤー・トリオ、ディアンジェロ、再結成ザ・フー)とリズム隊も豪華!

★収録作『That’s How Rumors Get Started』についての記事はこちら

2. Molly Tuttle “Olympia, WA”

ブルーグラス~アメリカーナシーンで活躍しているモリ―ちゃん。ストーンズ他、カレン・ダルトン、グレイトフル・デッド、FKAツイッグス、ヤ―・ヤー・ヤーズ、ザ・ナショナル、さらにハリー・スタイルズまで、意外な選曲と明らかに図抜けたギターの腕前が堪能でき才女との〈出会いの一作〉として最適なカヴァーアルバムから、USパンクの雄ランシドのこの曲、疾走感に文句なしのソロにぶっとびました。

★収録作『...But I’d Rather Be With You』についての記事はこちら

日本語による情報がほぼ得られないUS美魔女カントリー。可憐な歌声+70年代にありそうな既聴感を呼ぶ作曲の才(全曲自作)+アコースティックな響きを大切したオーソドックスにして押し引きサジ加減の絶妙なバンドサウンドに〈合衆国はまだまだ広い!〉と驚嘆。

★収録作『We Still Go To Rodeos』についての記事はこちら

マッスルショールズ生まれのローラとリディアの姉妹のハーモニーを中心にしたフォーク~カントリーロック系サウンドで穏やかさの中に米国南部特有のゴシックをはらみ妖しさと美しさが同居しているスピリチュアルなフォーキー傑作。粒ぞろいの楽曲のなかでもこの曲がピカイチ。似ていないけどローラ・ニーロ的なサムシングを感じます。

5. Katie Pruitt “Out Of The Blue”

米国ルーツの名門Rounderより次世代フォーキーの新星デビュー作。この楽曲は私の年間チャート、常に上位に君臨。エコーの利いたエレキギター、温もりあるシンプルなドラムに、憂いを湛えたケイティのヴォーカル。Aメロ歌いだし直後にマジカルなコードチェンジ、Aメロを受け止め飛翔するBメロから結びのリリックまで、一生に一度書けるか書けないか級の名曲生み出しちゃった感にひきつけられました。

★収録作『Expectations』についての記事はこちら

★収録作『Hate For Sale』についての記事はこちら

★収録作『The Moon Is An Ashtray』についての記事はこちら

★収録作『Shelby Lynne』についての記事はこちら

★収録作『Been Around』についての記事はこちら

★収録作『Only When I’m Dancing』についての記事はこちら

 

寺本将巳(タワーレコード福岡パルコ店店長)が選ぶ10曲

2020年は音楽シーンにおいても多くの変化と、多くの思いが込められた年になりました。2021年の新たな出会いに期待しつつ、2020年多くの音楽に出会えたことに感謝し、振り返りたいと思います。全体的にメロウでリラックスした雰囲気が多いと思いますが、K-POPの勢いとクオリティーに圧倒された年でもありました。まず先にリストアップしてから文章を書いてるのですが、なかなか振り幅の広い選曲でまとまりが無いような、、、。貫くテーマは〈心を燃やせ。〉でしょうか。

NCT U “Make A Wish (Birthday Song)”

印象的な口笛で始まる、太くうねるベースとタイトなビートが効いたゴリゴリのHIPHOPかと思いきや、途中の展開に意表を付かれ兎に角カッコ良し、一髪でヤラれました。小気味よくマイクリレーのように繋がれていく各パートもそれぞれの個性が際立っていて、ついついリピートしてしまう中毒性の高い曲。口笛曲はハマる曲多いですね。

BTS “Dis-ease”

“Dynamite”のヒットから正に待望のリリースとなった『BE』。〈新しい日常でも人生は続いてく〉というコンセプトで製作されたアルバムは、音楽的な要素もふんだんに盛り込まれ、全体を通して穏やかな空気感と力強さを持つ素晴らしい作品、その中から1曲。タイトなビートとラップで始まり、90's R&B/HIP-HOP的な曲調に展開するところが個人的にツボ。Dis-ease/病というキーワードにポジティブなメッセージが込められた曲。

お店でかかっているのを聴いてもう完全に持っていかれました。夢に向かって挑戦する青春がテーマ、私おじさんにはなんとも刺激的なコンセプトのミニアルバム『Heng:garæ』からの1曲。メロウで切ない曲調が穏やかに打ち寄せる波のように優しく心に響く曲。

眠りながら飛行するアマツバメ着想を得て制作されたアルバム『Sleep On The Wing』。空からの視点で田園風景を眺めたかのような穏やかで優しい時が流れる作品。オークモスはオークの木に生える苔。重なり合う楽器とヴォーカルが心地よい一曲。

Eve Owen “So Still For You”

The Nationalの作品にも参加し、この曲が収録されたデビューアルバムではThe Nationalメンバーも参加。これからの活躍に期待する20歳のシンガーソングライターによる素朴でまろやかな1曲。少し震えるような声質も曲調と相まってどこか切なさを感じさせます。

Minor Threat/Fugaziで知られるイアン・マッケイと妻エイミー・ファリナ、同じくFugaziのジョー・ラリーが結成した新バンド、コリキーの初音源。シンプルな編成で繰り出されるゴリっとした音とこの緊張感、フガジ色もあり2020年一番聴いたロックアルバム。まずは何よりイアンの歌声とエモーショナル展開に胸が熱くなるアルバム1曲目。

2020年リリースされた『Notes On A Conditional Form』は音楽的な幅が広く、様々なジャンル、要素、個性的な曲が詰め込まれた80分を超える超大作。じっくりと時間をかけ消化していますが、その中でも染み込んだのがこの1曲。何か巨大で美しいものに対峙したような感覚にさせられる曲です。

『The Saga Of Wiz Khalifa』からの1曲。ロジックを客演に迎えたこの曲はタイトルから分かる通りハイになってチルして自身のキャリアを振り返る、といった内容のようですが、リラックスした雰囲気が心地良くなんだか気持ちが落ち着く曲。

強烈なメッセージと精力的な活動で目が離せないチャイルディッシュ・ガンビーノが2020年3月15日にサプライズリリース。タイトル『3.15.20』となったアルバムから“53.49”。シンプルで力強いメッセージが込められた曲。

Kamasi Washington “Becoming”

Netflixで公開されたミシェル・オバマに密着したドキュメンタリー映画。カマシ・ワシントンによるサントラ『Becoming』は新曲と過去曲の再録含む15曲。タイトル曲は映画全体を貫くポジティブな空気を含んだ旋律が軽やか爽やかに駆け抜ける1曲。

 

天野龍太郎(Mikiki編集部)が選ぶ10曲

このMikikiの連載でももちろんそうですし、他のメディアでも2020年のフェイヴァリット・アルバムや楽曲を選んで書いたり、海外メディアの評価を気にしたりと、なにが自分の本当のお気に入りなのかわからなくなってきました。被らないように、と気を遣うのもめんどくさい。というわけで、思いついた曲を思いついた順に紹介します(とはいえ、一応被りを気にしました)。

1. Phoebe Bridgers “I Know The End”

アルバム『Punisher』より。コロナ禍とはいえ、続いていく生活のなかで大きな変化を感じなかったのは、私が恵まれているからなのでしょうか。2020年はフィービー・ブリジャーズの絶叫の残響のなかで生きているような一年でした。

レイヴなき時代のレイヴ。初めて出会ったときにぶっとばされて、一時期ずーっとこの“I’m Waiting (Just 4 U)”と“For You”ばっかり聴いていました。インディア・ジョーダンはこの年末、いろいろな賞を受賞していて大活躍ですね。

SZAのカムバックは2020年のうれしい出来事のひとつ。センシュアルでエレガントな“Hit Different”には、何度も心を揺さぶられています。12月25日には、さらに新曲“Good Days”がリリースされました。

ビリー・アイリッシュの音楽にはもっと攻めたサウンド・プロダクションを求めているのですが、それでも、とても親密でリアルな“my future”のことをだんだんと好きになっていきました。

5. Megan Thee Stallion “Body”

メーガン・ザ・スタリオンこそが2020年のMVP! どの曲を選ぶのかは迷うところですが、現在ヒット中の“Body”をチョイスしてみました。この曲を収めたデビュー・アルバム『Good News』には、ヒューストン出身でUGKのピンプ・Cやスリー・6・マフィアが好きだというメグらしさ、つまり、サザン・ヒップホップのカルチャーが息づいているのを感じます。骨太で、けれども、ちょっとノスタルジックな内容が最高です。

この1、2年、気になっていたアフロビーツ。本格的にハマったのは今年です。バーナ・ボーイは『Twice As Tall』で別格になったと思いますし、先輩のウィズキッド“No Stress”とアルバム『Made In Lagos』もフェイヴァリットでした。ダヴィドの“FEM”は〈PSN〉で取り上げられませんでしたが、その後ナイジェリアのデモで象徴的な楽曲になったことを含めて印象深い一曲です。アルバム『A Better Time』もめちゃくちゃよかった。

7. Anuel AA “Keii”

バッド・バニーが大活躍した2020年。レゲトン/ラテン・トラップでは、アヌエル・AAのセカンド・アルバム『Emmanuel』とニオ・ガルシア&カスペル・マヒコの『Now Or Never』が私にとって重要な作品でした。ただ、アヌエルのシングル“Keii”は『Emmanuel』に未収録。彼がドラキュラになるミュージック・ビデオも含めて、とても印象に残っているので選びました。

ポップカーンの『FIXTAPE』(と2019年末に発表された『Vanquish』)はよく聴いたアルバムです。ドレイクとパーティーネクストドアーというOVOファミリーが参加した“TWIST & TURN”は、泥臭さはおさえめで、ずぶずぶとヒプノティックなサウンド。ダンスホールはおもしろいジャンルだと思っているので、今後レゲトンやアフロビーツのようにさらにグローバルな広がりを見せてくれることに期待しています。

ブルックリン・ドリルへの興味から、UKドリルにもハマったこの一年。ヘッディ・ワンの『Edna』は素晴らしい作品でした。そして、若手のロウスキーも超かっこいい。そんなわけで、彼の傑作『Music, Trial & Trauma: A Drill Story』のオープニング・ナンバー“Teddy Bruckshot 2”を選んでみました。

ギャングスタ・ラップの奥深さにますますハマったのも、2020年です。獄中から電話越しに録音したドラキオ・ザ・ルーラーのアルバム『Thank You For Using GTL』には、大きな衝撃を受けました。彼はその後無事に出所し、“Fights Don’t Matter”を発表。このめちゃくちゃダウナーなフロウにはやられます。ドラキオはこの後にアルバム『We Know The Truth』をリリース。LAのドラキオとデトロイトのベイビー・スムーヴは、2020年、私にとって重要なラッパーでした。

次点はケリー・リー・オーウェンスの“Melt!”テイラー・スウィフトの“mirrorball”チャーリー・XCXの“anthems”。トラップは頭打ちになってしまったように感じましたが、リル・ウージー・ヴァート、リル・ベイビー、ガンナといったスターたちの活躍は印象的でした。ついにアルバム『A Written Testimony』をリリースしたジェイ・エレクトロニカ、キッド・カディ、ビッグ・ショーンら、中堅どころもかっこよかった。ただ、今年はメッドヘイン、ピンク・シーフ、ムーア・マザーなどに存在感があって、アンダーグラウンド・シーンへの興味が強まりました。

それ以上に、アフロビーツ、レゲトン/ラテン・トラップ、ダンスホール、英米のドリル、ギャングスタ・ラップを聴いた興奮が、この10曲にはそのまま表れています。こういった音楽こそがいまはポップだと信じてやまないし、だから連載にもねじこんでいるのですが、このあたりの文脈を共有できるリスナーが周りにぜんぜんいない……(この音楽業界でも、ですよ!)。レゲトンなんていまや、グローバルなポップのど真ん中なのに。そもそも、ラップのリスナーも周りにほとんどいない。なので、友だちを募集しています。

あと、最後にひとつだけ。

RIP Pop Smoke

来年もMikikiをどうぞよろしくお願いいたします!