もはや欧米中心ではないグローバルな音楽シーン

経済のグローバル化によって、ポップ・ミュージックもますます欧米中心ではなくなってきている。80年代から90年代前半の、いわゆるワールド・ミュージック(いまは〈グローバル・ミュージック〉と言ったほうが、ポリティカル・コレクトネスに適っている)の流行はその象徴だった。文化的に大きなうねりになったワールド・ミュージック・ブームは欧米の音楽に慣れ親しんだリスナーの耳を〈開いた〉とはいえ、それによって各地域のポップ・ミュージックがアメリカやヨーロッパのメインストリームに食いこむようなことは、それほどなかったと言っていい。

状況が変わってきたのが、ブームが過ぎ去った90年代後半から2000年代にかけてで、主に南米発の音楽が広く受け入れられてヒットしたり、アメリカのヒップホップやR&Bと融合したりと、少しずつ地図が塗り替えられていく(もちろん、歴史的にラテン音楽はアメリカやヨーロッパのシーンと密接な関係にあったのだが)。それが、2010年代以降のレゲトン/ラテン・トラップの主流化に繋がっていることは、こちらの記事で紹介したとおりだ。

2010年代は、さらに大きな変化が起こった。K-Popの台頭である。BTSを筆頭に、K-Popのアーティストの楽曲が欧米のヒット・チャートに入ることは、珍しいことではなくなった。多文化主義のヨーロッパとはちがい、他国の文化をストレートには受け入れないと言われるアメリカでも、これほどまでに状況が変化するとは……。

主にアメリカのヒップホップやR&Bの要素を積極的に取り入れながら、地域の独自性を反映したポップ・ミュージックが欧米圏の外側から現れて、影響力を増している。そんななかで、アジアや南米とともに盛り上がりを見せている地域は、どこよりもアフリカだろう。

 

アフロビーツとはなにか

経済的な発展やインターネットの普及にともない、独自のアートやカルチャーが注目を集めている近年のアフリカは、これまで以上に優れたポップ・ミュージックの発信地になっている。もちろんアフリカといっても広大で、さまざまな地域と民族、文化があるが、ここで紹介したいのはナイジェリアを中心とした主流ジャンル〈アフロビーツ〉だ。

アフロビー(Afrobeats)、あるいは〈アフロポップ(Afropop)〉や〈アフロフュージョン(Afrofusion)〉と呼ばれるこのスタイルは、ナイジェリアのフェラ・クティとトニー・アレンが60~70年代に生んだ〈アフロビー〉とは異なるものであることにまず注意したい(なお、〈アフロビーツ〉という言葉を使うのはやめよう、という議論もある)。アフロビーツは、ナイジェリアやガーナなどの西アフリカで2000年代以降に進化していった、より現代的なポップ・ミュージックなのだ。

そのルーツには、もちろんアフロビートやガーナのハイライフ、ナイジェリアのジュジュなど、アフリカの過去のポップ・ミュージックがある(アフロビーツの代表的なアーティストであるバーナ・ボーイの祖父がフェラ・クティのマネージャーだった、というのは興味深い事実だ)。とはいえ、より大きいのはダンスホール・レゲエ、そしてアメリカのヒップホップとR&Bからの影響で、それらがナイジェリアやガーナのリズムやメロディー、ヨルバ語のリリックなどと組み合わせられたのがアフロビーツである。

ウィズキッドの2014年作『Ayo』収録曲“Jaiye Jaiye (Feat. Femi Kuti)”。フェラ・クティの息子、フェミ・クティをフィーチャーしている

アフロビーツにはサブジャンルが多く、スタイルもさまざまであるが、ビートはダンスホール/レゲトンに近いものが一般的である。ダンスホールやレゲトンの基本になっているリズムが〈トレシージョ〉なのに対して、アフロビーツに多いのは〈3-2〉で刻まれる〈ソン・クラーヴェ〉をアレンジしたもの。4つ打ちのキックを基調にしない場合も多く、テンポについては、最近はスロウダウンしてBPM 90~110程度のゆったりとしたものが増えた。

※Son clave。アフロ・キューバン音楽で一般的なパターン。ラテンのリズムだが、〈アフロ〉とあるように、もともとはアフリカ由来である

ソン・クラーヴェの演奏動画

また、アフリカン・パーカッションやレゲエ風のフィルイン、ハイライフ風のギターのアルペジオが多用されるのも特徴。バス・ドラムやベースなどの低音を強調しすぎずに、中・高音域を豊かに響かせるのも、トラップやレゲエと比べたときの独自性だろう。

しかし、最近はレゲトンやトラップの影響からか、4つ打ちを取り入れてローを強調し、ソン・クラーヴェよりもシンプルなトレシージョのリズムを使った曲も多い。アフロビーツは常に変化・進化し続けているのだ。