©2021 Universal Studios. All Rights Reserved.

ミュージカル・ナンバーが銀幕の世界と融合。
サントラ盤も充実の心を震わせる音楽劇。

 エヴァンは社交不安症の高校生。他人と関わることが苦手で、誰にも心を開けずにいる。木から落ちて骨折し、手にギプスをはめているがそこに寄せ書きしてくれる友達もいない。セラピストに〈Dear Evan Hansen(親愛なるエヴァン・ハンセンへ)〉で始まる自らに宛てた手紙を書くようにアドバイスされても、なかなか気が進まない。そんなある日、彼は学校の図書室で同級生のコナーに突然話しかけられ、誰にも見られたくない心の内を語った自分宛の手紙を奪われてしまう。実は密かにコナーの妹ゾーイに想いを寄せていたこともあり、エヴァンはコナーに晒し者にされるのではないかと不安にかられるが、その後校長室に呼び出され、コナーが自ら命を絶った事を知らされる。しかもポケットから例の手紙をみつけたコナーの両親は、それを息子が親しかったエヴァン宛に書いた最期の言葉だと思い込んでしまう。彼らをこれ以上苦しめたくないエヴァンは、思わず話を合わせてしまって誤解を解くことができず、そればかりかコナーとは親友で、秘密のアカウントを使ってメールのやりとりもしていた、と嘘をついてしまう。やがて学校では同級生のアラナによって、コナーのような若者たちを救うための〈コナー・プロジェクト〉が発足。更には追悼式でエヴァンの語った内容が参列者を感動させ、そのスピーチ映像がSNSを通じて急速に拡散されて大反響を呼ぶのだった。図らずもみんなが注目する存在となったエヴァンだが、事態は思いもよらぬ方向に……。

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 本作はブロードウェイで2016年に上演。初めてSNSを題材として扱い、これまでにない構成を取り入れた作品として話題を呼んで、チケットの連日完売を記録。第71回トニー賞でミュージカル作品賞、オリジナル楽曲賞を含む6冠に輝いた傑作を映画化したもの。主演も、ブロードウェイ版の初代エヴァン役で繊細な演技と抜群の歌唱力が大絶賛されたベン・プラットが務める。アメリカのショー・ビジネス界の超大物、マーク・プラットを父に持つ彼は1993年生まれ。子役時代から舞台で活躍し2012年に「ブック・オブ・モルモン」でブロードウェイ・デビューを果たし、同年ヒット映画の「ピッチ・パーフェクト」にも出演。2019年にはアルバムもリリースし全米ツアーを成功させた実力派シンガー・ソングライターの顔も持つ。またNetflixのオリジナル・ドラマ「ザ・ポリティシャン」(2019年~)で彼を知ったという日本人も少なくないはず。その他、ゾーイ役を映画「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」(2019年)でのガリ勉女子高生役も鮮烈だったケイトリン・デヴァーが好演し、裕福なコナーの家の両親をダニー・ピノ(※CBSドラマ「コールドケース」のスコッティ役で有名)とエイミー・アダムスが、エヴァンの母親をジュリアン・ムーアが演じているのも映画ならではの楽しみだ。

 音楽を手掛けたのはベンジ・パセックとジャスティン・ポールで、このコンビはミュージカル作品の他、映画「ラ・ラ・ランド」の“シティ・オブ・スターズ”(※アカデミー歌曲賞の受賞曲)をジャスティン・ハーウィッツと共作し、映画「グレイテスト・ショーマン」の“ディス・イズ・ミー”を作曲したことでも知られるソングライター・チーム。二人の書いたナンバーが(一部を除いて)そのまま使われて、登場人物の台詞や心の声となり、映画的な世界と見事にマッチしているのが圧巻。どれもキャッチーな名曲ぞろいで、オープニングの“ウェイヴィング・スルー・ア・ウィンドウ”から心を掴まれてしまう。臆病で自分の居場所をみつけられないエヴァンが〈窓越しに手を振っている僕に、誰か気がついてよ!〉と叫んでいるかのような同曲は、いつかこの役を自分でも演じてみたいと生前に話していた三浦春馬もステージでカヴァーしていたキラーチューン。そして、エヴァンがコナーの追悼に寄せて「どんなに孤独を感じても、君はひとりじゃない」とスピーチし、それがネットでどんどんシェアされて人々に勇気を与えていく様子を描いた“ユー・ウィル・ビー・ファウンド”も、主題歌のようにこの作品を代表する楽曲になっている。また、ゾーイがエヴァンに対して、コナーの存在ではなく、二人だけの絆で繋がっていたいと告白する場面のナンバー“オンリー・アス”を歌うケイトリン・デヴァーも素敵だが、シングル・マザー役のジュリアン・ムーアが物語のクライマックスで息子に向けて歌う“ソー・ビッグ/ソー・スモール”も感涙ナンバー。同曲はスター・ソプラノのルネ・フレミングも2018年にリリースしたミュージカル曲集『Broadway』で歌っているので、オペラ・ファンは必聴である。

 加えて、映画版のために新たに書き下ろされた楽曲も充実。特に優等生アラナが意外な心境を打ち明ける“ジ・アノニマス・ワンズ”が同役を演じたアマンドラ・ステンバーグ(※歌手としても活動中)とパセック&ポールとの共作曲なのにも注目したい。コナーのキュートな一面が垣間見えるコルトン・ライアンが歌う“ア・リトル・クローサー”も佳曲である。なお、この2曲にはそれぞれ歌姫シザとフィニアス(※ビリー・アイリッシュの兄)によるカヴァーもあり、映像もアップされているのでチェック必至。この他、11月24日に国内盤が発売予定のオリジナル・サウンドトラック盤には、サム・スミス&サマー・ウォーカーが歌う“ユー・ウィル・ビー・ファウンド”やキャリー・アンダーウッドとダン+シェイによる“オンリー・アス”なども収録されているので強くお薦めしたい。

 


CINEMA INFORMATION

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ディア・エヴァン・ハンセン
監督:スティーヴン・チョボスキー(「ワンダー 君は太陽」「ウォールフラワー」)
脚本:スティーヴン・レヴェンソン
楽曲:ベンジ・パセック&ジャスティン・ポール(「ラ・ラ・ランド」「グレイテスト・ショーマン」)
出演:ベン・プラット/ケイトリン・デヴァー/ジュリアン・ムーア/エイミー・アダムス/他
配給:東宝東和(2021年|アメリカ|138分)
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2021年11月26日(金)公開
https://deh-movie.jp/