叶う夢もあれば、叶わない夢もある! …それでも「夢見る」ことは美しい(涙)
フレンチ・ミュージカル映画の金字塔『ロシュフォールの恋人たち』の「トランスボドゥール橋」を大渋滞のロスの高速道路でより大胆に再現したかのような冒頭シーンに始まり、魅惑のマジックアワーに街を見下ろす丘の上で繰り広げられる『バンド・ワゴン』みたいな男女のダンス、『雨に唄えば』の映画スタジオを思わせる華やかなセットに『巴里のアメリカ人』ばりに取り揃えた色とりどりの衣装…と、シネマスコープで撮られた映画『ラ・ラ・ランド』には随所に往年の名画へのオマージュが散りばめられている。
もちろん楽しみはヴィジュアル面だけではない。何しろ監督・脚本は前作『セッション』でジャズに取り憑かれた青年の狂気を描いたデイミアン・チャゼルで、音楽担当はその(ハーバード大時代からの)盟友、ジャスティン・ハーウィッツという黄金コンビ。今回も主人公である売れないピアニストのセバスチャン(ライアン・ゴズリング)を代弁者に、セロニアス・モンクなどの「ジャズ愛」溢れるアイテムを折り込みつつ、巨匠ミシェル・ルグランを彷彿とさせる見事なオリジナル・スコアで劇中を彩った。どの楽曲も素晴らしいが、薄明の桟橋の上でライアンの物憂げな声で歌われる《シティ・オブ・スターズ》(※後にデュエット歌唱もあり)と、ブロードウェイ経験もあるエマ・ストーンの熱唱に心を揺さぶられるヒロイン、ミアのキラーチューン《オーディション》は特に必聴…何とこの2曲は共にアカデミー賞・主題歌賞にノミネート。ジャズ・ナンバー以外でも、例えばクラシックのバレエ曲風の《プラネタリウム》などにもハーウィッツの優れた才能が感じられるし、そもそも哀愁あるピアノ曲の旋律からして最高。同・作曲賞ノミニーも納得だ。
おまけに現代R&Bシーンきってのスター、ジョン・レジェンドも出演し「ジャズは死にかけている。世間は死なせてやれというけど俺は許さない」と熱く語っていたセバスチャンの運命を左右する、イマドキな人気バンドのヴォーカリスト役を好演。そんな彼が披露する(※ジョンの書き下ろし曲)《スタート・ア・ファイア》も結構な素敵曲だったりする。
とにかく全編が極上のミュージカル・エンターテインメントな128分間だが、恋愛映画としての完成度も一級品。夢追い人が集まる街「LA LA LAND(ロスのハリウッド地域)」を舞台に、恋におちた二人の行方を季節ごとにエピソードを重ねて追い、人生には叶う望みもあれば手に入らない願いもある…だがそれでもなお「夢見る」ことは美しい! と正面切って描いた本作は全ての恋人たちに捧げられた贈り物のような1本。圧巻のエピローグは『シェルブールの雨傘』の感動を超えた仕上がりかも。
既に、7部門で完全受賞を果たしたゴールデン・グローブ賞を始め、数多の賞レースを席巻。過去最多タイ14ノミネート(13部門)のオスカーではどんな快挙を?※
※監督賞、主演女優賞ほかアカデミー賞最多6部門受賞
映画『ラ・ラ・ランド』
監督・脚本:デイミアン・チャゼル
作曲:ジャスティン・ハーウィッツ
エグゼクティヴ音楽プロデューサー:マリウス・デ・ヴリーズ
音楽監督:スティーヴン・ギシュツキ
出演:ライアン・ゴズリング/エマ・ストーン/カリー・ヘルナンデス/ジェシカ・ローゼンバーグ/ソノヤ・ミズノ/ローウマリー・デヴィッド/J・K・シモンズ/他
配給:ギャガ/ポニーキャニオン (2016年 アメリカ 128分)
◎2/24(金)TOHOシネマズ みゆき座ほか全国ロードショー!
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