©Terence Angsioco

サンタナやトロイ・モアと出会い、探り当てた音楽の理想郷――天才FKJの到達した音風景

 今や飛ぶ鳥を落とす勢いのマルチ奏者/プロデユーサー、FKJ。 レイドバックしたパーティーにも、1人でのリスニングにも適した、声と演奏からなる繊細な音使いで、ジェイムス・ブレイク、フランク・オーシャン、トム・ミッシュ以降に応答したアーティストと言えるだろう。2作目となるアルバムタイトルは、彼のファーストネームと同じ『V I N C E N T』だ。そのダイレクトさからは、作品そのものにまず触れてほしいという願望と、創作の充実がうかがえるようだ。

FKJ 『V I N C E N T』 FKJ/BEAT(2022)

 最近ではピアノインスト動画でも注目を集め『Just Piano』もリリースしたが、今作では心地よいビートと繊細な歌中心の楽曲群に戻り、忘れられた自然の純粋さのようなものに迫っている。例えば廃墟となった遊園地を彷徨う動画が印象的な“Way Out”は、音源もまた足音と扉を開く音から始まる。それはスクエアすぎ、不安に満ちた現実からの離脱であり、メランコリックで洗練されたピアノの音づかいと、ストリングスとヴォーコーダーのメロウな融合は、リスナーを幻想的な世界へと誘う。FKJが昔からリスペクトしていて、今回共演が実現したのがカルロス・サンタナだ。“Greener”では、内省的な歌声とビート間の静寂に対し、熱量のあるサンタナの奔放なエレキギターがコントラストを放つ。コラボの巧さについてはリトル・ドラゴン“Can’t Stop”や、トロ・イ・モアとの“A Moment Of Mystery”もあるが、ここでは伴侶の((( O )))ことジューン・マリージーとの“Brass Necklace”で、子守唄のような旋律に対し、少しディチューンした音でノスタルジーを、高速シンセフレーズで陶酔を表現したことを挙げたい。それにしても、アナログとデジタル、打ち込みと即興性、歌とアレンジ、その〈あわい〉にあるうまみのようなものを、FKJはいとも簡単に探り当ててしまう。

 子供の誕生というプライベートな出来事、そして出会いを通した成長。幾多の魅力的なレイヤーに包まれ、ポストコロナにおける生と音楽とは何かを問いかけるような会心の作品が誕生した。