もはやサイド・プロジェクトではない! 勢いの止まらないスーパー・トリオが日本独自企画のライヴ盤をリリース。荒々しさと細やかさを同居させた演奏がこのバンドの真価を映す!!!

 レディオヘッドの2人――フロントマンのトム・ヨークとギタリストのジョニー・グリーンウッドに、ジャズを出自にサンズ・オブ・ケメットなどで活躍するドラマーのトム・スキナーを加えた3人組バンド、ザ・スマイル。彼らがライヴ盤『Europe Live Recordings 2022 / Live At Montreux Jazz Festival, July 2022』をリリースした。これは、以前に発表されたふたつの音源をまとめた日本独自の企画盤。2022年のヨーロッパ・ツアーから選りすぐりのライヴ・テイクを収録した『Europe Live Recordings 2022』(2023年3月)、同年7月にスイスで開催された〈モントルー・ジャズ・フェスティヴァル〉での演奏を収めた『Live At Montreux Jazz Festival, July 2022』(2022年12月)が1枚にパッケージされている。特に前者はこれまでアナログ盤限定のリリース、かつ日本には300枚しか流通されず瞬く間に市場から姿を消し、いまのところデジタル配信が一切されていないため、今回のCD化を喜ぶリスナーは多いだろう。

THE SMILE 『Europe Live Recordings 2022 / Live At Montreux Jazz Festival, July 2022』 BEAT(2023)

 思えば、世界が初めてザ・スマイルと出会ったのもライヴだった。初お披露目となったのは、2021年5月に行われた〈グラストンベリー・フェスティヴァル〉主催のライヴ配信イヴェント〈Live At Worthy Farm〉。その後、アルバム『A Light For Attracting Attention』のリリース(2022年6月)を挟みつつ、この2年間ですでに90本近いステージを重ねていることをふまえると、この3人がライヴに力を入れていることには疑いの余地はない。特にレディオヘッドがしばらく閉店休業状態であるヨークとグリーンウッドにとっては、明らかにザ・スマイルがバンドとしての主戦場。ゆえに今回の作品は、オリジナル・アルバム以上に、このバンドの本質を捉えたものではないだろうか。

 1曲目“The Opposite”の演奏から凄まじい。スキナーの精緻で細やかなドラミング、グリーンウッドのソリッドなギター、ヨークの地を這うようなベースが渾然一体となり、濃密なファンクネスを醸し出している。スタジオ版と比べても、圧倒的にダイナミックなアンサンブルで、ツアーを進めていくことで、バンドが仕上がっていったことがわかる。この曲や続くポスト・パンク調の“Thin Thing”、アコギとピアノを中心に置いたバラード“Free In The Knowledge”は、ふたつのヴァージョンを収録しているため、ライヴごとの異なるニュアンスを聴き比べるのもおもしろい。個人的には、さまざまな会場からのベスト・テイクを収録した〈Europe〉のほうが演奏の完成度は高い印象だったものの、〈Montreux〉は録音がやや粗い面も含めて妙な勢いがあり、パンキッシュな魅力を感じた。ノーウェイヴ~アンダーグラウンド・パンク的なサウンドと、トリックスター的なヨークの佇まいもハマっている。カルトなロックンロールを偏愛しているストロークスのジュリアン・カサブランカスがザ・スマイルのライヴを「ここ数年でいちばん」と絶賛したことも納得できる。

 アルバム『A Light For Attracting Attention』の収録曲が曲目の大半を占めているなかで、〈Europe〉の3曲目“FeelingPulledApartByHorses”に注目してほしい。実は、この曲はトム・ヨークがソロとして2009年に発表したシングル。アトムス・フォー・ピースのライヴで演奏されたこともあるが、シングルの録音にはジョニー・グリーンウッドも参加していたため、ザ・スマイルで演奏されることは理に適っていよう。IDM要素の強かったスタジオ版とは打って変わって、ヒプノティックなサイケ・ロックに仕上げている本ライヴでの演奏は、痺れるほどのカッコよさだ。

 アフロビート風の“The Smoke”、クレオ・ソルやソーといった昨今のUKジャズ~ソウルにも重なる“Waving A White Flag”などではスキナーの多彩なドラミングを堪能できる。また、“The Same (Live EP Version)”では打ち込みのシーケンサーも彼が担当しているようだ。トリオとしての脂の乗りっぷりを余すところなく伝える今回のライヴ盤。本作を繰り返し聴きつつ、あとは遠くない未来の初来日を願うばかりだ。

左から、ザ・スマイルの2022年作『A Light For Attracting Attention』(XL)、トム・ヨークが参加したクラークの2023年作『Sus Dog』(Throttle)、ドゥドゥ・タッサ&ジョニー・グリーンウッドの2023年作『Jarak Qaribak』(World Circuit/BMG)、レディオヘッドの編集盤『Kid A Mnesia』(XL)

トム・スキナーの関連作。
左から、2022年作『Voices Of Bishara』(Brownswood)、デイヴ・オクム&ザ・7ジェネレーションズの2023年作『I Came From Love』(Transgressive)、ロンドン・ブリューの2023年作『London Brew』(Concord Jazz)