トム・ヨーク、ジョニー・グリーンウッド、トム・スキナーによるバンド、ザ・スマイルのセカンドアルバム『Wall Of Eyes』が2024年1月26日にリリースされた。すでに多くのリスナーが本作を聴き、その内容と完成度に圧倒されたはずだ。

そんな傑作『Wall Of Eyes』の正規リリースに先駆け、東京・新宿にて〈Wall Of Eyes, On Film〉なるイベントが開催された。本稿では、日本を含む世界16か所の映画館でおこなわれ、限られた人しか足を運べなかった同イベントの模様をレポートする。

THE SMILE 『Wall Of Eyes』 XL/BEAT(2024)

今回の〈Wall Of Eyes, On Film〉だが、特筆すべきはその会場だ。イベント会場は、坂本龍一が音響を監修した109シネマズプレミアム新宿。かくいう自分も初めて足を踏み入れる映画館だったわけだが、イベント開始前には観客へ挨拶する坂本龍一のコメントもスクリーンに映し出されていた(映像自体はこの映画館で上映前に毎回流れるものだろう)。

イベントのプログラムは大きく分けて5つ。ザ・スマイルによるアビー・ロード・スタジオでのレコーディングセッションを収めた未公開映像、5.1サラウンドによる『Wall Of Eyes』の全曲視聴、ポール・トーマス・アンダーソンが監督を務めた“Friend Of A Friend”“Wall Of Eyes”のMV上映(どちらも35mmフィルムでの上映)、さらに2019年にNetflixで配信され、トム・ヨークのソロアルバムと連動したショートフィルムとして話題を集めた「ANIMA」と、レディオヘッド“Daydreaming”(35mmフィルム)と“Present Tense”“The Numbers”のMVが上映された。

このイベントで世界初公開となったアビー・ロードでのレコーディングセッションの模様は、約5分ほどの無音映像だった。ジョニー、トム、マイクの順でスタジオ入りすると、3人はゆっくりと準備を始める。終始落ち着いた雰囲気でレコーディングは進んでいくが、無音であるがゆえに観ているこちら側は脳内で彼らの発する声や音を想像するしかない。このすぐあとにアルバムを全曲聴けるわけだが、それでも実際に彼らがどんな音を鳴らしているのか、気になって仕方がない。

レコーディングセッションと銘打たれてはいたが、途中『Wall Of Eyes』のアートワークを手がけ、レディオヘッドをはじめとしたトム・ヨーク関連作ではお馴染みのスタンリー・ドンウッドの姿も見られた。映像ではスタンリーとトムが筆を持ち、目の前に立て掛けられた大きなスケッチボードにそれぞれ絵を描いていく。詳細はしっかり確認できなかったが、このとき描かれた絵がアートワークやブックレットに使用されているに違いない。

続く『Wall Of Eyes』の全曲試聴だが、これが凄まじかった。現時点で多くの人がアルバムを耳にしていると思うが、スクリーン裏に設置されたスピーカーから空気を伝って届けられる音は、当然ではあるがイヤフォンやヘッドフォンとは比較にならないダイナミクスを感じることができた。単なる〈いい音〉ではなく、〈いい環境のもとで鳴る優れた音〉をリクライニング機能の付いた座席に座りながら体験できる、なんとも贅沢な空間だ。

特に『Wall Of Eyes』は、楽曲によってはギターが数本重ねられ、分厚いストリングスや野太いサックスが加わり、さらに強烈なエコーがかけられたトムのボーカルが乗っかってくる場面もある。前作『A Light For Attracting Attention』(2022年)はポストパンクやアフロビートなどが散見されたが、本作は長尺な1トラックのなかで二度三度と転調が繰り返されるパターンが多く、これまで以上に特定のジャンルに当てはめにくい作品だと思う。だからこそ、微細な音をこぼすことなく全身で浴びることができたのはとても希少な体験であった。

ちなみに『Wall Of Eyes』は全8曲を収録しているが、イベントではアルバムクレジットが流れたのち〈What’s This Then..?〉という言葉がスクリーンに映し出された。この間、ピアノとストリングス、そしてトムの歌声で構成された穏やかな曲が鳴っていたが、果たしてこの楽曲の正体は……。今後、きっと種明かしがあるはずだ。

“Friend Of A Friend”のMVもこのイベントが初公開だった。すでにYouTubeにもアップされているのでチェックしてほしいが、なかなかにシュールな映像である。閉塞感の漂う世界で、少しでも明るい方へ進もうともがくような曲の本質を、ポール・トーマス・アンダーソンはとても愉快な形で表現している。

以降は「ANIMA」の上映やレディオヘッドのMVが流され、主にトム・ヨークを軸にしたポール・トーマス・アンダーソンとの近年の交流を振り返ったわけだが、それらは『Wall Of Eyes』にいたるまでの歩みであると同時に、ザ・スマイルを形成するうえで必要不可欠な要素でもある。その事実を一連の作品を見聞きして確信した。

今年、ザ・スマイルは世界各国のフェスへの出演を続々と発表しているが、果たして来日の可能性は? 『Wall Of Eyes』を聴きながら、その動向に注目しよう。

 


RELEASE INFORMATION

THE SMILE 『Wall Of Eyes』 XL/BEAT(2024)

リリース日:2024年1月26日(金)

■国内盤CD
品番:XL1394CDJP
価格:3,080円(税込)
解説書・歌詞対訳付き/高音質UHQCD仕様

■輸入盤CD
品番:XL1394CD
価格:2,490円(税込)

■限定盤LP(数量限定ブルー・ヴァイナル)
品番:XL1394LPE
価格:5,290円(税込)

■国内盤LP(​数量限定ブラック・ヴァイナル)
品番:XL1394LPJP
価格:5,290円(税込)
日本語帯付き

■国内仕様盤LP(​数量限定ブラック・ヴァイナル)
品番:XL1394LPJP2
価格:5,690円(税込)
日本語帯付き

■輸入盤LP(​ブラック・ヴァイナル)
品番:XL1394LPJP2
価格:4,890円(税込)​

■特典(全フォーマット対象)
共通:ステッカー/TOWER RECORDS:缶バッジ

TRACKLIST
1. Wall Of Eyes
2. Teleharmonic
3. Read The Room
4. Under Our Pillows
5. Friend Of A Friend
6. I Quit
7. Bending Hectic
8. You Know Me!