個々の魅力やキャラクター、パフォーマンスとともに、音楽的な変化と洗練、挑戦が常に注目され、2023年の音楽シーンの台風の目だったNewJeans。今年の締め括りに、5人からのプレゼントとしてリミックスアルバム『NJWMX』が届けられた。名曲の数々は、本作でどのように生まれ変わっているのか? 2022年末に“Ditto”のレビューを寄稿してもらったhiwattが、音楽的に聴き込んだ印象を綴る。 *Mikiki編集部

NewJeans 『NJWMX』 ADOR(2023)

 

NewJeansを支える2人のプロデューサー

デビューから約1年半、NewJeansは光をも凌ぐ速さでスターダムにのし上がり、今年7月にリリースされたセカンドEP『Get Up』はセールス面でも大成功を収め、K-POPファンダムのみならず、辛口音楽クリティックからも軒並み高評価を得た。

そんなNewJeansの音楽をデビューから支えるのが、250(イオゴン)とFRNKという2人のプロデューサーだ。彼らはBANA(Beasts And Natives Alike)というアートコレクティブに属しており、NewJeansの表現を統括するディレクター、ミン・ヒジンが過去にアートディレクションを務めたガールズグループ、f(x)の“4 Walls”(2015年)のリミックスを、2人が担当したことからその縁は繋がっている。

 

 

キュートからクールへ、ビターからキッチュへ反転させる遊び心

その縁が円環をなすかのように、NewJeansの『Get Up』以前の楽曲を、2人がリミックスしたアルバム『NJWMX』がリリースされた。6曲のリミックスと、そのインストゥルメンタル版が収録されており、2曲毎にテーマが設けられている印象だ。

それぞれが手掛けた楽曲を自らリミックスしているが、“OMG”と“Cookie”をリミックスしたのはFRNK。この2曲のリミックスの面白いのが、それぞれのムードを反転させている点だ。“OMG”は、ウィンターミックスというテーマに則り鈴の音をバックにしているが、キュートでポップな楽曲が、マイナーコード主体のクールな印象に。トラップビートでビターな印象であった“Cookie”は、5/4拍子のピアノから始まる、キッチュでジャジーなブーンバップへと変容しており、非常に遊び心がありつつ、楽曲の魅力を再定義するリミックスになった。

 

808の多用とR&B路線は次作への布石?

“Attention”と“Hype Boy”は、250のニュージャックスウィング愛に溢れたアレンジであるとともに、日本企業の最も偉大な発明の1つであるローランドのリズムマシン、TR-808への最上級のリスペクトが込められたリミックスだ。“Attention”は、元々がニュージャックスウィングのテイストを含んだ楽曲であるが、印象的に鳴り続けるTR-808のカウベルとキックの音が、そのテイストを濃密なものにしている。ビヨンセの“Crazy In Love”(2003年)を思わせる、セカンドライン由来のビート感も非常に面白い。

一方“Hype Boy”は、明瞭で爽やかな楽曲が一気にレイドバックし、スローなR&Bに。それに伴ってボーカルもスローに編集しているが、弊害として起こる、ほんの僅かに声が途切れ途切れになる現象を敢えて残しているのも、80年代の時代考証に則ったものに思える。イントロのTR-808のクラベスを聴いて、マーヴィン・ゲイの“Sexual Healing”(82年)を条件反射で想起したのだが、このリズムマシンが一般化するキッカケになった楽曲なので、おそらく250が意識的に仕掛けたのではないだろうか。既に公開されている情報だが、NewJeansの次なる作品はより90s R&Bに傾倒したものになるとのことなので、これらのリミックスはその布石なのではないだろうか。