©Parlophone Records Limited

常に新鮮なアイディアでライブに挑む鬼才ロンドー

 フランスの鬼才チェンバロ奏者であるジャン・ロンドーがコロナ禍を経て4年ぶりに来日公演を行った。東京では『J.Sバッハ:ゴルトベルク変奏曲』、翌日には『パルナッソス山への階梯』という近年録音したばかりのアルバムを中心にした演奏会を行い、その圧倒的な感性の豊かさ、音楽的アイディアの素晴らしさをあらためて音楽ファンに印象づけた。

 「この2つのプログラムを日本公演に選んだのは、もちろん最近録音したばかりの作品で、それを知って欲しかったこと、また、録音だけに留まらず、それぞれの作品の真の魅力を日本の聴衆に知って欲しかったからです」

 とロンドー。ボサボサの髪、顔を覆う髭、前が広く開いたブルーのシャツからは発達した胸の筋肉を覆う胸毛も見えている。ただ彼の語り口調はとても真剣だ。

 「演奏にあたって考えているのは、いつも同じにならないこと。『パルナッソス山への階梯』では演奏会によって曲目も並べ方も変えたりする。“ゴルトベルク”を演奏する時も、常に“いま、ここ”で演奏するという意識を持って、新鮮なインスピレーションを大事にしている」

 と語る。王子ホールでの“ゴルトベルク変奏曲”の演奏は、まさに陳腐な即興性という言葉を超えた、ライヴに向けた慎重な準備をした上での、その場でしか起こりえない奇跡の時間を演出した。アリアが終わった後、もう一度全曲を聴きたかった、と伝えたら、ロンドーはちょっと笑いながら、

 「そんな風に言ってくれるのは、日本の聴衆だけだと思うよ」

 と、はにかみも見せた。王子ホールではリハーサルが終わった後に皇居一周のランニングに出かけたそうだが、それも「常に自分の脳をフレッシュに保っておきたいから」だそうである。

 さて、ロンドーの次のプロジェクトはとても大きい。ルイ・クープラン(1626頃~1661)の全鍵盤楽器用作品を録音するというもので、しばらく演奏を休み、その録音に取り組むという。

 「楽器もすべて当時使われていた物を探して録音します。オルガンについても当時の楽器の目処が付き、あとはいよいよ自分がそれに向けて準備を開始すれば良いだけになっています」

 2026年のクープランの生誕400周年を祝うアルバムとなり、おそらくCD7枚組、10時間に及ぶセットとなる予定だ。このためのクラウドファンディングも行われている。受付期間はもうすぐ終了予定なので、気になる方はアレグロミュージックのHPをチェックしてほしい*。

*クラウドファンディングはすでに終了しています