2024年1月24日に16年ぶりとなる来日公演を開催したビリー・ジョエル。満員の東京ドームで名曲の数々を余すことなく披露した同公演のライブレポートが到着した。 *Mikiki編集部


 

独特のパワフルな歌声は74歳の今も健在

1970年代末から90年代前半にかけて“素顔のままで”、“ストレンジャー”、“オネスティ”、“アップタウン・ガール”など、数々のヒット曲を放ち、日本でも絶大な人気を誇ったビリー・ジョエル。1993年発表のアルバム『リヴァー・オブ・ドリームス』を最後にレコーディングアーティストとしての第一線を退き、自身のルーツであるクラシック音楽へ回帰してから、早や30年の年月が流れた。ただ、生粋のエンターテイナーであるビリーは、ライブパフォーマーとしては今日に至るまで現役であり続けており、豊富なレパートリーの中から編まれる変幻自在のセットリストで世界中のファンを魅了し続けている。2014年1月にスタートした、エンターテインメント界で最も有名な会場、マディソン・スクエア・ガーデン(MSG)でのレジデンシー公演(月1回開催の定期コンサート)は、現在のビリーのライブ活動を象徴するロングラン公演だ。そのMSGでの公演の合間に組み込まれた、久々の日本公演が昨夜(1月24日)、東京ドームで実現した。

〈One Night Only〉(一夜限り)と銘打たれた今回の日本公演は、実に16年振りの開催(12度目の来日/通算55公演目)。たった一夜のチケットは即座にソールドアウトとなり、プラチナチケットを手にしたビリーファンが日本全国から集結、東京ドームを埋め尽くした。ビリー全盛期からのファンはもちろん、10代や20代のファンの姿もあり、幅広い世代から愛されているビリーの音楽の普遍性を垣間見る客層だった。

午後5時半、開場。席に着き開演を待ち受ける観客は、前日の23日に突如発表された新曲“Turn The Lights Back On”(2月1日リリース)への関心が高かったようだ。日本公演前日のタイミングで、このような驚きのアナウンスをするとは、ビリーも心憎いことをしてくれるではないか。

「(新曲を)演奏してくれるのでは?」と期待を寄せるのはファンであれば当然であろう。

午後7時3分、ほぼ定刻通りにショーの始まりを告げる映画「ナチュラル」のテーマ曲が流れ、その厳かで優しい調べに会場が包まれる中、客電が落ち、いよいよショーがスタート。ステージのど真ん中に配置されたピアノに黒のスーツ姿のビリーが向かうとオーディエンスのボルテージは一気に高まり、アリーナは総立ち状態に。スマホでの撮影が許可されたドーム内は、久々のビリーの姿を記録しようとレンズが一斉にステージに向けられた。

注目の1曲目は1978年秋のヒット曲“マイ・ライフ”。ベートーベンの“第九”を交えたイントロに続き、久々のビリーの歌声が会場内に響き渡ると歓声が沸いた。74歳になるビリーだが、独特のパワフルな声は今も健在。そして、間奏前にシャウトする日本語「バカヤロウ!」も健在だった。これは1978年の初来日時に覚えた日本語で、その年の秋に始まった『ニューヨーク52番街』のツアーから披露されている46年物の伝統芸である。1曲目が終わり、拍手喝采が巻き起こる中、間髪入れずにアップテンポの“ムーヴィン・アウト”へ突入。こちらも1978年春のヒット曲。トニー賞に輝いたブロードウェイミュージカルのタイトル曲でもある。途中、ピアノが回転し始め、全方向の観客がビリーの顔を拝めるよう配慮されていた(この演出はコンサートの終わりまで続き、右回転、左回転と360度、メリーゴーランドの如く、ビリーは回転していた)。

 

日本のファンのためだけの意表をつく選曲

オープニングの2曲を終えるとビリーは「ミナサン、コンバンハ。ヒサシ、ブリデス。ドウモ、アリガトウ」と日本語で挨拶。他にも「サイゴマデ、タノシンデ、クダサイ」と、長めの日本語も披露するなど、久々の日本公演を特別な一夜にしたいとのビリーの意気込みが感じられた。

セットリストも日本のファンを意識した特別感溢れるものだった。4曲目には日本では特に人気の高いバラード“オネスティ”を披露。ここ10年間でわずか6回しか演奏されていないレアな選曲だ。曲が始まると、あちらこちらでスマホのライトが灯され、ドーム内に幻想的な光景が広がった。また、日本だけで1978年に大ヒットした“ストレンジャー”も演奏。日本公演では必ずプレイしてくれるので、聴けるのが当たり前と思われがちだが、世界的にはこちらもここ10年の223公演でわずか18回しか演奏されていない、中々のレア・ナンバーだ。その“ストレンジャー”に続いてお披露目された“さよならハリウッド”も日本では初来日公演以来、久々に演奏されたちょっと意表をつく選曲だった。

観客を喜ばせるビリーのショーマンシップも相変わらずで、かつてはブルース・スプリングスティーンやポール・マッカートニーそっくりの歌声でモノマネを披露していたが、昨夜は形態模写をお披露目する場面があった。

5曲を終えたところでピアノを離れたビリーは、センターマイクに向かい「俺はミック・ジャガーじゃないぜ」と一言。観客の笑いを誘ったかと思うと、ローリング・ストーンズのヒット曲“Start Me Up”のイントロが場内に轟き、ミックの特徴的な動きを巧みに真似て見せ、観客は大ウケ。そのままサビまで歌い切り、大いに盛り上がった。

センターマイクでは、大ヒットアルバム『イノセント・マン』からタイトル曲と“ロンゲスト・タイム”の2曲が披露された。後者では、バンドメンバーも各自の楽器を離れ、ビリーと横並びでマイクに向かい、アカペラスタイルの素晴らしいコーラスワークでビリーのリードボーカルに華を添えた。

その光景からも明らかな通り、昨夜もビリーを支えたバックバンドの面々は実に多才な顔ぶれが集まっている。1982年からの最古参メンバーのマーク・リヴェラは“ニューヨークの想い”で圧巻のサックスソロや“ストレンジャー”の口笛で観客を魅了。2006年に加入したカール・フィッシャーは『ニューヨーク52番街』の隠れた名曲“ザンジバル”での迫真のトランペットソロで喝采を浴びた。中でも観客の目を引いたのは、唯一の女性メンバー、クリスタル・タリエフェロ(1989年加入)とサイドギターのマイク・デルジュディスによるボーカルワークだろう。クリスタルは“リヴァー・オブ・ドリームス”のブレイクで演奏されたアイク&ティナ・ターナーの“River Deep - Mountain High”でマイクを握り、ステージ上を縦横無尽に動き回り、観客を煽りに煽りまくった。マイクは、ビリーのピアノ演奏をバックに、ルチアーノ・パヴァロッティの歌唱で有名な“誰も寝てはならぬ”を伸びのある艶やかな歌声でオペラチックに歌い上げ、感動を呼んだ。2013年にビリーバンドに加入した彼は、ビリーのトリビュートバンドでフロントマンを務めていたところ、本物のビリーバンドに誘われた異色の経歴の持ち主だ。