写真=長屋美保

 

 孤独に生きてきた若い女性クラウディアが、入院先の病室で隣合わせたのをきっかけに、マルタと、その4人の子どもたちの家に招き入れられる。この一家もクラウディアも、素直じゃなく、いい加減で、図々しく、どこか欠けている。そんな、器用に生きられない者たちを優しい視線で捉えた映画『マルタのことづけ』が日本公開される。メキシコ出身のクラウディア・サント=リュス監督が、メキシコシティの自宅でインタヴューに応えてくれた。

 「映画は私の実体験を基にしている。マルタのように死期が近く、子どもたちを抱えていたら、なぜこんな不幸が訪れるのかと悲嘆に暮れそうだけど、彼女は違った。有り余るエネルギーを、子どもたちだけでなく、私にも与えてくれて、それがずっと心に残っていた。でも、映画にしようとは考えていなくて、ある友人の脚本家にその話をしたら、ぜひ映画にしなさい、とお尻を叩かれた」

 

  本作には、陽気なマリアッチ楽団も、麻薬組織の銃撃戦も、米国へ向かって国境を越える人々も出てこない。住み慣れた町に留まり、ただ日々を暮らす。どこの世界にもいるような人たちの物語であり、だからこそ、光るものがある。実体験を映画にするのに迷いもあったが、一家の次女のウェンディが彼女自身の役で出演を快諾し、フランス映画界のベテラン撮影監督、アニエス・ゴダールの参加にも鼓舞されたと語る。

 「この物語はとても母性的で、撮影にもその視線が必要だった。メキシコ映画界の数少ない女性撮影者に声をかけたけれど、誰も予定が合わなかった。バルセロナ出身の私のパートナーに、もしゴダールが撮影してくれたら最高だけど、無名監督の仕事を引き受けないだろうとこぼしていた。ところが、私の誕生日を祝うため、バルセロナへ行った時に、彼が“君に贈り物がある”と言うの。なんと、ゴダールの連絡先をネットで見つけて、すでに脚本を英語に訳したものを彼女に送っていると。脚本を気に入ったからフランスでぜひ会いたいと言ってるって! 私は大学で映画を専攻したけど、助監督を生涯やっていくと思ってたし、自分が映画を撮るとは想像もしなかった。それが変わったのは、私の力を信じてくれる人たちがいたから」

 

 マルタ一家とクラウディアの出会いのように、監督は人に恵まれている。それは彼女が人を好きだからだろう。

 「過去に6年間ウェイトレスとして働いていた時に、私はゴシップ好きで、他の人生にとても興味があると気づいた。人は何に喜び、心を痛めるのか。映画は、私と他の人の想いを繋げるもの。私の心の内側を動かせることが、人々の心の内側も動かせる。そんな瞬間をいつも探しているの」

 

 

MOVIE INFORMATION

映画「マルタのことづけ」

監督・脚本:クラウディア・サント=リュス
サウンドデザイン:フレデリク・ル・ロー サウンドミキシング:ヴァンサン・アルナルディ オリジナル音楽: マダム・レカミエ
出演:ヒメナ・アヤラリサ・オーウェンソニア・フランコウェンディ・ギジェンアンドレア・バエサアレハンドロ・ラミレス・ムニョス/他
配給:ビターズ・エンド (2013年 メキシコ 91分)

◎10/18(土)、シネスイッチ銀座ほかロードショー 
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