90年生まれ。現在24歳のシンガー・ソングライター、北園みなみ。小中学生の頃からキーボードやベースの演奏を始め、多重録音による宅録を行っていたという彼は、2012年にSoundCloudへアップした音源で一躍注目を集める存在となった。しかしアーティスト写真も公開されず、性別すらも判別しづらい名前、また松本に在住しているなど断片的な情報だけさらっていっても謎ばかりが残る、北園みなみ。今回、ファースト・ミニ・アルバム『promenade』をリリースした彼に対面取材でじっくり話を訊く機会を得た。

北園みなみ promenade P.S.C.(2014)

――音源をネット上で発表しはじめたのはいつ頃からなんですか?

「いちばん最初となると、ずっと前からなんですが、いまの名義では2年くらい前から。それ以前に上げていたものは投げやりというか、ただ出来たものをアップしていっただけで、ほとんど誰にも聴かれないものを作ってましたね」

――当時の音源は、反応が薄かったんですか?

「そうですね。その当時といまでは何が違うかというと、歌が入っているかどうかの違いでしかないんですけど。作風っていうのは、やっぱり地続きみたいなものなんですが、自分のなかで分けるとすると、歌が入っているか入っていないかで時期を切り離せるかなと」

――北園さんは、コントラバスをはじめ多くの楽器を多重録音して作品を作っていったそうですが、実際にジャズのプレイヤーとしても活動していた時期もあるとか。

「10代から名古屋で活動していたんですが、狭いジャズ・シーンのなかでベーシストも少なかったので、意外と忙しくはしていました。それとは別で、普通のロックみたいなものから、ポップスのユニットみたいなものまで、数えきれないぐらいにサポートで参加したり、あとはアレンジに関わったり」

――演奏そのものや、ソングライティングだけに留まらず、アレンジメントも含めて音楽を作り上げていくことに興味があった?

「中学、高校ぐらいからビッグバンドのアレンジに興味を持つようになって。断片みたいなものを少しずつ書いてはいたんですが、なかなか発表する機会は得られなくて。でも、自分でアレンジして、人に聴かれるものを作りたいって思いはずっと持ちながら活動してましたね」

――10代から名古屋で活動されて、松本に戻ったのはいつ頃なんですか。

「松本に戻ったのは2年前ぐらいですね。SoundCloudに発表した作品が、ちょっと話題になった頃でした。一人暮らしをしていたんですが、生活が破綻していて。電気もガスも止まってたし、そういう状況でなかなか曲って作れないから」

――そういう四畳半っぽいエピソードと、北園さんの楽曲から想起されるイメージがあまり噛み合わないんですけど(笑)。

「そうですよね(笑)。でも、その日に何を食べて、どうやって暮らすかっていうのも見えない状況でした」

――そうやって生活もカツカツになっていくと、作品意欲も湧いてこないですよね。

「それに僕の場合は、作る以上に習得したいものが多いので」

――習得するっていうのは、楽器演奏のことですか?

「それもありますし、耳コピしたり、他の作品を聴き込んだり、スコアを見たり……音楽全般に関する研究です。ミュージシャンっていうのは、そもそもセンスがあってあたりまえだと思うんですけど、そのうえでさらに自分の音楽を主張するためには、喋る以前に知るべきだっていう意識が、ずっと僕のなかにあるんです」

――なるほど。ちなみに、松本での生活は音楽制作に何か影響を与えていますか?

「住んだ場所が変わったことは、作品にはあんまり影響していないですね。住んでいる場所に完全に影響されるわけじゃなくて、いちばんは音楽への憧れと理想があるので。相変わらず人からは〈アーバン〉って呼ばれることが多いと思うんですけど(笑)」

――自分の音楽が〈アーバン〉と呼ばれることについてはどう思いますか?

「おもしろいなって思いますね。アーバンってどこにあるんだよって。あと、松本在住の〈在住〉もなんだよって思います。ただ、何かに分類して語ってもらったほうがわかりやすいし、どうぞご自由にって思いますけど、AORって言われるのはちょっと嬉しいですね。なんかカッコイイし(笑)。松本に戻ってみると、なぜか粗ばかりが見えてくるもので。名古屋に4、5年住んでいた頃は、地元もいい街だなって思ってたんですが、戻ってきたいまは、やはり田舎だなって感じてしまう。もちろん、いい界隈もたくさんあるんですけど、どこか陰鬱さも漂っていて……ただ、散歩してると気持ちいいですね。空気がとても澄んでいて、年中通してどちらかというと涼しいですし」

――少し話を戻しますが、北園みなみという名義で作品を発表するようになって、最初に大きな反響を集めたのが“ざくろ”でした。

「そうですね。“ざくろ”がいちばん聴かれたんじゃないですかね。後で訊いたら、その前にSoundCloudに出していた2曲(“Rain Waltz”“Dorothy”)も評判になりはじめていたらしいですけど」

【参考音源】北園みなみの2012年の楽曲“ざくろ”

 

――実際に聴き手の反応を聞いて、どう思いましたか?

「驚いたというか、こういうものがウケるのかっていう。やっぱり歌か、って思いました。自分の歌が入った曲を作るようになったのは、22歳からです。僕以外の人に歌ってもらった曲となると、いろいろあったと思うんですが、それはまた別なので」

【参考音源】北園みなみの2012年の楽曲“Rain Waltz”

 

――北園さん自身、歌うことについては興味があったんですか?

「歌入りの曲を作りはじめる半年前ぐらいからすごく興味を持ちはじめて。歌の練習に行ったり……練習といってもスタジオに入るわけじゃなく、だだっ広い公園で歌って。ちょっと訓練を積んで、録音に挑みました」

――サウンドはもちろん、北園さんの歌声にもとても魅力を感じます。熱くなりすぎず、かといってクールにもなりすぎない質感や温度感を、サウンド同様に声でも表現しているように感じました。

「ありがとうございます。なかなか自分の声を客観的に判断するのは難しいので、そう言ってもらえると嬉しいですね」

――『promenade』は、ベース、ギター、キーボードは、これまでと同様に北園さん自身が演奏したのに加えて、ドラムに坂田学、パーカッションに尾方伯郎Minuano)、ブラス・セクションに武嶋聡チーム、ストリングスには橋本歩ストリングカルテット、コーラスにLamp永井祐介榊原香保里マイカ・ルブテ井上水晶と多数のゲスト・ミュージシャンを迎えて制作されています。そのなかから、まずリアレンジされた“ざくろ”について話を訊きたいんですが。この曲はどのように制作していったんですか?

「まず初期 “ざくろ”は、“Rain Waltz“と“Dorothy”を作り終え、それまでとは違う手応えを感じていたので、この方向性で進めていこうと。作曲自体は1日でバーッと作って、編曲は1~2週間かけて……端からバーッといろんなパートを弾いていって、勢いに任せて作りました。ただ、即興で音を重ねていっただけに、アレンジも核心に至らないまま完成した部分があって。それに対して今回は、〈この音しかない〉と選びに選んでリアレンジしたので、結果として少し楽器は減りました。僕は音色的価値というのをいつも考えているんですけど、打ち込みでポーンと出した音色って、あまり価値がないように思えて。ひとつの音に音楽を宿らせる価値があると思うし、そういうものがたくさん揃ってきたら、音数は少なくてもいい。それが今回の『promenade』に収録した“ざくろ”ですね」

――4曲目“プラスティック民謡”は、1曲のなかで次々とリズムが変わっていく、少し土着的な臭いも漂わせながら、仕上がりとしてはMPBのような洒脱さと実験性を兼ね備えた、実におもしろい楽曲に仕上がっています。

「この曲はすごく自然に出来てしまったんです。田舎の風景というか、僕が住んでいる松本の、丘の上をちょっと登ったあたりの風景が浮かんできて。そこから7拍子に移行するのも完全に自然な動作で。ピアノを弾きながら即興で浮かんできたAメロとBメロがあって、それを譜面に起こしてアレンジした感じなので。風景描写のようでもあるし、それからさほど手を加えることもなく、構成を少し整理して作っていきました。普段は、1小節ごとに立ち止まりながら作っていくので、この曲だけ違うんですよね」

――北園さん自身は、土着的な音楽への興味や憧れはありますか?

「憧れはないんですけど、落ち着くので仕方がないというか。小さい頃はおばあさんの家で過ごすことが多かったんですけど、おばあさんがよくわからない曲をいつも歌ってるんですよね。自分にとってそれはダサいって感じるものなんですけど、どうしても落ち着かざるを得ない。それが(自分にとっての)民謡ですね」

――1曲目に収録された“ソフトポップ”は、SoundCloudで公開されている“Dorothy”をリアレンジした曲ですね。その2曲を聴き比べてみると“Dorothy”自体もとても完成された楽曲なんですが、“ソフトポップ”はそこからさらに世界が広がったような濃密なアレンジが施されています。

「アレンジについては、いままで試行錯誤してきたことを反映できたと思っています。“Dorothy”のアレンジはフリー・ソウルというか、キャッチーで聴きやすいものだったので、そことコントラストをつけたいと思っていました。違うアプローチでさりげないポップスを聴かせられたら……そういう思いはありました」

【参考音源】北園みなみの2012年の楽曲“Dorothy”

 

――“ソフトポップ”のイントロの30秒弱という短い時間は、まるで優れた映画音楽のように心を奪う、贅沢なアレンジが施されていると思います。

「本当に緊張して一音一音書いていったんですけど、ただ、それが良くも悪くも音に出てしまったというか」

――〈悪くも〉はないと思いますよ(笑)。

「アルバム全体としてもそうですが、今回のレコーディングに関しては、以前は打ち込みだった管楽器も、武嶋聡さんを中心としたホーンズを迎えて生の音で入れて、人間の声でコーラスも入れて。参加していただいている方たちの持ち味も出していこうと。“ソフトポップ”についても、ミュージシャンを殺すような方向にはしたくないと思っていました。もちろんアレンジはそのまま演奏していただくんですけど、歌い回しを重視して、細かいタイミングなんかはあまり考えず、伸び伸びと演奏してもらえたテイクを片っ端から採用していきました。ドラムは坂田学さんに叩いてもらったのですが、音楽性の部分は完全にお任せしました」

――『promenade』は多彩なアプローチでいまの時代のポップスを呈示した作品だと思います。そんな北園さん自身、ポップ・ミュージックへの思い入れは強いと自覚していますか?

「ポップスは長いこと慣れ親しんできた音楽ですし、小学生の頃、60年代のポップスを聴いていて、例えばベン・E・キングを聴いて得た感動が根本にあり、そこからいまに繋がっていると感じています。“Stand By Me”だったら、丁寧に最低限のことがなされている。洒脱と言いますか、ちゃんと構造がしっかりしていながら、力が抜けた音楽……それが僕の理想ですね」

【参考動画】ベン・E・キングの62年作『Don't Play That Song!』収録曲“Stand By Me”