ピアノの神様がいるとしたら、彼(彼女?)は今回、国府弘子のモトに降りてきたのではないか。そうでなければこんなにも喜び、憂い、機知、慈愛といった様々な感情をピアノ演奏だけで伝えられるはずがない。

 「次にアルバムを出すならソロで録音したいと思っていました。シンプルな極上のピアノの音色を私自身が聴きたかったし、皆さまにというよりも“アナタ”に聞いてもらうアルバムを作りたかったんですよ」

国府弘子 ピアノ一丁! Victor Entertainment(2015)

 1995年に上梓したエッセイ集と同タイトルを付けた22枚目のアルバム『ピアノ一丁!』は、何を弾くかよりもどんな音を奏でるかに全神経を注いだ。銀座ヤマハホールで行なったこだわりのレコーディング、コンサートグランドピアノCFXと一体不離となった時間は自らが幸せになる為の瞬間でもあったようで、国府名義としては8年振りとなるアルバムを飾るに相応しいご褒美のような環境だったといえよう。

 「2009年に乳ガンが発覚し、それこそ人生初といって言い程、精神的に落ち込みました。音楽活動を続けていたものの、朝、起きると自分の引き出しが空っぽに感じてね。それがある日、あれをやろう、これをやろうと思える自分がいて、そっと引き出しを開けたら結構、宝物が入っていた! そんな気分が戻っていたの」

【参考動画】国府弘子による2014年のパフォーマンス映像

 

 全15曲中、約半分がオリジナル曲で、その中には不調の自分を励ます為に書いた3曲綴りの「ピアノテラピー」や、国府を支えた調律師/小沼則仁氏(2013年他界)に捧げた「You Tune My Heart」なども収録されており、その優美な音魂に目頭が熱くなる。ガーシュインの「ラプソディ・イン・ブルー」やビートルズのナンバー等、ジャンルの枠を越えた名曲のカヴァーも秀逸。例えばファレル・ウィリアムスの大ヒット曲「Happy」を取り上げているのはエンターテインメント性も愛する彼女のセンスだろう。何より『ピアノ一丁!』というタイトルにもかかわらず、アルバムのラストを、ライヴでは恒例となっているピアニカの演奏で締め括るお茶目さにもニヤリ。

 「ピアノの音にとことんこだわったアルバムを作ったものの、最後にピアニカにしたのは、実は私“お膳立てがなくても音楽を表現出来ますよ”という、ちょっとした決意表明を込めたオマケです。曲を「男はつらいよのテーマ」にしたのは“女もつらいよ”というニュアンスというかウィットというか(笑)」

 今、何度目かの成長期と目をキラキラ輝かせている国府は2015年、“聴き手のアナタと一緒に幸せになりたい”という想いを抱え、全国各地でライヴを行なう予定。そこはきっとプレシャスな音空間、笑顔の“アナタ”が続出することだろう。

 

LIVE INFORMATION

国府弘子Happy Music 2015「ピアノ一丁!」
○1/30(金)東京・よみうり大手町ホール

国府弘子ピアノ・ソロ「ピアノ一丁!」
バレンタイン ジャズコンサート
○2/14(土) 埼玉県県民活動総合センター

国府弘子 2days ジャズライヴ「ピアノ一丁!」
○2/20(金) 21(土) 黒部市国際文化センター コラーレ

国府弘子JAZZ LIVE「ピアノ一丁!」
○3/7(土) 愛知・おおぶ文化交流の杜allobu こもれびホール

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