今回の課題盤
「正直言うとディアンジェロよりも楽しみにしてました、マーク・ロンソンの『Uptown Special』」
――昨年末から収録曲が結構聴けましたしね、だいぶ気持ちが高まりました。
「そうなんですよ。前作『Record Collection』が2010年リリースなので5年ぶりですね。あのアルバムがとにかく大好きで、7インチ・ボックスが出ているんですけど、その7インチのジャケを並べるとマーク・ロンソンの顔になるっていうもので。1曲ずつ年代感もデザインもバラバラで、カッコイイ黒いボックスに入ってるんです」
――シャレてらっしゃる! 今回もそういうオシャレ感出してくるかしら……。
「ジャケットのアイデアから派生して、そういう作品を出しちゃうってスゴイなと思って。僕は『Record Collection』でマーク・ロンソンを知ったんですけど、この作品にはQ・ティップやディアンジェロが参加していて、何が良かったかってあの〈詰め込み感〉。それが『Record Collection』というタイトルに表れたさまざまな彼の好きな音楽(80年代をオマージュした内容)だったわけですけど、とはいえ、この連載でも再三話している〈だったらホンモノ聴くわ〉っていう悲しい感想がいっさい出てこない」
――ただの懐古趣味ではないと。
「それは新作にも通じていて、配信でアルバムより先にブルーノ・マーズをフィーチャーした“Uptown Funk”が出たじゃないですか。でもあの楽曲は70年代ファンクそのままのノリとはまたちょっと違いますよね」
――〈いま〉の感覚で聴いても普通に格好良いファンクですよね。私、この曲は去年で言うファレルの“Happy”を思い出しました。老若男女を超えて熱狂させられるアンセム、みたいな意味で。
「そうなんですよ。これが好きな人には、世界で3本の指に入るほど気持ち悪いジャケットの(笑)、リック・ジェイムズの大名盤『Street Songs』をぜひオススメしたい。“Uptown Funk”は最高にリック・ジェイムズなんですよ(笑)」
――最高にリック・ジェイムズ(笑)。
「思いっきりリック・ジェイムズでしかないじゃないですか、あの感じ(笑)。この“Give It To Me Baby”なんです、僕のなかでは」
「気持ちワルー(笑)! こんなに気持ちが悪いのに色男っていう体で曲を発表しまくってるのがいいですよね。このトラックの感じや、ベース・ラインとギター・リフをメインでアレンジしているところ、展開の仕方も通じます。“Uptown Funk”の終盤に出てくる〈Say What!〉は絶対ここから持ってきてるはず! モロだなと思いまして。こういうところでニヤついてる人ってどれくらいいるんだろう(笑)。でも、マーク・ロンソンはシンセの音がすごくカッコイイので、そこが少し(リック・ジェイムズとは)ズレるかもしれませんが。まあ~イイ曲ですよ。誰も悲しい気持ちにならないし、相変わらずマーク・ロンソンはカッコイイし。ゲイリー・オールドマンとマーク・ロンソンは男から見ても本当にカッコイイと思えますね」
――確かに相当カッコイイけど、ゲイリー・オールドマンとマーク・ロンソンが2大巨頭とは!
「すごくオシャレだし。“Uptown Funk”をTVでパフォーマンスしているものを何本かYouTubeで観て、マーク・ロンソンはブルーノ・マーズの横でギター弾いてるんですけど、今回のジャケをあしらったギターを使っていて、それすらもカッコイイ。ダサカッコイイんですよ(笑)。そういったジャケや、それこそイギリス国旗(マークはイギリス出身)があしらわれたギターなんて大概楽器としては微妙なことが多いのに、それでもカッコ良く見えるっていうところに、もう頭が上がらない(笑)」
――ハハハ! 持つ人が持てばサマになるっていう。
「“Uptown Funk”が公開されたと同時にアルバムのリリースがアナウンスされたと思うんですけど、それをレコーディング・スタジオで知って、テンションがクリスマス前の子供みたいになっちゃいました(笑)。そういえば、この楽曲のMVがレッチリの“Hump De Bump”のMVに質感が似てるんですよ。ああいう街練り歩き系」
「で、“Uptown Funk”以降、ケヴィン・パーカー(テイム・インパラ)が参加した“Daffodils”や、ミスティカルとやっている曲(“Feel Right”)も聴けて、ヒップホップな感じもあるのかと思っていたんですが、いざアルバムがリリースされたら“Summer Breaking”みたいなちょっと80年代な感じの曲があったり」
「こんな冬の時期に出したのにタイトルは“Summer Breaking”ですからね(笑)」
――アハハ。意外とメロウな感じの曲が前面に出てきましたよね。
「あと、スティーヴィー・ワンダーも参加してるんですよね。スティーヴィー・ワンダーとやってるっていうので、何をやってるんだ?と思うじゃないですか。それで聴いてみたら、こういう楽曲になっちゃうんだって思いません? そっちのスティーヴィーなんだ、と思って(笑)」
――そっちの(笑)。夕暮れ系のね、ハハハ。
「ホントにぐうの音も出ない。ストレートな『Uptown Special』の感想を言うと、ブルーノ・マーズとの楽曲で引き込まれた人にとっては、思っていたよりも大人っぽいというか、全曲ぶち上げな感じじゃないなっていう感想で止まってる人もいるかと思うんです。でも『Record Collection』の次作がこういう内容というのがすごいなと思って。参加メンツも豪華で、かつ実験的な彩りのあるサウンドという意味では『Record Collection』も『Uptown Funk』も同じようなコンセプトだと思うんです。でも今回のアルバムは、前作からこれまでの5年間にあった、“Get Lucky”事件(?)や、ネオ・ソウル再評価、第二次、三次かのレア・グルーヴ再発掘……そういう音楽の世界的なブームみたいなものを踏まえた感じと、TVプロモーションというか大衆に向けて作る意識がさらに広がっていうような気がして」
――ほうほう。
「そういう気持ちで、2作連続でこんなにとっちらかったおもちゃ箱みたいなアルバムを作り上げてるということが本当にスゴイ。マーク・ロンソンが好きすぎて、OKAMOTO’Sの楽曲制作でプロデューサーを立ててみようかっていう話を初めてした時に、名前出てましたからね」
――マーク・ロンソン?
「そう。その時は、やってもらえるかどうかは関係なしに名前を挙げていたんですけど、そのくらいいまいちばん好きなプロデューサー。リック・ルービンより好きかも。あと、今回引っかかったのは、前作はあんなにこだわったジャケだったのに、なぜ今回はこれなのかと(笑)」
――スピーカーですよね。これまではマークの美しい顔推しできてたのに。
「だから、もしかしたらまた何か出るかもと思って。このジャケってスピーカーじゃないですか。最初の話に戻りますが、それをボックスに見立てた立体の豪華仕様7インチ・ボックスとか! そこまで考えてたらほんとに土下座って感じです」
――まんざら深読みじゃないかもしれませんよ。
「レッチリの『Stadium Arcadium』のジャケが出た時に、あまりにもダサイからコラージュだって言われていたんですよ、悪質なジョークだと(笑)。これがオフィシャルの発表なわけがないって、みんなが否定していたくらい。むしろその時に出回っていたコラージュ画像のなかにあるデザインのほうがカッコイイくらいだったんですけど、結局はそのダサイものが本物で(笑)」
――オフィシャルが悪質だった(笑)。
「でも、マーク・ロンソンのことだから何かあるんじゃないかと個人的には思ってるんですよね。レコードになることを想定しているから(アートワークの)ここがこういうデザインになってるんだろうな~みたいな」
――うんうん。これまでの流れを踏まえると、ここで終わるはずがない感じですよね。
「まあでも12インチ・シングルも切るということなので。昨年のディアンジェロもずいぶんと盛り上がりましたが、とにかくここ数年は良い洋楽のリリースが止まらないですね。もちろん自分の音楽を聴く耳も変わっていったり、こういう連載をやっているのでこれまで以上にフォーカスを当てて聴くようになっているもから余計そう思うのかもしれませんけど。新譜のリリースは止まることなく無限に繰り返されていくなか、ここ3年ぐらいは再発がすごい勢いで加速しているじゃないですか。しかも1,000円くらいの値段で、気軽に名盤が買えるようになった。昔から〈千円生活〉みたいな企画はありますけど、レーベル単位で動くっていう。初CD化作品もすごく多いですし」
――最近だとモータウンは2013年からいろいろあるし、ブランズウィックにタブー、ちょっと前ですがサルソウルなどなど、ずっと何かしらのリイシュー企画が続いている感じはありますね。レーベル単位じゃなくてもAOR/シティー・ポップものなり、それこそ〈フリー・ソウル〉企画もそうですよね。リイシューに併せたミックスCDなども出ていますし。
「ホントに多い。特に黒人音楽は多くて。ロックだと名盤が3万円ぐらいの豪華な仕様で改めてリリースされるっていうのがサイクルとしてありますけど、黒人音楽に関してはどんどんそういう形で良盤が安価で出ているので、いまの時代に良いチルドレンが生まれてる感じがあって」
――あ~、リイシューが進んでるからからなのか、チルドレンが増えているからなのか……というのはありますが、良い相互作用が生まれているというのはあるかもしれません!
「昔の名盤が(CDショップに)面出しされた状態で出会えるってスゴイことだなと。10年前だったらまだコースターズは面出しされてないし(笑)。マーク・ロンソンのようないまのアーティストの新譜と、その(音楽的な)背景にある、これまでだったら埋もれていたはずの過去の作品がまるで穴埋めされるかのように並べられているので、すごくおもしろいですよ」
――ホントそうですね。
「ちょっと前だったらレコードをディグらないといけなかったものが、普通にタワレコへ行って財布に入っていた2千円でCDが買えて、その音源がすごいカッコ良かった――そういうことになっているわけじゃないですか。トーフくん(tofubeats)なども含めて、こういうことを話しているのは僕らが最後の世代なのかもしれないなと思って。その狭間にいるというか。がんばって3時間掘って見つけた1枚と、フラッと行って買った1枚に差があるとは思っていないので。いまや手に取りやすくなっただけじゃなく、ちゃんと〈人の手が通ってる〉し」
――うんうん。まだまだそういうのは続きそうな感じ。
「そういった再発作業が数年に渡って行われているおかげで、マーク・ロンソンのアルバムにあるエッセンスが音楽好きにちゃんと染みるようになっているのかなと。あと、このアルバムは過去と現在を繋ぐだけではなく、ソウルとも言えるしロックとも言えるという印象もありますし、どこの国の人かも関係ないし、さまざまなことのブリッジになっている気がします」
――あ~、なるほどねー。
「なんでマーク・ロンソンが好きかっていうことを、今回改めて聴いて思ったのは、彼がわりとハイトーンの人が好きだからかなと」
――声が。ブルーノ・マーズやケヴィン・パーカーも高音ですよね。
「前作の“Bike Song”で歌っていた人(ヴューのカイル・ファルコナー)もそうですし、みんなある程度ハイトーン。そういうところが個人的に好きですね。まあ、ともあれブルーノ・マーズ流れでこのアルバムを手に取った人は、とりあえずリック・ジェイムズを聴いてほしいです(笑)」
――ハハハ(笑)。でも最近はディスコやらファンクやらを謳っているものが多いからか、リック・ジェイムズの名前はよく聞きますよね、引き合いに出されるものとして。リヴァイヴァルが来てるのかな、ハハハ(来てない)。
「ホントですか? だってあの曲(↓)のせいで、いまだにMCハマーだと思ってる人ばっかりじゃないですか。それぐらい僕は認知が低いと思ってる人なんですけど」
――認知度が高いかと言われたらそこまでかもしれませんが……。
「まあモータウン・スターではありますからね。“Mary Jane”もすごく良い曲なんですよね~。これ以降、こういったちょっとドープな踊れるバラードってないなと思って」
「ズットズレテルズを始めた頃にこういうジャンルの音楽を聴くようになって、いちばん学生時代を謳歌している時の思い出が音楽的にいうとPファンクやこのへんの、75年~80年代前半くらいのソウル・ミュージックと白人のブルースみたいなものとリンクするんです。だから『Uptown Special』やリック・ジェイムズ再評価(があるのなら……)にはえぐられるんですよね。無条件に乗れちゃう音楽なんです。ガーリック・チャーハンにステーキが乗ってたら美味いに決まってるじゃん!っていう、そういう感じに近いですね」
――わかりやすい(笑)。
「『Uptown Special』は素晴らしい。ぜひナンパ目的でもいいから買って、車に積んだり部屋に置いたりするべきです!」
PROFILE:ハマ・オカモト
OKAMOTO'Sのヒゲメガネなベーシスト。OKAMOTO'Sとして、今年初のリリース作品となるニュー・シングル“HEADHUNT”(ARIOLA JAPAN)がリリースされたばかりですが、続いて3月18日には昨年の日比谷野音公演を収めた初の映像作品となるライヴDVD 「OKAMOTO’S 5th Anniversary HAPPY! BIRTHDAY! PARTY! TOUR! FINAL @日比谷野外大音楽堂」が登場! また、3月13日の岡山公演を皮切りに〈OKAMOTO'S 2015 SPRING LIVE CIRCUIT ~ハマ☆クン24~〉がスタートします。さらにハマ単独では、BOMIやチャラン・ポ・ランタンの新作に参加しているのでぜひチェックを。そのほか最新情報は、OKAMOTO'SのオフィシャルサイトへGo!