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言葉の多層性

 ceroの創作意欲の拠り所であるエキゾティシズムは、街に渦巻く人間の生命力やその象徴でもあるサウンドのファンクネス、メロウネスへと向けられ、マジック・リアリズムを思わせる幻想的なタッチのその作風は、グルーヴ・コンシャスなものへと劇的に変化した。

 「今回、サウンド面でリズムに意識が向かったことで、細かい譜割に言葉を凝縮しながら、ヒップホップのようにフロウさせるアプローチで情報量の多い歌詞を乗せられるようになったんですよ。そこでまずは、自分が得意とする脚本的な描き方で歌詞を書くことにしたんです。その後、作った曲に乗せて歌詞を読み上げながらメロディーラインを導き出して、そのメロディーラインに合わせて言葉を整えていったんですけど、そうすることで小節を跨いだり、独特な言葉のフロウを生み出せたのがおもしろかったですし、日本語の歌モノでそのやり方を実践するのが、自分にとって、今回の作品の一つのテーマでした。非常に難易度が高い作業ではあったんですけど、曲を気にせず、自由に歌詞が書けたし、場所を選ばず、喫茶店や電車の車内で書いたりすることによって、外に繰り出していくような歌詞や、歌詞のテーマである〈移動〉がおのずと導き出されたんです」(高城)。

 シングル『Orphans/夜去』でカヴァーした小沢健二『Eclectic』(2002年)収録の“1つの魔法(終わりのない愛しさを与え)”が予告していた通り、メロディーとグルーヴ、そして日本語詞の新たな関係性を提示している本作。“ticktack”や“Roji”、“Narcolepsy Driver”といった曲では語るようなメロディーと歌詞のフロウを披露している高城は、コーラスワークにおいてもいままでにないアプローチを提示している。

 「映画『バックコーラスの歌姫』を観ると、海外では歌姫をめざして挫折した人たちが次の段階として、バック・コーラスの役割を担って、大衆音楽を支えている。逆に言えば、日本では〈コーラス〉という重要な役割が軽んじられている気がして。だから、今回、女性コーラスをお願いするにあたって、“Orphans”では一十三十一さんに歌ってもらったんですけど、アルバムではコーラスを専門にやっている人にお願いしたくて、Smooth Aceの重住ひろこさんに参加していただきました。いろんな方向から声が聴こえてくるように、自分なりに研究して、コーラスを重ねに重ねたことで、このアルバムは言葉の多層性も聴きどころの一つになっているんじゃないかと思いますね」(高城)。