満開の開花を感じさせる、メロディ・ガルドーの曲作りの才能

 バックアップするミュージシャンの冒頭に、ディーン・パークスヴィニー・カリウタと来て、プロデューサーが、元妻がジョニ・ミッチェル、現妻がルシアナ・ソウザであるラリー・クラインとくれば、これはとんでもないアルバムになりそうな予感。音を聴けば1曲1曲世界が拡がる。海外の反響もジャンルを超えて音楽界の様々な分野から賞賛とその内容の凄さが伝わってくる。サム・クックダスティ・スプリングフィールドビル・ウィザーストム・ウエイツと名前をあげては、様々な音楽的な要素が抽出され滔々と述べられる。それだけ多くの分野で注目されるサウンド造りと、ガルドーの曲作りにおける才能の満開の開花が感じられるからだろう。聴き進むうちに次第に体が起きてくる。前作のセクシーなジャケットからは思いつけないディープな世界が展開する。事故から日常生活を取り戻す過程で培った、周りの出来事への彼女の想いが歌詞とメロディに昇華され、さらに曲ごとにサウンドを千変万化させるラリーの音楽の魔術師といって引き出しの広さが驚くべきクオリティを創り出した。

MELODY GARDOT Currency Of Man Verve/ユニバーサル(2015)

 ジャズ畑では、マデリン・ペルーの作品をプロデュースしたラリー、ここでは広く70年代米国音楽シーンに影響を与えたサウンドを万華鏡のように再構成して見せた。1分程度の短い曲だが、チャールス・ミンガスへ捧げた作品も印象的だ。ブルースという今日のDNAから拡散していった70年代音楽シーンを垣間見るような珠玉の曲が次々流れ出てくる。中では《Bad News》《If Ever I Recall Your Face》が心に沁みた。カミーユの旦那でもあるクレマン・デュコルのロマンチックで、深く聴く者を包む弦のアレンジが印象的な後者はとりわけ素晴らしい。軽快なリズムで歌われるポップな音楽もいいが、心に染み入るように入ってくるこの作品のようなアルバムに出会えると“一生もの”を見つけた気がして嬉しくなる。全ての音楽ファンが長く聴き続けられると確信できる1枚だ。