INTERVIEW

西本智実、ハプニングと刺激に満ちたロバート・グラスパーとの一夜限り共演コンサートの裏側を語る

  • Share on Tumblr
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • 2015.09.17
(C)塩澤秀樹
撮影:新井 秀幸 日本写真家協会会員

 

Billboard classics World Premium
Robert Grasper Experiment × Tomomi Nishimoto Symphonic Concert

6/8(月)東京芸術劇場コンサートホールにて
出演:西本智実(指揮)
イルミナートフィルハーモニーオーケストラ
ロバート・グラスパー・エクスペリメント

 

シンフォニック・エクスペリエンス~西本智実、ロバート・グラスパーとの共演を語る~

 “異色”のコラボと話題となったロバート・グラスパー・エクスペリメント西本智実が芸術監督を務めるイルミナートフィルハーモニーオーケストラが共演するコンサートが6月8日、ついに実現した。なにかと新しいと注目を集めるジャズのクリエイターの音楽を、クラシックに常に新しい風を送り続ける日本の指揮者とオーケストラがどのようにオーケストレーションするのか、あるいはグラスパーのピアニストとしての潜在能力がオーケストラとのコラボによってどんな風に開くのか、とにかく注目を集めたコンサートだった。結果、グラスパーの音楽がオーケストラに包まれた素晴らしい音楽の見事な“最初の一歩”となった。

 今回、ステージで音楽のサウンド、演奏のすべてをまとめあげた、指揮者西本智実にコンサートのためにどのような準備をし、当日、何を実感したか聞いてみた。

 「グラスパーさん達の望むオーケストラの編成の回答情報がこちらに中々入ってこなかったので、まずオーケストラが当日何を演奏するかを決める事にしました。リムスキー=コルサコフの《スペイン奇想曲》は、イスラム文化の影響が色濃く残るスペインの民族的リズムの中にアドリブ的要素を含む作品ですから、当日のオープニングを飾るのにふさわしいと思いました。そしてこの編成であれば、グラスパーさんたちとのアンサンブルを組み立てるのにも不足はないはずだと判断し、編曲担当者たちに伝えてもらいました。」

 「グラスパーさん達の選曲がようやく決まり、そこからアレンジャーの方達はオーケストレーションを始めるわけですから、本当にギリギリの仕上がりになりました。リハーサル当日にほぼはじめて譜面に目を通し、編曲家のみなさんにも立ち会っていただき、実際に演奏しながら修正すべきところはその場で修正してもらいながらすすめていきました。ジャズとクラシックの違いという感じはなかったですが、毎回長さも音も変わるアドリブ演奏を聴きながら彼らの音楽の構造を汲み取ろうとしました。現代音楽には大編成のオーケストラでもアドリブ演奏する箇所があったりしますからアドリブが入る事に対しての難しさはさほどありませんでした。一番大変だったのは、バンドとオケが同時に進行するところでバンドがどういうわけか1小節ふやして演奏したというのがありました(笑)。これはオーケストラの場合混乱を招きます(笑)。ゲネプロでそういう事があったので、オケにはもしかしたら本番でもそうなる可能性があるからと対応を促しました。本番その箇所に近づき私たちはドキドキしました。やはり1小節増えましたが、みんなの集中で支障なく乗り越えました」

 勝手な増量は音楽的な問題ではなさそうだが、ハーモニーで進行を把握するというのはなかなかジャズっぽい方法だ。すでにこの人の頭の中ではジャズとクラシックは同じ土俵の上にあがっているのだろう。それでもグラスパーの非機能的和声の連続はなかなか把握しづらいのではないかという印象もあるが、作曲専攻出身の彼女にしてみれば個性的な響きではあるにせよ、意外な響きではなかったようだ。

 「ジャズにもいろいろスタイルがありますよね。歴史を遡ればジャズが単純に黒人の音楽というわけではなく、クラシックが作ってきたジャズもあります。それにしてもアドリブで音楽を作るというのは非常にセンスのいることで、誰もができることではないです。グラスパーさんの音楽を聴いていると、クラシックへのある意味での回帰のようなことが起きているんじゃないかという印象を受けました。そういう意味でも彼の音楽はとても広がりがある音楽だと感じました」

 コンサート当日は、グラスパーがサングラスをかけて舞台に登場。通常、指揮者と演奏者とはアイコンタクトでも演奏のタイミングを合わせたりする。「どこ見てるのかわからない!」と指揮者西本を戸惑わせたりするハプニングもあった。

 「演奏という部分ではいろんな刺激を受けました。サックスのああいう奏法はクラシックではありません。ドラマーの人は素晴らしい演奏家でした。ライヴハウスとは異なる残響の環境で微妙なタイミングのズレを感じ取ってうまくオケと合わせてくれていて、そのセンスの良さには感動しました。演奏家同士のコミュニケーションは常にできていたと感じました。ピアノの響きは、とても室内楽的で非常にニュアンスに富み、デリケートなタッチが素敵でした」

 インタヴューの最後を「今、始まったばかり」と括った西本に、グラスパーと彼のバンドは何を返すのだろう。