既存のフォーマットを嫌い、ニュー・タイプのインストを鳴らそうと立ち上がったシカゴの革命家が世間に受け入れられるまで、そう多くの時間は必要なかった。 静と動、過去と未来、陰と陽、調和と軋轢、繊細さと大胆さ、直線と曲線、喜びと悲しみ――相反するマテリアルをミックスし、〈ロックのその先〉を見せてくれたトータス。アルバム・デビューから20年強が過ぎてもなお、5人の実験精神は萎えることを知らない。音楽の新たな可能性を模索する旅はまだ始まったばかりだ……

★Pt.1 コラム〈トータスの足跡〉はこちら
★Pt.2 ディスクガイド〈トータスを知るための6枚〉コラム〈メンバー紹介〉はこちら
★Pt.4 ディスクガイド〈トータスをめぐる音楽の果実〉はこちら

 


SOUVENIR IN CHICAGO
良好な関係をキープしてきた日本とトータス

 さっそくだが、トータスと日本との関係を探っていこうと思う。ジョン・マッケンタイアが多くの日本人アーティストの作品に関わってきたことは有名だろう。特に交流が深いのはGREAT3片寄明人。マッケンタイアがプロデュースしたGREAT3の2002年作『When you were a beauty』ではジャケにソーマ・スタジオが登場し、翌年リリースのChocolat & Akito『Chocolat & Akito』にはマッケンタイアのみならずジェフ・パーカーも参加。もう一人、竹村延和も外せない名前で、スリル・ジョッキーから出している2000年作『Sign』にマッケンタイアが関与、そのお返しに竹村がトータスのリミックスを手掛けたことも。また、LITEがソーマ詣でを行っているほか、最近では後藤正文によるGotch名義作『Can't Be Forever Young』(2014年)でもマッケンタイアがミキシングを担当していた。

GREAT3の2002年作『When you were a beauty』収録曲“Ruby”

 

Gotchの2014年作『Can't Be Forever Young』収録曲“Humanoid Girl / 機械仕掛けのあの娘”

 

 もちろん、そうした直接的な関わりだけでなく、日本にはトータスのフォロワーも多数存在。その筆頭がドラマーであり作編曲家でもあるYu Ojimaのソロ・プロジェクト=Jimanicaではないだろうか。日本でトータスの名を広めたHEADZに在籍する彼の楽曲からは、生演奏とプログラミングを組み合わせるという手法のみならず、トータス譲りのグルーヴとインテリジェンスが感じられる。さらに、2015年に久々のアルバムを発表したtoeSpangle call Lilli lineも挙げておきたい。曲によってツイン・ドラムを導入した前者、ポスト・プロダクションのセンスが光る後者共に、やはり源流にはトータスの姿が確認できるだろう。

toeの2015年作『HEAR YOU』収録曲“Song Silly”

 

Spangle call Lilli lineの2015年作『ghost is dead』収録曲“azure”

 

 さて、〈なぜトータスは日本で人気が高いのか?〉という疑問がここで湧いてくる。わが国における〈ポスト・ロック〉は、ジャム・バンドクラブ・ジャズ・シーンとも接続し、2000年代にインスト・バンドのブームへと発展。ざっくりとした言い方で恐縮だが、〈インスト好き〉などいう一派がいまでも確かに存在している。言ってみれば、日本でのトータスの位置付けはそのインスト・ブームの先駆け的なものであり、だからこそ根強い人気を誇っているのではないか、と筆者は考えているのだ。 *金子厚武