INTERVIEW

Gotchも敬愛するUSインディーの良心、ナダ・サーフが一生かけた〈自分探し〉映す新作『You Know Who You Are』を語る

Photo by Shervin Lainez

 

USインディー・シーンの良心、NYはブルックリン出身のナダ・サーフが通算8作目となるニュー・アルバム『You Know Who You Are』を完成させた。2012年の前作『The Stars Are Indifferent To Astronomy』を発表後、フロントマンのマシュー・カーズジュリアナ・ハットフィールドとのユニット=マイナー・アルプスとしてアルバム『Get There』(2013年)をリリースするなどしていたが、この4年ぶりの新作では近年サポートを務めていたギタリストのダグ・ギラードガイデッド・バイ・ヴォイシズデス・オブ・サマンサなど)が正式メンバーとなり、4人組として再出発。フレッシュな雰囲気と熟練のソングライティングが化学反応を生み出している。

また、本作は一度ほぼ完成していた内容を再度作り直すという過程を踏んでいるため、アレンジ面ではこれまでより一歩踏み込んだアプローチにトライした作品となった。さらには、かつてセミソニックとして活動し、近年はアデルテイラー・スウィフトへの楽曲提供でも知られるダン・ウィルソンとの共作曲“Rushing”“Victory’s Yours”も収録するなど、バンドはここにきてまた新たな季節を迎えたと言っていいだろう。今回も日本盤のリリース元はASIAN KUNG-FU GENERATION後藤正文が主宰するonly in dreamsで、なんと初回生産分には、限定特典として2014年に配信限定でリリースされたレア・トラック集『B-Sides』を付属した豪華2枚組仕様。後藤のGotch名義でのソロ作に参加するため、急遽来日したマシューに話を訊いた。

NADA SURF You Know Who You Are only in dreams(2016)

 

――Gotchさんの新しいソロ作に参加されているそうですね。

「うん、数か月前に曲を書いて、2日前にリズム・ギターとアルペジオ・パートを全部録り終えたんだ。良い感じだよ」

――ミックスで元デス・キャブ・フォー・キューティクリス・ウォラが参加しているそうですが、マシューがGotchさんに紹介したわけですか?

「えーと、結果そういうことでもあるというか、Gotchはもともとデスキャブのファンだったみたいだし、クリスは僕らの『The Weight Is A Gift』(2005年)にも関わってくれたから、そういういろんな繋がりがあってのことだと思う。つまり、僕もGotchもお互いクリスのファンだってことだね(笑)」

クリスが作曲に関与したデス・キャブ・フォー・キューティの2004年作『Transatlanticism』収録曲“Title and Registration”

 

――Gotchさんは『The Weight Is A Gift』のファンだっていうことを以前から口にしていたので、きっと大きく関係しているんじゃないかと思います。あの作品はマシューにとっても大きな意味のある作品だったと言えますか?

「もちろん、どの作品も自分にとっては大切だけど、その前の『Let Go』(2002年)からいまのリリース元のバースークとの関係が始まって、『The Weight Is A Gift』はバンドとしてまとまりのある作品ができた。その意味で、すごく特別な作品になったと言っていいと思うね」

2005年作『The Weight Is A Gift』収録曲“Always Love”

 

――Gotchさんのソロ作はアジカンの作品ともちょっとテイストが違って、それこそナダ・サーフであり、デスキャブの影響も受けていると思いますが、あとGotchさんがよく名前を出しているのがウィルコからの影響です。マシューにとってウィルコはどんな存在だと言えますか?

「もちろん、すごく大きな存在だよ。彼らのドキュメンタリー映画『ウィルコ・フィルム I Am Trying To Break Your Heart』を観て、音楽に対する姿勢にものすごく影響を受けたりもしたしね。まあ、〈影響を受ける〉というのはなかなかおもしろい話というか、別に〈自分はオリジナルでなくてはならない〉という堅い話じゃないんだけど、誰かの真似をすることで、イマジネーションに制限をかけることにもなりかねないっていうのはあるよね。自分が20代のときはピクシーズにとても影響を受けて、〈ピクシーズみたいになりたい〉と思っていたから、自分が自分でないような感じになっちゃって、それはちょっと良くないよなと。いまはそうやって誰かの真似をすることよりも、自分が持っているエナジーや情熱をいかに形にしていくかということを大事にしてる」

――初期の作品はまだピクシーズの影響下にあったけど、『Let Go』や『The Weight Is A Gift』でナダ・サーフらしさを確立していったと言えるかもしれないですね。

「うん、きっとそうなんじゃないかな。僕はそうやって誰かが言ってくれた意見は、どれも正しいと思っているんだ。ひとつおもしろいジョークがある。ある小学校の算数の先生が病欠して、しょうがないから国語の先生が算数の授業をすることになったんだ。で、国語の先生は〈どうやって授業をしたらいいかわからないから、簡単な質問をします〉と子供たちに〈2+2=?〉を尋ねたら、生徒は〈5です〉と答えた。そうしたら、その国語の先生は〈それもそうね〉と言ったわけ。つまり、算数は答えが決まっているけど、国語はどんな答えも間違いじゃない。それと同じように、作品に対するどんな意見も正しいと思うし、いろんなふうに感じてもらえるのは良いことだと、僕は思っているんだ」

――なるほど。では、新作の『You Know Who You Are』について伺います・間にマイナー・アルプスとしての活動を挿んでの久々のアルバムであり、ダグを正式メンバーに迎えて初めての作品ということもあって、高いモチヴェーションで制作に入ったのではないかと思うのですが、実際はいかがでしたか?

「えーと……〈そろそろ時期が来たか〉という感じ(笑)。スポーツをやる人は、記録を更新することで達成感を得ていると思うけど、僕らは作品を作ることに達成感を感じていて、ある意味中毒みたいなんだと思う。でも、一方で自分たちはミュージシャンだから、音楽を作らないと食べていけない。だから、両方あるんだよね。アートを作りたいという強い気持ちもあるし、やらなきゃいけないという気持ちもある。そういう全部を含めて、〈さあ、やろうか〉という雰囲気だったかな。メンバーが一人増えたぶん、責任感を感じたというのもあるけど、〈こうしなきゃいけない〉という契約があったわけじゃないし、とにかく良い曲を書いて、それを形にしようということを考えていたね」

マイナー・アルプスの2013年作『Get There』収録曲“I Don't Know What To Do With My Hands”

 

――ダグはここ数年ずっとサポートを務めていたわけで、自然な流れで加入することになったのでしょうか?

「うん、もう5~6年ツアーにもレコーディングにも参加してもらっていたからね。まあ男女の関係と一緒というかさ、都合の良いときだけ呼ぶのは失礼だし、フェアじゃないと思ったから、いつか〈君が必要だ〉と告げなきゃいけなくて、今回がそのタイミングだったんだよ。それで、デートを始めたというわけ」

――ダグは90年代後半から2000年代の半ばまで、ガイデッド・バイ・ヴォイシズのメンバーとして、非常にたくさんの作品に関わっているわけですが、あなたのフェイヴァリットを1曲挙げるとしたら?

「そうだな……“I Am A Tree”に“Game Of Pricks”、それから“I Am A Scientist”や“Teenage FBI”……たくさんありすぎる(笑)。ロバート・ポラードの出版名義を知ってる?〈Needmore Songs〉っていうんだ。あれだけいっぱい曲を書いてるのに、まだいるの?って感じだよね(笑)」

※ガイデッド・バイ・ヴォイシズのフロントマン。非常に多作で知られている

ガイデッド・バイ・ヴォイシズの94年作『Bee Thousand』収録曲“I Am A Scientist”

 

――ハハハ(笑)。アルバムについての話に戻すと、今回の作品は一度ほぼ完成していた作品を、再度作り直して完成させたそうですね。

「バースークのジョシュ・ローゼンフェルドとはすごく良い関係を築いていて、マイナー・アルプスのときは全部事前にデモを送ったりしていたんだけど、今回のアルバムも自分のなかで完成したと思ったときに、まず彼に聴いてもらったんだ。そうしたら、最初は〈うん、まあ良いんじゃない〉って感じだったけど、その後に彼が勇気を持って〈でも、もっと良くなるんじゃない?〉と言ってくれた。結果的に、それはすごく良かったと思ってる。自分で〈出来た〉と思った、そのさらに先まで突き詰めるというのはすごく新鮮な体験で、それによってより幅が広がったし、自由な表現ができたし、イマジネーションが広がる作品になった。ジョシュは正しかったし、すごく良い助言をくれたなと思う」

――作品をどこで完成とするのかって、すごく難しいと思うんですよね。もちろん、誰もがベストな作品を作りたいと思っているはずですけど、もしも100%満足する作品ができたら、そこでミュージシャンとしての歩みが終わってしまうようにも思う。100%満足できないからこそ、作品を作り続けるのかなと。マシューのなかでは、完成の定義のようなものはありますか?

「僕は完成したものよりも、〈作る〉という行為そのものが大事だと思っているんだ。いつも曲が出来たときは〈これがベストだ〉と思うんだけど、同時に次もあるだろうと常に思っていて、つまり〈One Of The Best〉という考え方だね。ベストのなかでもさらにベストを作りたいと思っていて、理想としては、そうやってベストがいっぱいあったらいいな。まあ、時には〈まあまあだな〉というときもあるけど、ひとつひとつの曲には個性があるわけだから、〈これはまあまあな曲なんだ〉と思って、気持ちを切り替える。僕はそれで良いと思っているんだ(笑)。とにかく、僕にとっては〈作り続ける〉という行為自体が大事だからね」

――〈作り続ける〉ことがなにより大事だというのは、ロバート・ポラードも同じかもしれませんね。

「まあ、僕はあんなに曲は作れないから、ちょっとタイプが違うと思うけどね。彼はお酒を飲みながら曲を作ることに長けているんだ。1曲出来たら、ビールを1缶潰すみたいな感じで、お酒と曲が連動していて、それが作品の一部になっている。僕は3缶ぐらいでもう眠くなっちゃうから、それで曲の数が違うのかも(笑)」

――ハハハ(笑)。あと今回の作品では複数のエンジニアがミックスを担当していて、ジョン・アグネロジョン・グッドマンソン、そして前作に引き続きクリス・ショウが1曲手掛けていますね。これには制作時期の違いが反映されているのでしょうか?

「もちろんタイミングもあるんだけど、僕らはいつもアルバムの制作に時間をかけすぎちゃって、締め切りに追われることになるんだよね。なので、誰か一人を待たせることがないように、複数のミキサーを立てたというわけ(笑)。あと僕はミックステープのカルチャーが好きだから、1枚のアルバムに違う特色のミックスを施された曲が並ぶことで、作品に膨らみが出ると思ったんだ。今回で言うと、ハイファイで洗練された感じのジョン・グッドマンソンのミックスと、温かみのあるオーガニックな感じのジョン・アグネロのミックスという感じで、相反するとまでは言わないけど、それぞれの特徴を上手く活かせたと思う」

ジョン・アグネロがミックスした“Rushing”

 

――アルバムの1曲目を飾っているのは唯一クリス・ショウがミックスを手掛けた“Cold To See Clear”で、久々のアルバムの幕開けに相応しいフレッシュな一曲ですね。

「実は僕はこの曲が1曲目になるとは全然思ってなかったんだ。僕は曲作りそのものに力を入れてるから、曲順ってそんなに重要視はしてないんだよね。ミックスが終わって、曲順を決める段階はもう疲れ切ってるし(笑)。今回はアイラ(・エリオット)がこの曲を1曲目にするのが良いと言って、それにみんなが同意したんだ。僕としては“Friend Hospital”がお気に入りだったから、〈これが1曲目になるかな〉となんとなく思っていたんだけど、でもそれを主張するよりも、みんなが良いと思った曲が良いかなって」

――“Friend Hospital”は写真家/映像作家のオータム・デ・ワイルドがインスピレーション源になっているそうですね。

「オータムとは10年来の友人で、お互いを支え合える関係なんだ。彼女はLAに住んでいて、僕はNYに住んでいるんだけど、よくお互いの家を行き来していて、特にアルバムの制作期間中はお互い人生のなかでトラブルを抱えていた時期だったから、気持ち的にいっぱいいっぱいになると〈君の家に行っていい?〉と連絡し、彼女に自分の心の内を吐き出していた。つまり、自分の傷を癒しに行く相手だから“Friend Hospital”というね」

オータム・デ・ワイルドがプラダで製作した2015年のショートフィルム『Postman Dreams』

 

――なるほど。

「ただ、歌詞でも〈So Much Better That We’re Not Together ‘Cause I Will Not Lose You〉(僕ら、一緒じゃないほうが、ずっといい だって、きみを失うことがないから)と歌っているように、お付き合いしたり、ロマンティックな関係になったりすると、終わりが来ることもある。でも、友人関係には〈別れ〉はないから、お互いを支え合い続けることができる。そうやって、家族のように大事な関係を続けていければなと思うんだ。あと電話で話しているときなんかに彼女が言ったおもしろいフレーズをメモっておいて、それを歌詞に使ったりもしている。例えば、この曲の歌詞に〈Fantastic Cemetery〉というフレーズが出てくるんだけど、〈ファンタスティックな墓地〉っておかしいよね(笑)。そうやってふざけ合えるし、支え合える。そういう大事な存在を曲にしておきたかったんだ」

――では最後に、『You Know Who You Are』というタイトルについて訊かせてください。自分が何者なのかを知ることはすごく難しくて、いまの“Friend Hospital”の話のように、他者を通じて自分を知るというのはひとつの方法であるように思いますが、マシューはこのタイトルをどのように捉えているのでしょうか?

「これは一生かけて探求していくテーマだと思っているんだ。僕は複数の意味を持ったタイトルが好きで、今回のタイトルはそのままの意味もあれば、そうじゃないものもあるんだけど、そのうちのひとつは、オスカーの受賞者が壇上で〈○○な人に捧げます〉みたいなことを言うでしょ? あれって、大事な人に対して〈誰のことかわかっているよね?〉というポジティヴな意味合いのことが多いけど、時にはネガティヴな意味で〈お前のことを言ってるんだぞ〉という場合もあったりする。今回のタイトルも、〈自分はどういう人間なんだろう?〉とプラスの意味で再確認する人もいれば、見て見ぬふりをして、自分を型にはめたままにしてしまう人もいると思うんだ」

――確かに人によって受け取り方は違うでしょうね。

「でも、僕としてはこのタイトルをすごく心地良いと思ってほしい。〈自分探し〉には一生かかるし、いまはこれが正しいと思っていても、1年後には間違いだったと思ったりもするじゃない? だから、いますぐ自分が何者なのかを知らないといけないわけじゃなくて、一生かけてそれがわかればいい。そのためには、日々の生活を充実させることが重要で、ちゃんと睡眠を取ったり、散歩に出かけたり、いろいろと気分転換をしながら、自分探しをしていくことが大事だと思う。僕自身もいまだに本当の自分はわからないけど、確かに他人は自分の鏡だと思うから、そういう意味でも僕は常にオープンな姿勢で、人生をかけて自分を知っていきたいと思うんだ」

マシューとGotchによる『You Know Who You Are』の紹介動画
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