天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。先週の洋楽の話題っていったら〈フジロック〉ですよね。僕は配信もほとんど観てないので、3日間参加された亮太さんの感想を聞きたいです」

田中亮太「なんといってもベスト・アクトはケミカル(・ブラザーズ)ですよ! UKレイヴ・カルチャーの生き証人としてサヴァイブしてきた彼らの美学や軌跡を凝縮した圧巻のステージでした。もはや田中の人生史上ベスト・ライヴ! あとは洋楽だと、大雨のなかのデスキャブはとことん沁みたし、ジャネール・モネイの真摯にメッセージを伝えようとする姿にも大感動、還暦を過ぎてなお少年性が眩しすぎたキュアーも素晴らしかったです。邦楽ならGEZANが早朝のホワイトで伝説を残して……あ~、思い出しただけでもつい涙腺が……」

天野「へ~」

田中「それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」

 

1. Rico Nasty “Time Flies”
Song Of The Week

田中「今週の〈SOTW〉はリコ・ナスティの“Time Flies”! 彼女はメリーランド出身のラッパーです。ブレイクが予想されるラッパーを選ぶ名物企画〈2019 XXL Freshman Class〉にも選出されている注目のニュー・フェイスですね」

天野「アクの強い声を活かしたラップには存在感がありますよね。〈PSN〉では昨年の12月に“Guap (LaLaLa)”という曲を取り上げました

田中「この曲は今年の4月にリリースしたミックステープ『Anger Management』以来となる新曲。これまで組むことの多かったケニー・ビーツではなく、ディー・Bがプロデュースしています。ディー・Bはそんなに有名な人ではなさそうなんですが、エモ・ラップ的なサウンドでメロディアスに仕上げていますね」

天野「トラップ・ビートと太いキックの音には高揚感がありますし、ライヴやフェスでのシンガロングが目に浮かぶわかりやすいメロディーです。〈時間が過ぎるのはあっという間、だから私は地面にいたくない〉っていうリリックは、ストレートに上昇志向を歌っていてかっこいい。〈私は他の誰かになんてなりたくないし/雑誌の表紙を飾りたいなんて思ったことない〉なんてエッジのあるラインも最高。彼女からは目が離せませんね!」

 

2. Chance The Rapper feat. Death Cab For Cuty “Do You Remember”

田中「2位はチャンス・ザ・ラッパーの“Do You Remember”。彼が先週リリースした超待望のファースト・アルバム『The Big Day』からの一曲ですね。海外メディアでは賛否両論のアルバムですが、天野くんがレヴューでしっかり考察しているので、そちらも読んでください!」

天野「チャノの青春時代という過去と、結婚し、愛娘を授かった現在や未来の両方を祝福する作品だと思います。でも22曲も収録されている『The Big Day』から、どうしてこの曲を選んだんですか?」

田中「まず、インディー・ロック・バンドのデス・キャブ・フォー・キューティーをフィーチャーしたという意外性がおもしろいなって。そして、ベン・ギバートの蒼さを堪えたソフトな歌声が、チャンスのおセンチなサウンドにすごくハマっていて、名コラボだなって。デスキャブのライヴ、最高だったな~。〈若かったときのこと、覚えているかい?〉と問いかける歌詞も含めて、アルバムのテーマ性がわかりやすく出た曲だと思うんですよね。ジャスティン・ヴァ―ノン(ボン・イヴェール)やフランシス・スターライト(フランシス・アンド・ザ・ライツ)もクレジットされていて、サイケデリックかつドリーミーなプロダクションは2000年前後のフレーミング・リップスのサウンドをモダナイズした感じですし」

天野「やっぱりデスキャブ! ショーン・メンデスとのポップなハウス“Ballin Flossin”とかもあるのに、これを選んだのが亮太さんらしいなって思ってたんですよ(笑)。とにもかくにも『The Big Day』、いいアルバムなので聴いてくださいね!」

 

3. Burna Boy “Pull Up”

天野「3位はバーナ・ボーイの“Pull Up”。この連載を毎週読んでくださっている方なら、彼のことはご存知ですよね?」

田中「そんな貴重で奇特な読者がいれば、の話ですけどね……。それはともかく、バーナ・ボーイは3週前の〈PSN〉でマヘリアの“Simmer”をご紹介したときに登場しています。ナイジェリアのシンガーで、リリー・アレンやフォール・アウト・ボーイといったアーティストとの共演で世界的に知られるようになりました」

天野「今年はバーナ・ボーイの名前をよく見かけますね。ビヨンセの『The Lion King: The Gift』や、つい先週出たばかりのDJスネイクの新作『Carte Blanche』に参加しています。ナイジェリアならではのパーカッションや西アフリカ的なギターの音を使いながら、ダンスホールやヒップホップ、R&Bのサウンドを取り込む姿勢が欧米の音楽家たちにとって刺激的なのかも」

田中「この曲なんてまさに〈西アフリカ音楽+ダンスホール+R&B〉って感じ。というわけで、7月26日にリリースされたアルバム『African Giant』からのシングルでした!」

 

4. Taylor Swift “The Archer”

天野「第4位はテイラー・スウィフトのニュー・シングル“The Archer”。僕にとってはこれが〈今週の一曲〉です!」

田中「僕はあんまりピンとこなかったんですけど……。どういうところがいいんですか?」

天野「ええっ、めちゃくちゃいい曲じゃないですかっ!? 早口で言うのでちゃんと聞いてくださいね。まず、テイラーは2017年の『reputation』っていうヘヴィーでダークなアルバムで自身の闇や内向きの感情を吐露していたわけですよね。そのツアーもひと段落して、2019年はブレンドン・ユーリーとの“ME!”ゆったりとしたグルーヴの“You Need Me Calm Down”っていう2つのポップなシングルで、新しいモードを提示しました。その2曲からは、“We Are Never Ever Getting Back Together”(2012年)『1989』(2014年)の頃の明るさや親しみやすさが感じられるんです。そんな流れでリリースした第3弾シングルのこの曲は、浮遊感たっぷりなシンセサイザーのサウンドと抑制の効いた控えめなビートが、テイラーにとっては挑戦的なドリーム・ポップ風のサウンドになっています。こんな変わった曲をシングルとして発表した、っていうところにも彼女の新しい姿が見えてくるんです。〈戦うための準備はできている〉〈私は弓を射る人(the archer)、でもその犠牲者でもある〉といった歌詞は前作があってこその内容ですが、歌のムードは全然暗くなくて、むしろ優しさや包容力が感じられます。そこにも変化や成熟を感じて泣けてくるんですよ……。いや~、新作『Lover』がめちゃくちゃ楽しみですね!!」

田中「……」

 

5. Clairo “Sofia”

田中「最後はクライロの“Sofia”。彼女については今年6月に〈PSN〉でシングル“Bags”を紹介しましたね。ボストン出身のシンガー・ソングライターで、ベッドルーム・ポップ・シーンから出てきたネクスト・ブレイカーと言われています」

天野「“Bags”も良かったんですが、この“Sofia”にも〈おっ!〉と思わされたので今回も選びました。ありがちな宅録サウンドから一歩踏み出したサウンドで、音が力強いんですよね。メロディーも素晴らしいですし」

田中「ビートはずっとミニマルな4つ打ちなんですけど、曲の展開に合わせて強弱がつけられていてダイナミック。絡みつくようなギターはストロークス風で耳を引きますね」

天野「中盤で音割れした感じになるところもおもしろいです。このあたりのプロダクションの妙は、さすが元ヴァンパイア・ウィークエンドのロスタム・バトマングリって感じ。〈PSN〉では紹介できなかった前のシングル“Closer To You”は〈トラップ以降のベッドルーム・ポップ〉なサウンドだったし、アルバムはかなり多彩な曲を収録した作品になっていそう。ファースト・アルバム『Immunity』は、いよいよ今週末の8月2日(金)リリース!」