SERIES

【D.J.FulltonoのCrazy Tunes】Vol.9 RPブー、世界の誰もが知り得なかったもうひとつの裏ストーリーの存在

日本でもっともジュークを知る男が紐解く、日本の&世界のジューク最前線

RPブージューク/フットワークのオリジネイターだと、いまはそう知れ渡っていますが、若干の間違いがあります。彼の登場以前に、DJスピン“Bout It”(97年)、DJクレント“3rd World”(98年)と、現在のジューク/フットワークのプロトタイプとも言える楽曲が世に送り出されていました。ではRPブーは何が凄いのか、なぜ仲間たちからこれほどまでに賞賛を浴びているのか――それは、シカゴ・ハウス時代から脈々と受け継がれてきたハウス・ミュージックの概念を根底から覆す手法を編み出したからだと考えます。それが顕著に表れた作品が誕生したのは99年。

DJクレント“Back Up Off Me”
 

この曲はDJクレントの“Back Up Off Me”。ジュークの歴史に残るアンセムのひとつですが、実は曲の後半に誰も知り得なかった秘密が隠されていることを最近発見しました。この曲の2分35秒あたりから、突然狂ったような変則ビートになりますが、この部分はRPブーが作ったリミックス・ヴァージョンだったことが判明。しかし、リミックス曲としてリリースされたのではなく、曲の途中から強引にリミックス・ヴァージョンがカットインするという変な構成のまま、デトロイトのレーベルであるジューク・トラックスJuke Trax)からリリースされます。そのせいで、僕はこのイカれたビートの存在につい最近までまったく気付きませんでした(僕はDJユースなトラックものは曲の前半までしか聴かないので……)。

RPブーの存在が世に知れ渡ったのは2010年代に入ってからであって、それまでの約10年間はシカゴの人以外誰も知りませんでした。新たな事実が発覚する以前のシーンの流れを図解すると、こんな感じです。

2000年にシカゴのジューク・シーンは突如勢いを失うのですが、それと同時期、逆に勢いを付けてきたデトロイトのゲットー・テック・シーンとシカゴのDJファンクが繋がったことで、DJディーオンDJスラゴもフックアップされ、ジューク・シーンはデトロイトを経由することでなんとか人気が保たれました。そこから若手のDJクレント、DJラシャド&スピンへと引き継がれていったと理解していたのです。

ただ、その解釈ではどうしても不可解な点がありました。ゲットー・テックと融合していた時代のジュークはどれも4つ打ちのテクノ/ハウスを高速化させたスタイルで、現在のジューク/フットワークで聴かれるあの複雑なビート(いまで言うフットワーク)は見当たりません。ではその複雑なビートはいつ生まれたのかという疑問です。僕はこれまでその件に深く踏み込まず、複雑なビートは突然変異で生まれたものだと強引に解釈していました。

しかし、2010年後半に、シカゴのアングラ・シーンを研究していたデイヴ・クアムがクラブ・ミュージック・メディアのResident Advisorで書いた記事〈The evolution of footwork〉のなかに、〈RPブーがフットワークのオリジネイターであろう〉との記述が。あまりにも唐突な内容に若干疑いを持ちながらYouTubeで彼のことを調べると、想像を絶する音楽に辿り着きます。

RPブーの2000年中盤の楽曲“Eraser”。翌年の2011年にUKのプラネット・ミューからリリース
 

ジュークでもゲットー・テックでもない異次元のビート。この曲を初めて聴いた時は、〈ヤバイ〉を通り越して不気味な印象でした。

2013年にRPブーが来日を果たした際、彼は2000年前後の出来事を振り返り、みずからをオリジネイターとは言わず、〈ストーリーテラー〉だと表現しました。自身はジューク/フットワークという物語の進行役だと。

2010年以降になってわかったこと

実はこの時代に僕たちが当時聴いていたゲットー・テック/ジューク(C)とは別に、シカゴのローカル・シーンであるもう一つの裏世界(D)が存在し、同時に進行していたのです。ここで流れていた、それまでのハウス・ビートではないハーフで刻むビート(フットワーク)に若いヒップホップ・クリエイターたちも喰い付き、地元だけの一大ムーヴメントを起こします。そしてそのなかからデトロイトのゲットー・テックにマッチしそうな音だけがジュークとして世界に紹介されていたというわけです。なぜこんな現象が起こったのでしょうか。そこには深い理由がありそうなのですが、RPブーの過去音源を聴くと、時代背景からしてあまりにも革新的であり、彼の音楽がこのブームの発端だったのではと想像せざるを得ないのです。もうすぐ来日するRP・ブーに詳しく訊いてみたいところです。

2011年のコンピ『Bangs & Works Vol.2』収録曲、RPブー“Heavy Heat”
 

僕が特にRPブーがユニークだなと思う部分は、凄く単純なリズムに少し何かを加えるだけでたちまち狂ったビートに変身するということ。逆に考えれば、狂ったように聴こえるビートも実は凄く単純なリズムから構成されているとも考えられます。

RP・ブー“Speakers R-4”
 

例えば、この彼の代表曲“Speakers R-4”で言うと、〈Bang! Bang! Bang!〉というヴォイス・サンプリングのところは意表を突く斬新な展開に聴こえます。しかしリズムだけに集中して聴くと、さほど斬新と言えるようなビートではありません。入ってくる声のタイミングがワンテンポずれることで、それに惑わされてビートから意識が反れた瞬間に〈Bang! Bang! Bang!〉と入ってくるから驚かされます。このおもしろさを発見した時、まるで大人が〈いないいないばあ〉に引っ掛けられた気分でした。こういうトリックが曲の随所に散りばめられています。

RPブーの音楽スタイルを書道の書体に例えるなら、〈草書〉みたいなものではないかと思います。文字を崩さず書く〈楷書〉がハウス・ビートだとするならば、少し繋げて書く〈行書〉がジューク。それをさらに崩した〈草書〉がフットワークといったところでしょうか。僕は小中学生の頃に書道を習っていましたが、この草書という書体から書道の空気感が変わったのを思い出します。独特の美しい形は、創作感や芸術感が一気に増します。それはもはや楷書の原型を留めていません。しかも字の崩し方は同じ文字でも複数のパターンがあり、人それぞれ崩し方が異なります。

そんなことを考えているうちに草書体のことが気になったのでいろいろ調べていたところ、自分の理解を覆す衝撃の事実を知ることになります(漢字の話がもう少し続きます)。一般的に、書体の進化は楷書⇒行書⇒草書と理解している人も多いと思いますが、それは間違いで、草書は漢字のルーツである〈隷書〉(れいしょ)という書体を素早く書くために改良された実用的な書体で、現在の一般的な書体である楷書が生まれる以前から存在していたとか。それが現代では芸術的な観点から楽しまれるようになっているのです。

つまり、これをRPブーの音楽に当てはめてみると、一見ダンス・ミュージックの原型を留めない独特なビートは、ジュークが進化した過程で生まれたのではなく、RP・ブーが直感的に表現した音楽だということ。あるいはダンス・ミュージックの何かを崩す必要性があった、崩すことを求められていることに彼が気付いたのではないかと。それが現在になって世界の音楽ファンに発見され、当時とはまた違うヴェクトルで楽しまれているのです。いわばレア・グルーヴとも言えるのではないでしょうか。

RPブーの2015年作『Fingers, Bank Pads & Shoe Prints』収録曲“Bangin' On King Drive”
 

RP BOO Japan Tour 2016

SOMETHINN Vo.14

日程:4月2日(土)23:00~
会場:CIRCUS Osaka
料金:前売 2,000円/当日 2,500円 *別途+1ドリンク

〈GUEST〉
RP Boo
EYヨ (BOREDOMS)

〈DJ〉
行松陽介
D.J.Fulltono
Keita Kawakami
momo

※詳細はこちら 

BONDAID#8 RP Boo

日程:4月3日(日)17:00~
会場:CIRCUS Tokyo
料金:前売 2,000円/当日 2,500円(25歳以下 2,000円)

〈DJ〉
RP Boo
D.J.Fulltono
Toby Feltwell [C.E]
CHANGSIE
Wardaa
Fruity [SHINKARON]

〈LIVE〉
OMSB & Hi’Spec (SIMI LAB)
食品まつり a.k.a foodman

〈DANCE〉
TAKUYA aka LiL HaVoC & WeezyTheEra
from KATA Footwork Club

※詳細はこちら

関連アーティスト
pagetop