〈D.J.FulltonoのCrazy Tunes〉Vol.4で取り上げられた、シカゴ・フットワーク。このストリート・ダンスを楽しく身近に体験できるパーティーとして、月イチのペースで東京・恵比寿KATAにて開催されている〈Battle Train Tokyo(BTT)〉は、サウンドを楽しむだけでなくトップ・フットワーカーが手取り足取りレッスンもしてくれるうえ、これまでにトラックスマンキング・チャールズといったフットワーク界のビッグネームも来日時に登場しているというから侮れない――と、ほぼ資料のままの説明ですみません。早めに白状しておくと、このような連載を担当していながら、レギュラーの〈BTT〉は未体験の筆者。言い訳はしません。しかしFulltono氏によるシカゴ・フットワーク解説でがぜん興味をそそられ、先日行われた年に一度のフットワーク・バトル・トーナメント〈Battle Train Tokyo -footwork battle tournament-〉に潜入してまいりました。僭越ながら〈番外編〉という形でFulltono氏連載をお借りして、その熱戦の模様をお届けしたいと思います。

 

チャンピオン・ベルト!

 

今回が3回目となる本大会は、名前の通りにトーナメント形式&個人戦でフットワークの技やパフォーマンスを競い合い、ナンバー1を決めるもの。今回は16人がエントリーし、Fulltono連載でも紹介された、本大会2連覇中で今回殿堂入りを賭けるTAKUYAに先日アルバム『THE FLOOR IS YOURS』もリリースしたWEEZY、そしてYAMATOという、USのクルーに所属するフットワーカーに加え、初出場勢も含めた日々鍛錬を積む面々が出場しました。まずは抽選でトーナメントの枠順を決め、さっそく1回戦が始まります。

DJがかけるトラックに合わせ、足技を駆使して対戦相手を挑発しつつ、自身のパフォーマンスをアピールするわけですが、トップクラスの面々による軽い身のこなし、鋭いキレ味で両足はもちろん身体全体を躍動させる様子には、言葉を失うというか、息をするのも忘れてジーッと見入ってしまうような優雅さがありました。曲が始まり、動きはじめるタイミングを掴むためにグルグル回ったりするのも、観ている側からするとワクワクする時間です。グルグル回る人=デキる奴感がありますので、とりあえず音が鳴ったらグルグル回ってみて相手をビビらせるというのも駆け引きのひとつになるかも……いや関係ないですね。すみません。

フットワーカーとして認知していたWEEZYが実はトラックメイカーでもあることには驚かされましたが、彼のみならずFRUITYBoogie MannKΣITOSHINKARONの皆さんですね)などDJ/プロデューサー陣もエントリーしているというのは、個人的におもしろいなと思った点。また、〈BTTトーナメント〉は〈ダンスのスタイル自体は問わない〉というのがあり、BPM160のジューク/フットワークのトラックに合わせるのが条件ですが、それ以外は何でもアリなのだそうで、今回はトーナメントの合間にエアロビクスをオーディエンスも巻き込んで披露したAEROBIX(なんだかスゴイ人たちでした!)として出演していたダンサーのケンジル・ビエンが参戦し、アクロバティック(?)かつ泥臭いパフォーマンスで異彩を放っていたのが印象に残りました。型にはまらないことこそフットワークです。しかし、よく見ていると個々にスタイルが全然違うので、1回戦では全出場者各々の個性を堪能するのも楽しみのひとつでした。

 

 

1回戦が終了して、合間にこのイヴェントのことについて話を訊いてみようと、〈BTT〉立ち上げの「言い出しっぺ」と語る、Kent Alexander氏(Paisley Parksなど)に声をかけてみました。〈BTT〉を立ち上げた経緯は、日本でのジューク/フットワークの認知がサウンド寄りだったものの、日本にもフットワーカーは少数ながら存在していたし、であればダンスをフィーチャーしたイヴェントがあってもいいのでは?と思ったのがきっかけだったそう。〈BTT〉のFacebookでイヴェントの模様を収めた動画を投稿すると、海外からの反応が良いらしく、トラックスマンあたりは〈BTT〉に率先して出たいと申し出たほどなのだとか。さらに、かのRPブーは〈BTT〉の様子を〈昔のシカゴを見ているようだ〉と語っていたそうです。どことなく黎明期の熱みたいなものが〈BTT〉にあるというのは、大会を通じて私自身も感じたことです。

 

 

そして2回戦に入ると、さっそく下剋上が勃発。本大会2連覇中で今回ももちろん優勝候補の一角であったTAKUYAが、弱冠17歳のJUNYAに敗れるという波乱が。しかしJUNYAも、みるみる力を付けてきている実力者なのだそうで、そういった若い力の台頭も頼もしい限り。スキルだけ考えればTAKUYAのほうが格上かもしれません……というか全般的なフットワークのクォリティーで言えば、他を見回しても彼が断然素晴らしかったと思います(素人調べですが)。しかし、ここでは難しいことは抜きにして観客がどれだけ心を奪われたかが勝敗を決める――つまり問われるのはスキルだけではなく、それも含めたパフォーマンス力にあるのです。トラックを味方に付け、短い持ち時間でいかに〈魅せる〉パフォーマンスができるか。そういう観点で今回はJUNYAに軍配が上がったわけです。彼が随所で見せていたターンはとてもカッコ良かった! この対戦はもちろん今大会のハイライトのひとつです。

さらに準決勝ともなると、緊迫の度合いがアップ。順当にここまで駒を進めてきたWEEZYとYAMATOが、初出場ながら逞しく勝ち上がってきたTOMOとTAKUYAを破ったJUNYAを迎え撃ちます。映像にもある通り、がっつり自身の個性を打ち出して臨んだ挑戦者の2人も善戦しましたが、惜しくも敵わず。決勝はWEEZYとYAMATOの一騎打ちという形に。このファイナルの模様は、御託を並べるよりも、映像で堪能してほしいので、↓の動画をご覧ください。ほぼノー・カットです。

ここまで来ると、もはやどちらが巧いかという次元ではなくなるし、いわゆる〈魅せる力〉的なところだけでジャッジするのは非常に難しくなってきます。よって既定の2ターンずつのパフォーマンスでは結論が出ずに延長戦へもつれ込み、最後はYAMATOがより多くの歓声を集め、第3回〈Battle Train Tokyo -footwork battle tournament-〉のチャンピオンとなりました! パチパチパチパチ。これはもう気迫勝ちとしか言いようがない。WEEZYの素晴らしさは申し分なかったけれど、誰よりもYAMATOには勝ちたいオーラが漲っていたし、随所でその気概を(……とある事情により個人的にも)しかと受け取っていました。

 

 

正直、これほどまでに胸熱になるとは予想しておらず……。出場者たちの個性溢れるパフォーマンスや熱心さに圧倒されたのもさることながら、対戦でかかるトラックにオーディエンスが歓喜したり(どんなトラックがかかるのかも毎度楽しい)、対戦の合間に出場者関係なく気ままにフットワークを楽しむ姿を眺めていたら、日本ではまだ広く知られていないものの、ここには確固たるカルチャーがしっかり息づいていることを感じました。音楽からでもダンスからでも、ジューク/フットワークがおもしろいと思ったら絶対に覗いてみたほうがいい! それほど心を揺さぶられる、めちゃめちゃ楽しいイヴェントでした。全国のフットワーカーの皆さん、われこそはという人は次回ぜひお集まりを!