TVでも話題の舌鋒鋭いラッパーと名うてのバンドマンたちが意気投合! 多様な〈死生観〉を描いたミニ・アルバムで眩しくデビュー!

 TV番組「フリースタイルダンジョン」の人気もあり、MCバトルがひとつのムーヴメントとして急速に市民権を獲得しはじめているなか、毒と諧謔の二刀を巧みに操る舌鋒鋭いそのスタイルで同番組でも強烈な存在感を発揮しているラッパー、DOTAMA。そんな彼がフロントマンを務める新バンド、FINAL FRASHが始動した。演奏陣は、昨年末に活動休止したthe telephones松本誠治(ドラムス)と長島涼平(ベース)、THE SUZANRIE(キーボード)、サポート・メンバーにhe大谷武史(ギター)。昨年行われたDOTAMAのソロ・ライヴに、以前から交流のあった松本と長島がサポートを務め、そのときに覚えた手応えからバンドを結成する流れになり、そこにRIEが合流。縦と横のダイナミズムを満たすグルーヴとポップな旋律を兼ね備えたサウンドに、新たな表情と筆致を見せるDOTAMAのラップと歌が解放されている。このバンドにFINAL FRASHと命名したのもDOTAMAだ。

 「僕はこれまで6枚の作品をリリースさせてもらってるんですが、第三者的な視点で、俯瞰でストーリーテリングする内容のリリックが多かったんですね。でも、昨年リリースした『ニューアルバム』でほぼ初めて自分語りというヒップホップの王道的なテーマと向き合いました。そのうえで、FINAL FRASHというバンドで自分が書くべきリリックは何かと考えたときに普遍的なトピックを歌いたいと思って。その時、人間にとっての普遍性って〈死生観〉だと思ったんです。FINAL FRASH=最後の光とは、人間が死ぬ間際に放つ光であり、希望の光でも絶望の光でもある。それはすごく重いテーマではあるんだけど、FINAL FRASHのポップなサウンドに乗ればいろんな死生観を歌えると思ったんです」(DOTAMA)。

FINAL FRASH FINAL FRASH 術ノ穴(2016)

 セルフ・タイトルを冠したファースト・ミニ・アルバムには全6曲を収録。アッパーなファンク・ロックを響かせる“YEAH”に始まり、ジャジーな“こんなはずじゃなかった”、シンセホーンを効果的に使ってシリアスな生音ヒップホップを現出させる“正義の味方”、ミニマルなアンサンブルでダンス・クラシックスやボッサのテイストを織り交ぜる“カリキュラム”など、サウンドのアプローチも実に多様だ。だからこそ、さまざまな角度から死生観を描くDOTAMAのリリシズムも活きる。そして、その音楽像には生まれたてのバンドならではのフレッシュな衝動が漲っている。

 「FINAL FRASHで鳴らしているサウンドは、the telephonesで10年間経験してきたなかでまったくやっていなかった要素がたくさんあるので。それは一人のプレイヤーとしてもすごくときめくものがあるんですよね。僕はまずDOTAMAくんに歌ってほしいという思いがあって。メインで歌う人がラッパーという時点で楽器陣の自由度もかなり増すのがイイんですよね。曲を作る行程はいろんなパターンがあって、DOTAMAくんが持ってきた元ネタを俺とRIEさんが解体して再構築したり、誠治くんが持ってきたギター・リフから広げていったり。最初から基本的な決めごとが少ないぶん、音楽的にもいろんなチャレンジができる。それはこのバンドの強みでもあると思います」(長島)。

 「このバンドにあるポップな要素って、みんなのなかから自然と出ているものだと思うんです。それは具体的に言葉にせずとも表れるものというか。ここから、自分たちがまだ触ったことのないジャンルの要素をFINAL FRASHのフィルターを通して昇華していきたいなと思ってます。ライヴの見せ方もこれから本数を重ねるごとにいろんな気づきがあると思うし、バンドがどんどん変化していくこと自体も楽しみたいなと」(松本)。

 彼らがここからさらにどのような音と言葉を紡ぎ、どのような物語を描いていくのか。その閃光の行方をつぶさに目撃したい。

 


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ここではメンバーたちの作品を一部紹介します。ベスト盤『BEST HIT the telephones』(ユニバーサル)に集大成されるキャリアを経て2015年に活動休止したthe telephonesですが、そのトリビュート盤『We are DISCO!!! ~tribute to the telephones~』(同)Fragmentと“Say DISCO”を披露していたのがDOTAMAでした。彼はバンドのOLD MACHINEと組んだ2007年の『dotama & old machine』(術ノ穴で音源デビューし、2010年に初ソロ作『音楽ワルキューレ』(同)を発表したラッパー。翌年には全編suzume制作の企画盤『ホーリーランド』(同)、2012年にはUSKとのタッグ作『リストラクション~自主解雇のススメ~』(同)、さらにその翌年には全曲をQuviokalが手掛けたハハノシキュウとのコラボ作『13月』(同)……とコンスタントなリリースで個性を発揮し、並行してフリースタイラーとして知名度を高めてきたのは衆知の通り。昨年にはFragmentや食品まつりmunnraiらを迎えてオリジナル・セカンド・アルバム『ニューアルバム』(同)を発表しています。一方、Rieが姉妹のSaoriと2004年に結成したTHE SUZANは、ROSEからデビューした後にNYへ拠点を移し、2010年の『Golden Week For The Poco Poco Beat』(Fool's Goldで逆輸入されたのも記憶に新しいバンド。帰国して以降の新展開にも期待したいところです。 *bounce編集部