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2016年のダークホース、ケイトラナダとは何者? 混沌としたシーンをソウルフルに楽しむ〈ポスト・J・ディラ〉筆頭格の歩み

2016年のダークホース、ケイトラナダとは何者? 混沌としたシーンをソウルフルに楽しむ〈ポスト・J・ディラ〉筆頭格の歩み

2016年に入って、ケイトラナダの名前を耳にする機会が一気に増えてきた。先頃リリースされた彼のファースト・アルバム『99.9%』には、アンダーソン・パックジ・インターネットシド・ザ・キッドといった今日のシーンを彩るキーパーソンから、クレイグ・デヴィッドカリーム・リギンスのような大物まで集結。多彩なビートをフレキシブルに操り、ソウルフルかつテンション高めの、万人受けしそうなポップさも魅力の一枚だ。また、レディオヘッドアデルヴァンパイア・ウィークエンドらを擁しつつ、DJカルチャーを長年支え続けるXLから同作がリリースされた点も重要だろう。

Mikikiでは、ポスト・J・ディラ候補の筆頭とも謳われるケイトラナダを2回に分けて特集。この第1回ではイントロダクションとして、インターネットを通じて台頭したキャリアや、ジャンルを軽々と越境していくトラックメイカーとしての手腕について、音楽ジャーナリストの高橋芳朗氏に紹介してもらった。 *Mikiki編集部

KAYTRANADA 99.9% XL/HOSTESS(2016)

 

ブレイクの足掛かりを築いたSoundCloudでの活動

ビヨンセ『Lemonade』、ドレイク『Views』、ジェイムズ・ブレイク『The Colour In Anything』、チャンス・ザ・ラッパー『Coloring Book』――4月~5月にかけて2016年の顔になりそうなビッグ・タイトルが次々と投下されていったなかにあって、ダークホース的に脚光を浴びた傑作がある。ハイチで生まれカナダはモントリオールで育ったプロデューサー、ケイトラナダのデビュー作『99.9%』だ。

もっとも、〈SoundCloudのスーパースター〉の異名をとるケイトラナダは、日頃からインターネット上の音源探索に勤しんでいるような人々にしてみれば、穴馬どころか十分本命に値する〈旬〉な存在だろう。彼のデビュー・アルバムが並居る強豪のなかでも埋没することなく高い評価を獲得しているこの現状を、至極当然の結果として見守っている者も少なくないと思う。

本名をルイス・ケヴィン・セレスティンと名乗るケイトラナダは、92年8月25日生まれの23歳。影響を受けたアーティストにア・トライブ・コールド・クエストJ・ディラマッドリブらを挙げる彼は、14歳でDJ、15歳でビートメイキングを開始。2010年よりBandcampなどを通じて自身の作品を発表するようになった(当初の名義はケイトラダムス)。

ケイトラナダがJ・ディラ『Donuts』(2006年)の魅力を語る映像。ケイトラナダによるJ・ディラ“Nothing Like This”のリミックス音源はこちら
J・ディラと縁の深いカリーム・リギンスがドラムスを叩く『99.9%』収録曲“Bus Ride”

 

ブレイクの足掛かりを築いたのは、2012年頃からSoundCloudにアップし続けている数々のブートレグ・リミックス。なかでも、みずからの音楽的なルーツである90年代産のR&Bを中心としたリミックス・ワークが評判を集める(ジャネット・ジャクソン“If”、エリカ・バドゥ“Love Of My Life”、ミッシー・エリオット“Sock It 2 Me”、ティードラ・モーゼス“Be Your Girl”などが特に名高い)。そして2014年、モブ・ディープ“My Block”を手掛けたことが契機となって、ケイトラナダのもとにはプロデュースのオファーが殺到する。

この2014年には、ケイトラナダは実弟であるラッパーのルイス・Pと組んだセレスティクスのミックステープ『Supreme Laziness』のリリースや、さらにはアルーナジョージ“Kaleidoscope Love”やディスクロージャー“January”といった注目アーティストのオフィシャル・リミックス制作を経て、晴れてXLとのソロ契約を締結。今回の『99.9%』にも収録されているシングル“Leave Me Alone”でデビューを飾った。

 

真摯なビート美学と、キャリアに裏打ちされた多彩なゲスト陣

2015年から今年にかけてのケイトラナダのプロダクション・ディスコグラフィーは、『99.9%』へと続く階段を一気に駆け上がっていくかのようでもある。イラ・J“Strippers”、トーキョー“Involved”、フレディ・ギブス“My Dope House”、ジ・インターネット“Girl”、タリブ・クウェリ“Butterfly”、アンダーソン・パック“Lite Weight”、ケイティ・B“Honey”、アジーリア・バンクス“Along The Coast”、タキシード“The Right Time (Kaytranada Rmx)” ――そんな彼のビートは、『99.9%』と同タイミングでリリースされたチャンス・ザ・ラッパー『Coloring Book』収録の“All Night”でも聴くことができる。

タキシード“The Right Time (Kaytranada Rmx)”の演奏にはバッドバッドノットグッドが参加

こうして満を持して完成を迎えた『99.9%』は、過去に共演経験のある気心の知れたアーティストとのコラボレーションを軸にした、ケイトラナダの集大成と言える内容になっている。その充実ぶりに関しては、スムーズ・ファンク“Lite Spots”をチェックしてもらえばおのずと窺い知れると思う。

“Lite Spots”はガル・コスタ“Pontos de Luz”をサンプリングしたブラジリアン・フィール溢れるビートの心地良さもさることながら、ケイトラナダがみずから作り上げたロボットにBボーイングを教授する、チャーミングなプロットのミュージック・ビデオが実に素晴らしい。以前ケイトラナダは自身のTwitterで、9thワンダーのビートメイキングにまつわる名言〈It's not the machine, It's the man behind the machine〉をポストしていたが、彼が“Lite Spots”のビデオを通じて訴えたかったのはきっとそういうことなのだろう。

そんなケイトラナダの真摯なビート美学に貫かれた『99.9%』は、どこを切り取ってもひたすらソウルフルでファンキーだ。彼の弟ルイス・Pはアルバムの音楽性を冗談交じりに〈Black Tropical House〉と評したそうだが、トレンドを踏まえながらも滑らかなブラックネスとメロウネスが息づくサウンドに身を委ねていると、それもあながちジョークとして片付けられないように思えてくる。

そういえばケイトラナダは、少し前にTwitterでこんなことも書いていた。〈you producers NEED to blend genres, whatever you feel, create your identity〉――このコメントと『99.9%』に集った多彩なゲスト陣(それはカリーム・リギンス、バッドバッドノットグッドから、クレイグ・デヴィッド、アンダーソン・パック、シド・ザ・キッド、アルーナジョージ、ヴィック・メンサフォンテリトル・ドラゴンにまで及ぶ)を重ね合わせると、ケイトラナダという男が現在の混沌としたシーンを最高にエンジョイしていること、そしてその痛快さを見事に体現していることがよくわかる。

今回の『99.9%』リリース直前には、自身のセクシャリティーについてゲイであることをカミングアウトしたケイトラナダ。現在はアルバムの続編的な内容のミックステープ『0.01%』を制作中とのことだが、アンダーソン・パックやセイヴ・マネー勢との親交の深さを考えると、この先さらに大きな展開が待ち受けている可能性も大いにある。

アンダーソン・パックが参加した『99.9%』収録曲“Glowed Up”。アンダーソン・パックの紹介記事はこちら
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