心洗われるようなモーツァルト演奏である。ザルツブルグ・モーツァルテウム音楽大学に学んだ菊地美涼がモダン・ピアノにより、多彩な音色と絶妙な緩急と強弱、流麗なフレージングを用いて、楽曲に込められた内容―崇高なものへの憧れ、多様な人間感情、光と影の交錯など―を、穏やかな時の流れの中に表現している。その美しさと自然さは「家具の音楽」となりうるほどだが、じっくり対峙するとその深い内容と豊かな味わいに惹きつけられてしまう。「クララ・ハスキルの再来」と書けば、オールド・ファンには伝わりやすいかも知れない。モーツァルト好きを自認する方に絶対お薦めのディスクである。