INTERVIEW

植物、ディストピア、SF映画? arko lemmingが写真家タイコウクニヨシと語る、〈内と外〉テーマに独自のポップス鳴らす新作

arko lemming『S P A C E』

撮影/タイコウクニヨシ
 

東京発の4人組バンド、toldのベーシストであり、ドレスコーズ0.8秒と衝撃。などでサポート・メンバーも務めるなど多彩な活動を続ける有島コレスケ。彼がすべての楽器を自身で演奏するソロ・プロジェクト、arko lemmingがセカンド・アルバム『S P A C E』を完成させた。

過去に録り貯めたナンバーのアーカイヴ的な作品だった前作『PLANKTON』(2015年)に続き、今作は楽曲のテーマによって〈OUTER〉と〈INNER〉に振り分けた2枚組仕様。架空の人物が想像する外の世界(OUTER)と内面の世界(INNER)を対比させ、SF映画にも通じる壮大なストーリーを提示している。そして最大のポイントは、それぞれに〈dual〉という楽曲が異なるアレンジで“dual-O”“dual-I”として収録され、その2曲を同時再生すると新たなナンバー“dual-TRACK”に生まれ変わるということ。果たしてここには、どんな意図が込められているのだろうか? 今回は『S P A C E』のジャケット写真を手掛け、この後のインタヴューにある通り〈似た者同士〉だと互いに認めるカメラマンのタイコウクニヨシ氏にも同席いただき、一見謎に包まれた大作の全貌に迫った。

『S P A C E』トラックリスト。Disc1の“dual-O”とDisc2の“dual-I”を同時再生すると“dual-TRACK”となる
 

arko lemming S P A C E SMEJ(2016)

 

〈OUTER〉と〈INNER〉のどちらも肯定したい

――『S P A C E』は〈OUTER〉と〈INNER〉という対になる作品を収めた2枚組となっていますが、このアイデアはどのように出てきたものだったんですか?

有島コレスケ「もともと出来上がった曲のタイプが明確に2つに分かれていたんですよ。最初はそれを1枚にしようと思ったんですが、(制作スタッフから)〈2枚組でどう?〉と提案をいただいて、それが自分でも腑に落ちたんです。作る段階で開けたものを作ろうという意識で出来たものと、打ち込みとアコギ、歌だけで作ったわりと内省的なものがあったんですけど、それには後から気付いたという感じで。そこから作品をまとめるコンセプトを考えていきました。今回は〈OUTER〉で架空の人たちの話を、〈INNER〉では比較的自分に近い話を描いているんですけど、その人物は僕自身というわけでもなくて、とある人物が想像する外側の世界が〈OUTER〉で、実際の世界が〈INNER〉になっているんです。現実の世界には人がいないという設定なんですよ」

――まるでSF映画のようですよね。有島さんが好きなSF映画はありますか?

有島「僕はバッド・エンド的な、ディストピアな世界観に惹かれるんです(笑)。ここ1年で観たものだと『アンダーグラウンド』(95年)が好きでした。ラスト・シーンのディストピア感がすごく好きで。それは自分のめざすもののひとつかな、とは思いましたね」

有島コレスケ
 

タイコウクニヨシ「ユーゴスラヴィアの巨匠エミール・クストリッツァの、90年代の作品だよね」

有島「それを2016年にやっと観たという(笑)」

タイコウ「僕もこの映画は大好きで、よく人に薦めるんですけど、(ドレスコーズの)志磨遼平くんのライヴの撮影に行ったときに僕がクストリッツァのTシャツを着ていて、その話でみんなで盛り上がったんですよ。その後にコレちゃん(有島)も観たという話を聞いて。あの映画は音楽映画でもあって、バルカンチックないい音楽が流れているし、ラスト・シーンだけじゃなく全部いいんですよね」

有島「それを踏まえて、いろんな悲喜こもごもが詰まったラストが本当に素晴らしいんです。ブラック・ユーモアのような、でも決してユーモアとは言えない切なさもある」

――そのラスト・シーンはどんなものなんですか?

タイコウ「表の世界を見ないようにコントロールされている地下世界の話なんですけど、いろいろあって最終的には表を見るようになっていく。昔で言うと『メトロポリス』(1927年)なんかにも近い感じです。最後は表に出て死んだ人も一緒に晩餐をするんですけど、晩餐をしている人たちの島が陸地から遠ざかっていくと、陸から離れた後の形がユーゴの大陸になっていて。クストリッツァはユーゴの内戦を経験した人間なので、そういうメッセージもある映画になっている」

「アンダーグラウンド」のラスト・シーン
 

有島「いま思えば、あの映画の〈地下〉と〈表〉が対比する感じは、今回の〈INNER〉と〈OUTER〉という仕様にも影響しているかもしれないです」

タイコウ「あれを観た頃は、もうアルバムを作ってたの?」

有島「まだ録りはじめぐらいの時期だったと思います。だから映画を観ていて、作品の縁取りが強くなった部分はあるのかもしれない」

――とはいえ今回の作品では2つに分かれた〈OUTER〉と〈INNER〉が、どちらにも収録されている〈dual〉(“dual-O”“dual-I”)という楽曲によって1つに繋がっています。歌詞にも〈回るコインのよう/どちらも同じでしょう?〉というフレーズが登場しますが、これはとても重要なフレーズですよね。

有島「そうですね。〈OUTER〉と〈INNER〉のどちらも肯定したいという気持ちがあって。実はこのアルバムを作っていた2016年は身内の不幸もあったりして、個人的に決していいとは言えない年だったんです。それで落ち込んだりもしたけど、不思議なのが、別にずっと落ち込んでいたわけでもなかった。ネガティヴになりすぎるわけでもなくというか」

――有島さん自身も2つの感情の間を揺れ動いていた、と。

有島「亡くなったからただ悲しいと思うのもどうなんだろう?という気持ちがあったんです」

――そのムードが表われているからなのか、この2曲は歌詞も同音異義語を使った2パターンに分かれていて、〈全快/全壊〉〈航海/後悔〉など、正反対のものが表現されています。

有島「そうですね。〈dual〉は2パターンになることを考えて、まず双方に共通するメロディーを作ってコードを付けながら、〈OUTER〉では生演奏っぽい感じにして、〈INNER〉では打ち込みを使うことを考えて作っていきました。そこまでは想定していたんですけど、最後に2つの曲を重ねてみると、ただ合わせただけなのに、新しい3つめの曲になった感じがしたのは想定外でした」

――そうして2つが混ざり合った“dual-TRACK”は、〈OUTER〉と〈INNER〉を見ている人物そのものを表現しているのかもしれないですね。どっちの要素もあってこそ一人の人間だ、というか。

有島「そうですね。〈OUTER〉と〈INNER〉って、いろんな意味に取ることができる言葉だと思うんですよ。単純に洋服でいうアウターとインナーかもしれないし、内面世界と外面世界や、自分の外面(そとづら)と内面のことかもしれない。それを全部合わせたものが、その人自身だというイメージです」

――タイコウさんが手掛けたジャケット写真も、その世界観を魅力的に補足しているように感じました。〈OUTER〉では有島さんの姿がぼやけていて、〈INNER〉のほうはその姿がはっきりと写ったものになっています。これはどんなふうに考えていったんですか?

タイコウ「まずはコレちゃんから作品のテーマやヴィジュアルのイメージを聞いたんですけど、〈植物なんですよ、タイコウさん〉と言われて(笑)。なのでそれは僕としてもマストで考えていく要素でした」

左から〈OUTER〉サイド、〈INNER〉サイドのジャケット
 

有島「僕のなかで〈OUTER〉を象徴するものが植物だったんです。それで室内に植物がある写真だったら、〈OUTER〉と〈INNER〉が混ざり合う雰囲気を表現できると思ったんですよ」

タイコウ「ほかのアーティストを撮るときも、僕は頭の中でいろいろと考えて現場へ向かうものの、〈絶対にこういう写真を撮ろう〉とガチガチに決め込むことはしないんです。なので、コレちゃんが言ってるのはこういうことなんだなというイメージを膨らませて、そこにシンクロしていくことを考えました。実際にメールでも結構やりとりをしたよね」

有島「お互いに参考になる画像を送り合ったりして」

タイコウ「漠然と〈あの映画っぽい感じ〉というように、肌触りを擦り合わせていったというか。僕としてはガス・ヴァン・サント監督の『エレファント』(2003年)や『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(97年)のような雰囲気かなと思って準備をしました。だから、〈OUTER〉もキラキラした外の世界にはなっていないんです。特に裏ジャケの写真は、コレちゃんのめざすものが撮れたんじゃないかな。顔は写っていないけど室外にいる写真で、コレちゃんの解釈とは違ってしまうかもしれないけど、それは〈INNER〉にいた人間が表に出た瞬間なのかもしれないし、ずっと表にいた1人ぼっちの人物なのかもしれない。そうやって内と外とが混ざり合っている雰囲気というか」

「エレファント」トレイラ―

 

ヴィジュアルと共に世界観を作り上げる

――タイコウさんは今回の『S P A C E』を聴いて、どんな感想を持ちましたか?

タイコウ「まずは単純に、〈コレちゃんすげえな!〉と思いました。前のアルバムも聴かせてもらってはいたんですが、一人でここまでできるのかと。いくらコンセプトがおもしろくても音自体が良くなければ聴けないですけど、コレちゃんは演奏も声も詞も良くて、それぞれの曲に本当にいろんな音楽的な要素が詰まっていて。一体何に影響を受けてきたのか、バックボーンについてもますます訊きたくなりました。ギターも黒いなと思う瞬間があったけど、そのあたりは話したことがなかったし。ただポップなだけじゃないものを作ろうという意思を感じましたね。本当に感動して、〈コレちゃん、お見事やで〉とLINEも送りました(笑)」

有島「そう言ってもらえたらもう満足です(笑)」

――本当にさまざまな音楽的要素が詰まりに詰まっていますよね。有島さんとしてはどんな音楽に一番近い要素が入っていると思いますか?

有島「〈OUTER〉は、ざっくり言うとポップスですよね。J-Popというよりも〈ポップス〉。〈INNER〉は、ベッドルーム・ミュージックやインディー・ロックっぽいものになっていると思います」

――確かに〈OUTER〉はファンキーなカッティング・ギターが出てきたり、シティー・ポップ的な要素を感じる曲が多い印象でした。

有島「そのあたりはちょっと意識しました。オマージュというわけではないんですが、最近はシティー・ポップが流行っていたこともあって、〈なんだよ! やってやるよ!〉と(笑)。そのままやるわけでは決してないんですけどね」

タイコウ「90年代のくるりスーパーカーのような日本の格好良いロックや洋楽の要素がありつつ、それだけでは終わらない感じというか。僕は楽器をやっているわけじゃないのであまり言えないですけど、リズムを担っている人が作っている音楽なんだなぁと。黒いグルーヴを感じられる作品だとも思いましたし」

タイコウクニヨシ
 

――〈OUTER〉は星野源さんの『YELLOW DANCER』(2015年)に通じる雰囲気がありますよね。あのアルバムも海外のR&Bやソウル・ミュージックを日本の文化と混ぜ合わせてどんなものを作るか、ということを突き詰めた作品だったと思うので。一方〈INNER〉は終末的なディストピアという感じで……。

有島「精神世界にもぐっていくような雰囲気というか」

星野源の2015年作『YELLOW DANCER』収録曲“SUN”
 

――レディオヘッドの『Kid A』(2000年)に通じるような終末観を感じました。

有島「実は〈INNER〉は、レディオヘッドみたいになりすぎるのを避けようと思っていたんです。ディアハンターブラッドフォード・コックスによるソロ・プロジェクト、アトラス・サウンドのようなイメージというか、暗くなりすぎないことが重要だったんです。アトラス・サウンドの作品ってすごく楽しそうなものもあるじゃないですか?」

――楽しそうな雰囲気なのに、めちゃくちゃ狂っている音楽ですよね。

有島「そうそう(笑)。あの感じに近いかもしれない」

アトラス・サウンドの2011年作『Parallax』収録曲“Terra Incognita”
 

タイコウ「確かにディアハンターの感じはあるよね。変な意味じゃないんですが、コレちゃんは日常的には〈INNER〉側の人間なんじゃないかと思うんですよ」

有島「シティー・ポップみたいな日常は送っていないですね(笑)」

――ハハハ(笑)。また、資料にある〈ロボットのコーラス〉というアイデアもおもしろいですし、〈INNER〉にはいろんな種類の終末観が詰め込まれています。

※〈INNER〉の3曲目“アロウ”について有島は、朽ち果てた教会に放置されたロボット4体によるコーラスから始まる楽曲だとコメントしている

有島「作り方として、ヴィジュアル面から入っていった感じはありますね」

タイコウ「そういう意味でも、コレちゃんの音楽の作り方と、僕の写真の撮り方はすごく似ていたのかもしれない。だからこそほんの少し共有するテーマがあれば、あとは撮れば大丈夫、という雰囲気になったのかも」

――〈INNER〉の世界観には、ヴェイパーウェイヴ的な要素も関係していると思いますか?

有島「はい。コンセプトも曲も歌詞も全部出来上がってから、最終アレンジで水の音を入れたり、ループ的に音を入れたりして、その感じも出せたらなとは思っていたので。今回自分が描いた世界はそういうものに近かったです。それに、シーパンクとかもそうですけど、ヴィジュアルと一緒に同時多発的に作り上げられていくカルチャーってすごくおもしろいと思っていて」

――ヴィジュアルと合わせて世界観が広がっていくという意味で、まさに今回のアルバムにも通じるものがありますね。

有島「そうですね」

タイコウ「そんな作品に呼んでいただいて、本当に光栄でございます」

有島「タイコウさんは超人強度が97万パワーですからね(笑)」

※漫画「キン肉マン」に登場する超人のパワーを表わすための指数。97万パワーはキン肉マンやテリーマンよりも上のラーメンマンに相当!

タイコウ「ハハハ(笑)! コレちゃんとはすごく頻繁に会っているわけではないですし、世代も全然違いますけど、どこかウマが合うんですよ」

――お2人が出会ったのは今作がきっかけではない?

タイコウ「ドレスコーズのライヴ写真を撮らせてもらっているときに出会いました。一番最初は確か1年前、中村達也さんと西くん(越川和磨THE STARBEMS)、コレちゃんがサポートを務めたライヴだよね(〈SWEET HAPPENING~the dresscodes 2015“Don't Trust Ryohei Shima”JAPAN TOUR~〉の東京公演)。コレちゃんはおとぎ話と一緒にやっていたこともあるので話は以前から聞いていたんですが、初対面のときは結構バタバタで、撮影も30秒ぐらいしか時間がなくて全然話せなかったんです(笑)」

〈SWEET HAPPENING~the dresscodes 2015“Don't Trust Ryohei Shima”JAPAN TOUR~〉トレイラー
 

有島「僕もその日は中村達也さんと初対面でガチガチに緊張していて(笑)」

タイコウ「その後、また撮影で一緒になったときに、バックステージで映画や音楽の話をしていたら、コレちゃんが『キン肉マン』が好きだと言い出して……。僕は『キン肉マン』が好きな人はみんな友達だと思ってるんですよ(笑)」

有島「『キン肉マン』が好きな人に悪い人はいない(笑)」

――まさかの『キン肉マン』きっかけですか……!

有島「〈友情パワー〉ですから(笑)」

※『キン肉マン』において、友情によって生み出される潜在能力

タイコウ「そうなるとますます興味が湧くじゃないですか。〈何でそんなに好きなんだ、俺の『キン肉マン』を……!〉と。もちろん、コレちゃんの音楽も好きですけど、そういうところで話が合うと会話にも俄然グルーヴが出てくる」

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