昨年9月に発表されたデビュー・アルバム『A Moment Of Madness』が〈2016 BBC Music Awards〉で〈Introducing Artist Of The Year〉を受賞し、ブリット・アワード2016では批評家賞候補に選ばれるなど、期待に違わぬ大型新人ぶりを発揮しているUKのソウル・ポップ・シンガー、イジー・ビズ。〈タワレコメン〉にも選出され、日本でも一層注目を集める彼女が、ついに初来日を果たした。アルバム発表以前からルディメンタルフォクシーズジェス・グリンなどのサポートを務め、〈グラストンベリー〉や〈ロラパルーザ〉などの大型フェスにも出演。さらにH&Mのサマー・キャンペーンに抜擢されてインナー・サークル“Sweat”のカヴァーを提供し、みずからもCMに出演するなど、スタイル・アイコンとしての顔を持ち合わせている。コールドプレイにも大絶賛されたヒット曲“White Tiger”に代表されるオーガニックなソウル・サウンドは、彼女のルーツでもあるエチオピアの自然を連想させるもの。彼女の軽やかでスウィートな味わい深いハスキー・ヴォイスとのアンサンブルが絶妙だ。インタヴュー中もカラカラと涼やかな笑い声が印象的で、終始和やかなムードのなか語ってくれた。

IZZY BIZU A Moment Of Madness Epic/ソニー(2016)

 

〈White Tiger〉は自分に自信を与えてくれる存在なの

――昨夜のライヴはいかがでしたか?

「すごく楽しかったわ。一晩に2度ステージに立ったけど、両方とも全然違っていて」

――日本の観客を前にした初めてのパフォーマンスだから緊張していた?

「緊張はそれほど酷くなかったけれど、時差ボケでショウが始まる30分くらい前まで寝ていたの。だから起きたら喉がカラカラで〈大丈夫かしら?〉って心配だったけど、最終的には楽しく歌えたわ。セカンド・ショウはもう準備万端だったから、もっとリラックスできたかな」

――日本のオーディエンスについては、何か予備知識などは?

「少しだけね。敬意を払ってくれて、演奏が終わるまで静かに聴き入ってくれるといった話は聞いていた。誠実で素晴らしいことよね。私たちにとっては新鮮でもあるし」

――ライヴ中盤で、みんなに〈立ってください〉と日本語のMCも飛び出しましたが、普段もあんなふうに頼んだりは?

「いいえ、あんなふうに何かやってとか頼んだことはなかったわ。でも2017年だし、新しい年だから違うことをやってみようかなって思ったの。ステージの上から頼むのって、なかなか勇気がいるのよね。でも結果は大成功だったと思うわ」

――日本人はシャイな人が多いから、あのMCのあとに緊張が解けて空気が和みましたよね。

「あ、そうなんだ。私もシャイなほうだから共感できるわ(笑)」

――日本といえば、ホンネとのコラボ曲“Someone That Loves You”のビデオにも日本の影響が多く採り入れられていましたよね。彼らのことは以前から知っていたのですか?

※日本語の〈本音〉をユニット名に冠する、ロンドン発のエレクトロ・ソウル・デュオ

「個人的には知らなかったけど、私のバンドのドラマーが彼らの曲を聴かせてくれて、すぐさまファンになったの。Twitterやメールでやり取りしているうちにセッションしようってことになり、数週間後には対面して一緒に曲を作っていたわ」

――ホンネのメンバーは日本に住んでいたんですよね。

「私たちも日本に行ってビデオ撮影をする予定だったの。でも残念ながらスケジュールの都合で叶わなかった。私たちの撮影だけイギリスでやって、代わりに日本で男女カップルに演じてもらったの。すごくいいビデオになったと思うわ。実はあのビデオに出ていた女性が、たまたま今日のメイク担当者の友人だと、さっき判明して。何かの縁よね(笑)」

イジー・ビズが参加したホンネの2016年作『Warm On A Cold Night収録曲“Someone That Loves You”
 

――エチオピア人の母、イギリス人の父を持って良かったなと思うのはどういう時ですか?

「すごく良かったと思っている。2人とも結構古風なタイプだと思うのよね。父は70年代が大好きで、いつも当時の話をいっぱいしてくれて歴史の勉強になるわ。母はアフリカ育ちの伝統に従って生きるタイプで、すごくクールなの。エチオピアにいた幼い頃は、TVもほとんどなかったし、マクドナルドもなくて、いつも屋外で遊んでいた。自然と親しむことができてとても良かったわ。一方のイギリス文化も、ユーモアのセンスなどおもしろいわよね。大好きよ」

――エチオピアの音楽も聴いたりしますか?

テディ・アフロ(エチオピアで国民的人気を誇るシンガー)はいいわね。クールだと思うわ。あとエチオピアのジャズもいいし、母親がランダムに選んだ音楽をよく聴いている」

――(育った境遇によって)アウトサイダーだとか、周囲に溶け込めないと感じたことは?

「人種が交じっていると、そう感じる人も多いようだけど、私の場合は全然そういうことはなかったわ。ロンドンはコスモポリタンだし、みんなちゃんと受け入れてくれる。ロンドンは大好きよ」

―― “White Tiger”という曲で、そういった自身の境遇を希少動物の〈白い虎〉に重ね合わせているのかな、と思ったりもしたんですけど。

「アハハ! 違うの、違うの。あの曲で歌われている人は、白人ではなかったし(笑)。希少動物に例えているのは、その人といると私自身がありのままの自分でいられるからという意味で。そういう希少な存在ということなのよ。私って人前で100パーセント自分らしくいるのがあまり得意ではなかったの。でもその人と会った瞬間から自分に自信を持って、自然に笑ったり、素直に思っていることを口に出すことができた。誰にでもそういう特別な人っているんじゃないかしら。自分に自信を与えてくれる、そういう希少な存在が〈白い虎〉なのよ」

――それを〈白い虎〉に例えるところが、ユニークで興味深いですよね。

「ええ、確かに変わっているかも(笑)」

 

逃避行しているような気分を常に抱いている

――シンガーではなくソングライターをめざしていた時期もあったそうですが、どんなソングライターになりたいと思っていましたか?

エラ・フィッツジェラルドエイミー・ワインハウス、それにビリー・ホリデイ

――おっと。全員、他界してますが。

「え、みんな死んじゃったの? 私の中では全員生きてるわ(爆笑)!」

――上手いこと言いますね(笑)。では、シンガーとしてもっとも大きな影響を受けたアーティストというのは?

「たぶんエイミー・ワインハウスかな。年齢が私に近いというのも大きいし、彼女が出てきた時から、物の見方や口調がおもしろいなと思っていた。いつもすごく強気で自由奔放でしょ。それに彼女のメロディーは、もう美しいなんてものじゃない」

――もっとも大きな影響を受けたアルバムは? 

「たぶんエイミーの『Back To Black』だと思う。この1年間に関して言うとアンダーソン・パックの『Malibu』かな。ビリー・ホリデイのアルバムを挙げるのは難しいわ。いつも楽曲単位で聴いてるの。“Strange Fruit”は本当に美しい。彼女には会ったことがないけれど、彼女を知っている気にさせてくれる、そんな曲だわ」

エイミー・ワインハウスの2006年作『Back To Black』収録曲“Rehab”
ビリー・ホリデイ“Strange Fruit”
 

――デビュー・アルバム『A Moment Of Madness』の制作では、どういう作品を作りたいと考えましたか?

「あまり深く考えていなかったわね。経験したこと、思い付いたことを曲にしていった。いつも私はそんなふうに曲を作ってきたの。このアルバムの曲を作ったのはレコーディングの2年ほど前、18歳の時。その頃に起こったことを曲にしている。歌っているとまるで自分の日記を読み返しているような、そんな気分よ」

――『A moment Of Madness』というタイトルが付けられていますが、〈Madness〉(=狂気)はそれほど感じられないような気がします。

「ええ、よくそう言われる(笑)」

――こうして話していても、物腰が柔らかくて、落ち着き払っているようですし。

「外側はね。でも18歳の時の私を知らないでしょ。それにその時も私の頭の中で起こっていたことは、ほとんど誰にも話したことがなかったわ。心の奥底で感じていたことは口に出さなかった。17歳までの私って、すごく厳しく育てられてきたの。学業優先、恋人との交際も禁止。外出もままならなかった」

――厳格な家庭だったんですね。

「そうなの。でも愛情はたっぷり注がれたわ。両親が私に最高の人生を願っていたのは確かだもの。でも、そのあと私は独立すると、知らない世界を体験する決心をした。私にとっては一大決心よ。かなりショッキングだった。そういう時期にあったの」

――これまでの人生でやった一番クレイジーなことは何ですか?

「一番クレイジーなこと? 何だろう……。一度窓によじ登って自分の部屋から抜け出したことがあるわ。出掛けたくて仕方がなかったの(笑)。全然クレイジーじゃないかもしれないけれど、どうしても週末に出掛けたくて、窓から抜け出したら裏庭のフェンスの上に着地。擦り傷を負ったわ。意地でも最終電車に乗ってパーティーに行きたかったの(笑)」

――楽曲のスタイルが洗練されているのも、〈狂気〉からかけ離れて聴こえる理由かもしれないですよね。

「そうね、言いたいことはたくさんあったけれど、すべてを晒け出すのは恥ずかしいという気持ちもあったから……」

――表現を和らげている?

「そう、和らげている。もし歯に衣着せぬストレートな歌詞だったら、どうだったのかなって思うわ」

――異邦を旅しているような、そんな気分にさせてくれるのもあなたの曲の特徴じゃないかと思うのですが。

「ええ、子どもの頃に父親に連れられていろんな国を旅したの。エチオピアにはよく行ったし、アブダビなどへも。それによく引っ越ししていた影響も大きいわ。だから自然と逃避行しているような気分を常に抱いているのは確かよ。ロンドンに移住してからも、そういった日々を回想しながら曲を書いてきた」

――東京やロンドンの冬は寒すぎないですか?

「そうね、ロンドンは寒いわ。少しずつ慣れてきたけど」

――昨夜のライヴでは“Talking To You”というアップテンポのナンバーでひときわ盛り上がりましたが、あれは新曲?

「ええ。少し違うことをやってみたくて試したら、みんなから〈すごくいい曲!〉って言われて公表することにしたの。実験的な感じかしら」

※『A Moment Of Madness』のデジタル配信版に収録

――今後はそういった方向性に?

「いえいえ、そういうわけじゃないわ。もっと違う方向性を考えているの。次のアルバムにはデビュー作のスタッフにもまた参加してほしいと思っているけど、違った人たちとも仕事をしてみたい。実際に、すでに数人と作業を始めたわ。いま考えているのは、ライヴでも少し披露したギターをメインに据えたタイプの方向性よ。でも、もちろん私のことだから、また気が変わっちゃうかもしれないけれど(笑)」

 

並々ならぬポテンシャルを証明した初来日公演をレポート!

新年早々に東京/大阪で初来日公演を行ったイジー・ビズ。1月8日にBillboard-LIVE Tokyoで開催された公演には、UKソウルの新星を一目観ようと多数のオーディエンスが詰めかけ、満員御礼となった。ここからは、当日のレポートをお届けしよう。

開演時刻になると、作曲パートナーでもあるミカ・バルー(ギター/ベース)、チャド・エドワーズ(キーボード)とベン・バテン(ドラムス)から成る3人組バンドを引き連れてイジーが登場する。彼女の立つステージ中央にはカラフルなラグが敷かれており、独特なファッション・センスも含めて、エチオピア×ロンドン出自のハイブリッドな感性が窺えた。ライヴは『A Moment Of Madness』でもオープニングを飾る“Diamond”でスタートすると、アップテンポで踊れる曲からしっとり聴かせるバラードまで、緩急自在のセットリストでオーディエンスを惹き込んでいく。多彩なレパートリーはアルバムを一枚発表しただけの新人と思えないほどで、デビュー作の充実ぶりを再認識させられた。

白眉だったのは、ミカの弾くギターと歌によるアコースティック・アレンジの“Confession Song”。剥き出しとなったイジーの声は迫力に満ちており、ヴォーカリストとしての天性を感じずにはいられなかった。ステージ序盤こそ固さも感じられたが、このあたりからアクセル全開。終盤は、パワフルなドラムが痛快な“Give Me Love”から、壮大なスケール感に圧倒される“Mad Behavior”と人気曲を立て続けにプレイし、現時点での代名詞的なナンバーである“White Tiger”で興奮のフィナーレを飾った。

アンコールの“Floating Lamps”では、イジーを含むメンバー4人がステージ中央に敷かれたカラフルなラグに座り、アットホームな雰囲気のなかでアコースティック・セッションを披露。こういった人懐っこさも彼女の魅力だろう。続く“I Know”ではコール&レスポンスもバッチリ噛み合い、終演後も拍手はしばらく鳴り止まなかった。こうして日本での人気や、並々ならぬポテンシャルを証明してみせた彼女。次の来日がいまから待ち遠しい。

SETLIST

1st SHOW
1. Diamond
2. Fly With Your Eyes Closed
3. Skinny
4. Sweet Like Honey
5. Naïve Soul
6. Circles
7. Adam And Eve
8. What Makes You Happy
9. Confession Song (Acoustic)
10. Lost Paradise
11. Open To You
12. Talking To You
13. Give Me Love
14. Mad Behavior
15. White Tiger

Encore
16. Floating Lamps (Acoustic)
17. I Know

2nd SHOW
1. Diamond
2. Fly With Your Eyes Closed
3. Skinny
4. Naïve Soul
5. Circles
6. Adam And Eve
7. What Makes You Happy
8. Confession Song (Acoustic)
9. Lost Paradise
10. Open To You
11. Talking To You
12. Sweet Like Honey
13. Give Me Love
14. Mad Behavior
15. White Tiger

Encore
16. Floating Lamps (Acoustic)
17. I Know