City Lights
©Roy Export S.A.S

最高の演奏と最高の映像で甦るチャップリンの最高傑作「街の灯」これぞ本物のチャップリンだ!

 ここ数年、映画全編を上映しながら音楽をオーケストラ(またはバンド)が生演奏する企画が格段に増えた。しかしながら、これがコンサートの1ジャンルとして定着したかというと、必ずしもそうではないだろう。ここ40年くらいの映画をやる場合、もとのサントラの完成度が高いので、そのサントラを凌駕するくらいの演奏でなければ、わざわざオーケストラで生演奏する意味がない。では、わざわざやる意味がある映画とは? 映画本編が名作なのは最低条件だが、それに加え、もともと音楽が欠けているサイレント映画を伴奏するか、サントラの音質が劣悪だった作品を理想的な状態で演奏するか、サントラの作曲家本人が演奏に参加するか、あるいは音楽を全部入れ替えて演奏するか、いずれかの条件を満たしていることが必要だろう。このうち、劣悪なサントラで録音されていたスコアを生演奏することで、世界中で驚異的な動員を記録し続けているのが、他ならぬチャールズ・チャップリンの作品だ。

 彼の最高傑作とされる「街の灯」で、チャップリンは初めて映画全編に音楽を付けた。この作品では盲目の花売り娘がヒロインとして登場するが、もともとは“ラ・ヴィオレテーラ(すみれの花売り娘)”というシャンソンをヒットさせたスペイン人歌手ラケル・メレがキャストに予定されていた。「街の灯」の中で、このシャンソンが“愛のテーマ”として何度も登場するのは、その名残である。

 物語の中で、盲目の花売り娘と浮浪者チャーリーは、ふたりが交わす言葉と、肌の触れ合いの触覚を通じて愛を育んでいく。しかしながら、「街の灯」は2次元の平面に映し出されるサイレント映画であるがゆえ、言葉も触覚も間接的にしか表現することが出来ない。その矛盾を乗り越えるためにチャップリンが選んだ手段が、すなわち“ラ・ヴィオレテーラ”を始めとする音楽なのだ。

 音楽の才能に恵まれたチャップリンは、「街の灯」のために6週間を費やして120曲ものキューを作曲し、5日間のオーケストラ・セッションでサントラを録音した。だが、現行版ブルーレイからもわかるように、その音質はあまりにも貧弱だ。幸いにして、当時の録音に使用された楽譜が保管されている。2004年、指揮者ティモシー・ブロックがその楽譜を校訂し、1930年代特有の演奏スタイルを復元した〈ピリオド・アプローチ〉によって、録音当時の状態を再現した演奏が可能になった。そのブロック本人を指揮者に迎え、チネテカ・ディ・ボローニャ修復のデジタル・リマスター版を上演しながら演奏される「街の灯」。最高の演奏と最高の映像、これぞ本物のチャップリンだ。

 


INFORMATION
新日本フィルの生オケ・シネマ Vol.2 《街の灯》
~チャーリー・チャップリン没後40周年記念~
チャップリン《街の灯》

2017年5月27日(土)東京・錦糸町 すみだトリフォニーホール
■昼公演
開場/開演:12:15/13:00

■夜公演
開場/開演:16:15/17:00
出演:ティモシー・ブロック(指揮)/新日本フィルハーモニー交響楽団
オープニングチャップリンパフォーマンス:山本光洋
https://www.triphony.com/