INTERVIEW

三浦大知『HIT』 デビュー20周年で身につけた、色気や深み纏う大人の作法「自分をアップデートしながらずっと続けたい」

三浦大知『HIT』 デビュー20周年で身につけた、色気や深み纏う大人の作法「自分をアップデートしながらずっと続けたい」

自分なりのトレンドを楽しむ。それが色気や深みを身につけた大人の作法――FEVERの後にこんな色とりどりのEXCITEが私たちの心をHITするとは!

 

大風呂敷を広げてみる感じ

 『FEVER』という前作のタイトルは予言的だったのか。同作リリース後、2016年の三浦大知を待っていたのは、さらなる熱狂だった。Seihoとコラボした“Cry & Fight”は野心的なフューチャー・ベースの意匠と共に〈最高難度〉を謳ったパフォーマンスがTVでも評判に。ブレーンのUTA、MOMO "mocha"N.とのR&B作法を深化した次のシングル“(RE)PLAY”は、世界的なダンサーたちを招いた豪華なMVも反響を呼んだ。そして年明けのシングル・ヒットとなった「仮面ライダーエグゼイド」の主題歌“EXCITE”だ。

 そうしたリリースと並行したツアーのファイナルでは、国立代々木競技場第一体育館を舞台に自身の最多動員を記録してもいる。ニュー・アルバム『HIT』は、もちろんそうした一連の好況に対する彼なりのリアクションでもあるわけだ。

三浦大知 HIT SONIC GROOVE(2017)

 「そうですね、2016年は初めて呼んでいただく番組やイヴェントが多かったり、『仮面ライダーエグゼイド』もあって、まだ行けてなかったエリアで三浦大知を知ってもらえる機会がちょこっと増えた年だと思うんですね。だから、いままでももちろんそうではあったんですけど、ずっと応援してくださっている方々と、初めて三浦大知のアルバムを聴く人たち、その両方に楽しんでもらいたいという気持ちが強くあったので、あんまりコンセプチュアルにするよりは、いま自分に〈HIT〉してるもの……好きなもの、やってみたいことを表現して、それが今度は聴いた皆さんに〈HIT〉するといいな、って。あとは“Hang In There”って曲の頭文字でもあって、凄く理想ですけど、やっぱ音楽は救いでありたいというか、三浦大知の音楽が人生の中で励みになったり、何かの気付きになったり、そういう作品になるといいな、みたいな思いも込めて。まあ、自分から大風呂敷を広げてみる感じもおもしろいんじゃないかと思ったので(笑)、このタイトルにしてみました」。

 その“Hang In There”は、Nao'ymtらしいメッセージが聴く者を鼓舞するダンサブルなクロージング・ナンバー。一方、アルバム冒頭の“Darkest Before Dawn”も同じくNao'ymtの手掛けた楽曲で、夜明け前の暗闇を一条の光で照らすような雄大なスケール感が、このコンビならではの美に溢れていて素晴らしい。同時に、〈たとえ一歩でも踏み出して〉と歌いかけるエンディングの“Hang In There”からリリック的にも繋がってくるような構成になっているのが興味深いところだ。

 「もう、ホントその通りですね(笑)。僕の中では“Hang In There”が1曲目で、そこから頭の“Darkest Before Dawn”に繋がるっていうのが自分なりのテーマとしてあって。回ってるっていうか、アルバムってことを考えると、やっぱり繰り返し聴いてほしいっていう思いもありますし。Naoさんの曲は自分の作品でいつも鍵になるところがあって、今回も早い段階で“Hang In There”があったので申し分なかったんですけど、別の曲があるということで聴かせてもらったらどうしても歌いたくなって、急遽歌わせてもらったのが“Darkest Before Dawn”なんです。出来上がった時は、アルバムの方向性を印象付ける一曲になるんじゃないかな……みたいなところもありました。あ、でも一番最後に出来た曲なんですけど(笑)」。

 

欲張らないというトレンド

 そんな重要な両曲にサンドイッチされる格好で、アルバムには多様な楽曲が用意されている。「全部生で、ちょっと土着感があって、ちょっと埃っぽい、ファンキーな感じで踊りたいと思って」オファーしたというSOIL &“PIMP”SESSIONSがサンバ調の“Rise Up”を仕立てていたり、珠玉のスロウ“Star”が静かに輝いていたり、楽曲ごとのテイストも、関わった制作陣の顔ぶれも実にさまざまだ。

 「基本的にはレーベルのスタッフさんと相談して、自分が気になったトラックをどんどんピックアップしていく感じでした。あとは“EXCITE”などを一緒にやったKanata Okajimaさんから〈仲のいいロンドン・ノイズと一緒に大知君に書いてみようかな〉っていう話があって“Neon Dive”が出来たり」。

 作品全体から伝わってくるのは、固有のトレンドに大きく舵取りを委ねていないことだ。例えばロンドン・ノイズはヒネリの利いたディスコ・ポップ“Neon Dive”とドラム・ブレイクとホーンがグルーヴィーな“Body Kills”というアルバム中でも極めてブライトな2曲を手掛けているが(いずれもKanata Okajimaが作詞)、UKや韓国で指折りのヒットメイカーとなっている彼らと組んでも、仕上がりは絶妙に大知のカラーになっているのが頼もしい。

 「流行りがそのまま入ってるっていうことはないような気がしますね。まあ、いわゆるブルーノ・マーズみたいなものも、フランシス&ザ・ライツとか、もっとアンビエントなものも自分は好きでいろいろ聴くので、逆にまったく同じことをやるのは何かちょっともったいないな、みたいな。良い意味で何か違和感を感じる曲だったり、そういうものを選んでるって感じかなって思います。まあ、基本的にヒネくれてるので(笑)。だから、そのエッセンスを含みながら、何か全然違うものとか、おもしろい構成になってるとか、そういうちょっとヘンなものが好きは好きですよね。今回でいうと例えば“Darkroom”のケプラーは、他の作品を全然知らない海外のクリエイターなんですけど、デモを聴いた時にこの泣きのギターがサビにきてて、もうヘタしたら演歌みたいに日本的で。けど、サウンドはちゃんと現代的な抜けもあって、アンビエントな感じもあって、凄いおもしろいバランスだなって思って選びましたね」。

 そうした発言を踏まえて各曲を聴くと、安直にトレンドとされるサウンドの定石を行かない、定型に乗りすぎないことで際立つオリジナリティーの正体も見えてくるのではないだろうか。

 「今回のアルバムで自分的な〈トレンド感〉みたいなものをどこに置いたかというと、たぶん〈欲張らないこと〉かなと思っていて。例えばクリス・ブラウンがSoundCloudにアップしてる曲とか凄い好きだったんですけど、さっき話に出たブルーノとかも、どこか肩の力が抜けてて、余裕があって、楽しんでるっていうか。何かその、いわゆるEDMっぽいものがひとつ落ち着いて、トロピカルみたいな感じがきて、フューチャー・ベースっぽいのがきて、そこからまたちょっと原点回帰っぽいところもありながら……って時代の音が変わっていくなかで、いま自分が好きな音楽に共通してるのは〈欲張ってない〉ことだなと思って、何か〈ハイ、ここで盛り上がって〉みたいなお膳立てをしないというか、聴く人がそれぞれいろんな気持ちで聴けるような、自分はそこがイマっぽい気がしたので、そういうところだけ採り入れられたらいいなとは思ってました。サウンドの方向性として、あんまり欲張らないっていうのは1つのキーワードなのかなって思いながら曲を選んだりしてましたね」。

 

昔とは違う視点

 そのように刺激的な楽曲の装填された『HIT』だが、いつも以上に受け手をヒットするのは、深みを増した歌詞の世界もそうかもしれない。なかでもトロピカル・ハウスをうっすら下地にまぶして静かなメッセージで世の中を見つめる“誰もがダンサー”は、大知自身による詞が深く刺さってくる。

 「嬉しいですね。“誰もがダンサー”は、自分がダンスで注目していただけているっていう現状もあるので、ダンスに例えて何かを書くのもおもしろいかなと思った時に、みんなが踊っているように見えるというか、踊っている時も踊らされてる時もあるけど、みんなそれぞれの場所で踊ってるし、闘ってるんだという部分に繋がるんじゃないかと思って。それを〈誰もがダンサー〉っていう言葉に落とし込んだ感じです。同じことを繰り返す日常で、開けているようで広がりがないみたいな感覚に陥ったりする時もあるじゃないですか。それでもやっぱりやり続けることが大事で。“Darkest Before Dawn”もそうですけど、うまくいかないことや報われないことのほうが多いけど、だからこそ幸せがあるっていうか、そういう部分が歌えたらいいなと思っていたので」。

 そこから伝わるのは、“Darkest Before Dawn”に顕著なNao'ymtの言葉の深みに、大知の成熟が追いついたかのような一体感だ。その雰囲気が全体を包むことで、この『HIT』という表題に〈心を打つ〉という意味が生まれている。

 「たぶん、それがいま自分にとってリアルになってきたんじゃないですかね。R&Bマナーとして恋愛の歌だったり、片思いの歌だったり、そういうものはもちろんこれからも歌うだろうし、エンターテイメントのひとつですけど、多少ノンフィクションで自分が思っていることを歌詞にしようとした時に、そういう人生観がリアルになってきたというか。もちろん“Darkroom”みたいにフィクションっぽく書いたりもしますけど、それでも何か1つ自分が言いたいことを入れたいという欲も出てきたので。まだまだ作詞もわからないことだらけですけど、確かに昔とは違う視点になってきた気はします」。

 よく考えると、Folder時代から数えて今年でデビュー20周年。8月には30歳の節目を迎えるわけで、こうした変化も必然だろう。それがまた大知のグッド・ミュージックを進化させていくに違いない。

 「もちろん〈ああ、これだけ続けさせてもらえたんだな〉っていう感謝の気持ちを皆さんに返していきたいなって感じてますし、だからこそ〈がんばらないとな〉みたいなところですよね。やっぱり1年目があったから20周年があるわけで、そういう積み重ねをコツコツやるのが〈三浦大知らしさ〉だと思っているので、いままで以上にしっかり自分をアップデートしていかなきゃいけないなって。この先どうなるかはわからないですけど、JBやマイケルみたいにその年代だからこそ出せるカッコ良さも絶対あると思うんですよ。自分も歌とダンスが年齢やキャリアとうまくシンクロして、ずっと続けられたら最高だなと思ってます」。

 間に休止期間はあるものの、20年間も理想を追求しながら最前線で活動できるアーティストもそうはいないだろう。だからこそ、20年目のキックオフに“EXCITE”がキャリア初のオリコン首位を獲得したのは、良いボーナスだったのかもしれない。

 「ホントそう思います。逆に言うと、これが1~2年目とかじゃなくて良かったんだなとも思うし、それも〈やっぱり続けてきたからだな〉って思えるので、うん、浮き足立つことなく、いままで通りコツコツ行けたらいいなと思います。このアルバムはもう『HIT』ってタイトルを付けちゃったんで、多少はヒットしてもらわないと困りますけど(笑)」。

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